最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 別掲商標は、1文字目のみ大文字で、かつ、残りの2字は小文字で書し、さらに語尾に感嘆符「!」を付してなるものであるから、一国際機関「国際交通フォーラム」の略称を表したものと理解するとは言えず、これを登録しても国際信義に反しない、と判断された事例
(不服2012-9507、平成24年9月6日審決、審決公報第155号)
別掲(本願商標)
 
1 本願商標
 本願商標は別掲の構成よりなり、第16類に属する商品(その後、補正)を指定商品とて、平成23年5月30日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は「本願商標は一国際機関『国際交通フォーラム』を表示する標章『FIT』と同一又は類似する『F』『i』『t』の欧文字3文字を含むから、これを出願人が指定商品に商標として使用した場合には、需要者間に上記『国際交通フォーラム』と何等かの関係を有する者の商標であるかの如く誤信させる虞が認められ、国際信義上穏当でない。従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は別掲の通り、「Fit」の欧文字を1文字目のみ大文字で、残りの2字は小文字で書し、これに記号「!」を付してなる処、構成中の「Fit」の文字は「ふさわしい、ぴったり合う」の意味を有する平易な英語であり、我国においても一般に馴染みのある語である。
 そして、何等かの機関や組織名の略称として使われる欧文字は、例えば、「EPO」(European Patent Office)、「WTO」(World Trade Organization)等のように名称の頭文字を取って全ての文字を大文字で記載することが多い。
 してみれば、本願商標は1文字目のみ大文字で記載し、残りの2字は小文字で書したものであることに加え、語尾に感嘆や強調を表す記号(感嘆符)「!]を付してなるものであるから、これをその指定商品に使用するときは、取引者、需要者は、何かの頭文字をとった略称を表したものと認識するよりは、よく知っている英単語からなるものと認識し、「(何かに)ぴったり合う」ことを強調したものとの意味合いを漠然と想起するというのが相当であり、「国際交通フォーラム」の略称を表したものと理解するとは言い難い。
 そうとすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者にその商品が「国際交通フォーラム」と何等かの関係を有する者の商品であるかの如く暗示又は誤信させる虞があるとは言えず、これを登録することが国際信義に反するということはできない。
 従って、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「」は、「イワタニ」と読まれるが、該読みに当てはまる姓氏「岩谷」は「イワヤ」と読まれる方がかなり多いので、一義的に姓氏「岩谷(イワタニ)」を認識させるとは言い難く、むしろ、請求人「岩谷産業株式会社」の略称を想起させるから、ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標には該当しない、と判断された事例
(不服2012-6335、平成24年10月15日審決、審決公報第155号)
 
1 本願商標
 本願商標はやや赤みがかった茶色の「Iwatani」の欧文字を横書きしてなり、第1・4・6・11・14・17・29類に属する願書記載の商品を指定商品として、平成23年5月19日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標はありふれた氏『岩谷』に通ずる『Iwatani』の文字を表したものである。従って、本願商標は商標法第3条第1項第4号に該当する。」と認定、判断して本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標はやや赤みがかった茶色の「Iwatani」の欧文字よりなる処、その構成文字に相応して「イワタニ」と読まれるものである。
 そして、この読みに当てはまる語としては、姓氏の一である「岩谷(イワタニ)」があるが、該文字は別の読みをもつ姓氏として、「イワヤ」と呼ばれる場合の方が「イワタニ」に比してかなり多いものである。
 加えて、インターネット情報によれば、該文字はガス事業等を行う企業としての「岩谷産業株式会社」が圧倒的に多く検索されるものであり、請求人の略称を想起させるものと認められるものである。
 してみれば、本願商標は上記の複数の意味合いを想起させる欧文字よりなるものであって、これより一義的に姓氏の一である「岩谷(イワタニ)」を認識させるものとは言い難く、むしろ、請求人を想起させるものであるから、単にありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とは言えず、自他商品の識別機能を果たし得るというのが相当である。
 従って、本願商標が商標法第3条第1項第4号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/6/1