最近の注目審決・判決を紹介します。
A. 商標「ワイエスワン/YS−1」は、斯かる構成で商品「薬剤」の規格、品質等を表す記号、符号として普通に使用されている事実等は発見できないから、商標法第3条第1項第5号に該当しない、と判断された事例 (不服2012-23682、平成25年3月6日審決、審決公報第161号)
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1 本願商標 |
本願商標は「ワイエスワン」の片仮名文字及び「YS−1」の文字・ハイフン・数字を上下二段に横書きしてなるものであり、第5類「薬剤」を指定商品として、平成24年1月5日に登録出願されたものである。
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2 原査定の拒絶の理由(要点) |
原査定は、「本願商標は商品の規格、品質等を表す記号・符号として普通に使用されているローマ文字2字と1桁の数字の組み合わせの一類型といえる『YS−1』の文字とその表音と認められる『ワイエスワン』の文字を上下二段に横書してなるに過ぎないから、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものと認める。従って、本願商標は商標法第3条第1項第5号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
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3 当審の判断 |
本願商標は前記1の通り、「ワイエスワン」の片仮名及び「YS−1」の文字・ハイフン・数字を上下二段に横書してなり、「薬剤」を指定商品とする処、当審において調査するも、本願商標の指定商品を取り扱う業界において本願商標のような構成の標章が、商品の規格、品質等を表す記号、符号として普通に使用されている事実は発見できない。 その他、本願商標が極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるというに足る事実は発見できない。 してみれば、本願商標が商標法第3条第1項第5号に該当するとした原査定は、妥当でなく、取消しを免れない。 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。 よって、結論の通り審決する。 |
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1 本願商標 |
本願商標は別掲の通りの構成からなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成23年11月10日に登録出願されたものである。
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2 引用商標 |
原査定において、本願の拒絶の理由に引用した登録第5325276号商標は「新世界もつ鍋屋」の文字を標準文字で表してなり、平成21年8月3日登録出願、第43類「もつ鍋料理の提供」を指定役務として平成22年5月28日に設定登録され、現に有効に存続している。
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3 当審の判断 |
本願商標は別掲の通り、左上の茶色の横長長方形内に特徴的な書体で「串カツ」の白抜き文字を配し、その右側に「串カツ」を容易に認識させる黄色味を帯びた図形を配し、これらの下部に「串カツ」の文字と同じ特徴的な書体で、大きく黒字で「新世界」の文字を配した構成からなり、これらの文字部分及び図形部分は外観上纏り良く一体的に表されている。 そして、本願商標構成中の茶色長方形内の「串カツ」の文字及び「串カツ」を容易に認識させる黄色昧を帯びた図形は飲食物の提供における食べ物を表示するに過ぎず、「新世界」の文字は「大阪市浪速区恵美須東に位置する繁華街」を表すことから、役務の提供の場所を表示し、いずれもさほど強い自他役務の識別機能を有するとはいえない。 また、本願商標は指定役務である「飲食物の提供」との関係からすれば、「串カツ」の専門店という程の意味合いを想起させる構成として理解されるから、その文字部分は一体のものとして看取され、「串カツ新世界」と言う店舗の名称等として把握されるとみるのが相当であり、請求人のホームページによれば、「串カツ新世界」と言う名称の店舗を経営している実情を窺い知ることができる。 してみれば、本願商標は構成全体に相応して「クシカツシンセカイ」一連の称呼を生じ、「串カツ新世界」という店舗の名称としての観念を生じる。 他方、引用商標は「新世界もつ鍋屋」の文字を標準文字で表してなり、構成文字は同じ書体、同じ大きさで外観上纏り良く一体的に表されている。 そして、引用商標の構成中、語尾「屋」の文字は家号や雅号等に用いられる語であるから、引用商標の斯かる構成においては、その構成文字全体をもって家号を表したものと理解され、認識されるとみるのが自然である。 してみれば、引用商標は構成文字に相応して「シンセカイモツナベヤ」一連の称呼を生じ、家号としての「新世界もつ鍋屋」の観念を生じる。 そこで、本願商標と引用商標との類否について検討するに、外観において本願商標と引用商標の構成は上記の通りであるから、両商標は外観上明妙に区別できる。 次に称呼において、本願商標から生じる「クシカツシンセカイ」の称呼と引用商標から生じる「シンセカイモツナベヤ」の称呼は、各音の音質の差、音構成の差等の相違があるから、両商標は称呼上明確に区別できる。 また、観念において、本願商標からは「串カツ新世界」と言う店舗の名称としての観念を生じるのに対し、引用商標からは家号としての「新世界もつ鍋屋」の観念を生じるから、両商標は観念上明確に区別できる。 してみれば、本願商標と引用商標とは、外観、呼称及び観念において明確に区別できるから、互いに相紛れる虞のない非類似の商標である。 従って、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく、取消しを免れない。 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。 よって、結論の通り審決する。 |