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A. 商標「南実のかぼちゃ」は、構成中「南実」が他人の氏名と同一であり、しかも、その者の承諾を得ているとは認められないから、商標法第4条第1項第8号に該当する、と判断された事例
(不服2013-5362、平成25年7月2日審決、審決公報第166号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「南実のかぼちゃ」の文字を標準文字で表してなり、第30類「菓子、パン、サンドイッチ等」を指定商品として、平成24年4月20日に登録出願されたものである(後に、「かぼちゃを使用した菓子」に補正)。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は「本願商標は『南実のかぼちゃ』の文字を標準文字で表してなる処、構成中の『南実』の文字は他人の氏名『南実』と同一であり、かつ、その者の承諾を得ているとは認められない。従って、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第8号の該当性について  商標法第4条第1項第8号は、他人の氏名を含む商標については、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができない旨を定めており、その趣旨は、人(法人等の団体を含む。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される(最高裁平成16年(行ヒ)第343号)。
 これを本件についてみると、本願商標は「南実のかぼちゃ」の文字を標準文字で表してなる処、構成中「南実」の文字部分は他人の氏名である「南実」と同一であるから、他人の氏名に該当するというべきである。
 そして、「南実のかぼちゃ」が「南実」の文字を含んでなることは、構成上明らかであるから、本願商標は他人の氏名を含むものと言わざるを得ない。  また、請求人が本願商標を商標登録することについて、当該他人である「南実」氏の承諾を得ているといえる事実は認められない。  従って、本願商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。

(2)請求人の主張について
ア) 請求人は、判決例(知財高裁平成21年(行列第10074号)を挙げ、商標法第4条第1項第8号の他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては、単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのは誤りで、その部分が他人の氏名等として客観的に把握され、かつ、当該他人を想起連想させるものであることを要する旨、主張する。
 しかし乍ら、当該判決例は他人の名称の著名な略称に係る事案であって、「著名」が要件とされず、又、「略称」でもない本件とは事案を異にし、本件の適切な前例とはいえないから、その判断に影響は与えない。
イ) 請求人は、本願商標の採択の意図や経緯等を述べ、本願商標は一連不可分の造語商標であるから、みだりに「南実」の文字部分のみを抽出し他人の氏名と即断すべきではなく、又、本願商標の指定商品に係る実情や、「南実」をインターネットで検索すると、女性の名前として多数ヒットすることからすれば、本願商標に接した需要者が、これより特定の「南実」氏を認識、想起させるものと評価することは経験則に反し許されない等、主張する。
 しかし乍ら、本願商標は他人の氏名「南実」を明らかに含み、本件において、請求人が主張するような事情が考慮されるべき理由は見出せない。
 従って、請求人の主張はいずれも採用することができない。

(3)まとめ
 以上の通り、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するものとした原査定は妥当であって、取消すことはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 別掲商標は、「警官を模したキャラクターを表す図形」であるとしても、これを指定商品に使用した場合、請求人を恰も警察と関係があると誤信すべき事情も見出せず、公序良俗を害する虞はない、と判断された事例
(不服2013-6492、平成25年8月23日審決、審決公報第166号)
別掲B
(本願商標)
 
1 本願商標
 本願商標は、別掲の通りの構成からなり、第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤、…紙類、文房具類、印刷物等」を指定商品として、平成24年1月30日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は図形を描いてなる処、その図形の帽子及びその記章の形状、制服と拳銃ホルダー、敬礼をしている姿等から総合すると警察官を描いたものと容易に想起させるものであり、本願商標を出願人に対し登録を認め独占使用を許すことは、恰も警察と関係があるものと誤信し、社会公共の利益に反するものである。従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第7号について
 本願商標は警官を模したキャラクターを表す図形であるとしても、そのことによって、本願商標を指定商品に使用した場合に請求人を恰も警察と関係があると誤信するとは言えず、それ以外に警察と関係があると誤信する事情は見出せない。その他、本願商標を指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する事情も見出せない。
 従って、本願商標は公の秩序又は善良な風俗を害する虞がある商標とは言えず、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

(2)むすび
 以上の通りであるから、本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '14/11/05