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商標「秋田竿燈かわ串」は、「秋田竿燈祭り」を認識させる「秋田竿燈」の文字と指定商品「焼き鳥」の一種を認識させる「かわ串」の文字とからなるため、これを一個人に商標登録を認めると、「秋田竿燈」の標章の使用を欲する地域周辺業者に対し、該標章の使用を不可能等とするだけでなく、商標権を巡る争い等無用の混乱を招く虞があるから、公正な取引秩序を乱し、社会公共の利益に反する虞がある、と判断された事例
(不服2013-13747、平成26年1月6日審決、審決公報第172号)
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1 本願商標 |
本願商標は「秋田竿燈かわ串」の文字を標準文字で表し、第29類「焼き鳥」を指定商品として、平成24年6月5日に登録出願されたものである。
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2 原査定の拒絶の理由の要点 |
原査定において、「本願商標は『秋田竿燈かわ串』の文字を標準文字で表してなる処、構成中の『秋田竿燈』は、『秋田竿燈祭り』を容易に認識させるものであり、また、構成中の『かわ串』の文字は本願の指定商品『焼き鳥』の一種を表すものとして認識されると言い得る。また、一般に有名な祭りはその地域の代表的な観光対象であり、本願の指定商品を含む食品の分野においては、当該祭りに因んだ商品が製造、販売されることも少なくない。さらに近年、観光資源を利用した地域活性化のための取組みが行われることも多々あることから、当該祭りの開催地の地域周辺の業者においては、誰もが自己の商品にその祭りを表す標章の使用を欲するものと考えられる。そうすると、出願人が、本願商標を自己の商標として、指定商品について独占的に使用することは、公正な競合秩序を害する虞があり、社会公共の利益に反する。従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
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3 当審の判断 |
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
本願商標は「秋田竿燈かわ串」の文字を標準文字で表してなる処、「秋田竿燈」の文字と「かわ串」の文字とを結合してなるものと看取、理解されるものであり、該「秋田竿燈」の文字は秋田市で行われる七夕祭りの行事である「秋田竿灯まつり」を認識させるものである。また、本願商標の構成中「かわ串」の文字は、本願の指定商品「焼き鳥」の一種である『鶏肉の皮をたれ・塩などをつけて串焼きにしたもの』を表す語として、広く使用されているから、本願の指定商品との関係では、商品の品質を表示するものであり、自他商品識別機能を有しないものと認められる。そうすると、本願商標において、独立して自他商品識別機能を有するのは、「秋田竿燈」の部分である。 ところで、「秋田竿燈祭り」はおよそ250年前から秋田の風俗として伝えられる祭礼であり、国が指定した秋田県の重要無形民俗文化財である。また、東北三火祭りの一つの秋田を代表する夏祭りとしても広く親しまれており、これを観賞するためのツアーも多数存在し、約140万人が来場する秋田の重要な観光資源の一と言い得る。 そして、一般に地域の祭りを観光資源とすることは、その地域の振興につながるものとして、地方公共団体と地域の業者とが一体となった取組みが行われている処、「秋田竿燈祭り」についても、秋田市、協賛企業及び地域の業者とが一体となつて企画、実行している。 加えて、「秋田竿燈祭り」を表す「秋田竿燈」や「竿燈」等の標章は秋田の土産物品等に使用され、祭りが開催される時期のみならず年間を通して広く販売されており、かかる実情に照らせば、該標章は地域周辺の業者にとっては、時期に関わらず誰もが自己の商品にその使用を欲するものである。 以上を総合勘案すれば、本願商標は構成中に「秋田竿燈祭り」を認識させる「秋田竿燈」の文字を有し、また、構成中の「かわ串」は自他商品識別機能を有しないから、かかる商標について、一個人に商標登録を認めることは、「秋田竿燈」の標章の使用を欲する地域周辺を始めとする業者に対し、該標章の使用を不可能又は困難とするだけでなく、商標権を巡る争い等無用の混乱を招く虞がある。 従って、本願商標は公正な取引秩序を乱し、社会公共の利益に反する虞があると判断するのが相当であるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。 (2)請求人の主張について 請求人は、本願の指定商品は祭りに因んだ商品とは認められないから、本願商標は社会公共の利益に反しない旨主張するが、本願の指定商品は一般に祭りが開催される地域の土産物品等として販売される食品分野に属するものであり、「秋田竿燈」等の標章を使用した食品が販売されている取引の実情を踏まえて総合的に判断すれば、「秋田竿燈祭り」を認識させる「秋田竿燈」の文字を有する本願商標について、一個人に商標登録を認めることは適当とは言えず、本願商標は公正な取引秩序を乱し、社会公共の利益に反する虞があるものというのが相当である。 また、請求人は、本願商標を使用した商品は特殊な製法で作られているため、需要者において何人かの業務に係る商品であることを認識できる旨主張するが、本願商標をその指定商品に使用した場合、取引者、需要者が、請求人の業務に係る商品であると認識するものと認める取引の実情は見当たらない。 従って、請求人の上記主張は、いずれも採用できない。 (3)まとめ 以上の通り、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取消すことはできない。 よって、結論の通り審決する。 |