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商標「政宗逸品」は、「伊達政宗の優れた品」程の意味合いを認識させるものであって、単に当該人物を認識させるものではなく、公益的な施策等に使用されている事実もないので、これを指定商品に使用しても、当該人物名を独占的に使用することにはならず、「伊達政宗」の名声、名誉を傷つけるという事情もなく、「伊達政宗」に係る公益的な施策の遂行を阻害する虞もないから、社会公共の利益に反しないし、公正な競業秩序を害する虞もない、と判断された事例
(不服2013-15754、平成26年3月10日審決、審決公報第173号)
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1 本願商標 |
本願商標は「政宗逸品」の文字を標準文字で表してなり、第29類「揚げかまぼこ」及び第30類「調味料」を指定商品として、平成24年8月2日に登録出願されたものである。
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2 原査定の拒絶の理由 |
本願商標は「政宗逸品」の文字を標準文字で表してなるものである。ところで、安土桃山・江戸初期の武将である伊達政宗は我が国において著名な歴史上の人物であり、本願商標構成中「政宗」の文字は「伊達政宗」の略称を表したものと認められる。また、「逸品」の文字については「優れた品。絶品川を意味する語であり、本願指定商品との関係においては、商品の品質誇称表示として認識されるから、自他商品の識別機能を有しないか、又は、その機能が極めて弱い部分といえる。そうすると、本願商標は構成中「政宗」の文字部分が自他商品識別機能を有していると判断するのが相当である。
ところで、伊達政宗(以下、「政宗」という。)ゆかりの地である宮城県仙台市には、政宗が築城した仙台城(青葉城)跡があり、城跡の敷地内には政宗をはじめとする歴代藩主の甲冑等を収蔵している「仙台市博物館」などがあり、多くの観光客が訪れる仙台市の観光名所となっている。また、大崎市では、「政宗公祭り」が昭和39年から開催され、毎回多くの人で賑っている。このように、歴史上著名な人物ゆかりの地では、その人物名の有する強い顧客吸引力にあやかり、記念館や博物館などが運営されていたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のためにその人物名を商標として使用したりすることも少なくない。 してみると、歴史上著名な人物名の略称と認められる「政宗」の文字を有してなる本願商標を、一私人である出願人が自己の商標として登録し、その指定商品について独占使用することは、政宗に対し格別の念を抱く地元の人々の感情を害する虞がある許りでなく、政宗の名を使用した地域興し等の公益的な施策の遂行を阻害し、その利益を損なう虞もあるから、本願商標は社会公共の利益に反し、かつ、公正な競業秩序を害するものと認められる。 従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。 |
3 当審の判断 |
本願商標は「政宗逸品」の文字からなる処、その構成中「政宗」の文字は「伊達政宗」が安土桃山時代から江戸初期において活躍し、仙台62万石を領した著名な武将であり、「政宗」と略称される場合も少なからずあるから、当該武将を想起するものといえる。また、その構成中「逸品」の文字は「優れた品」を意味するものである。
ところで、歴史上の著名な人物について、それを地域共有の財産としてその名称を使用して公益的な施策等を行う場合があり、その場合にその名称を指定商品等についてその人物と無関係の者等が独占的に使用することは、その公益的な施策の遂行を阻害し、公共的な利益を損なう結果になりうるが、商標の一部にその人物名を使用する場合は、直ちにその指定商品についてその人物名を独占的に使用することにならず、その施策を阻害するものとは言うことができない。 また、商標の一部にその人物名を使用しても、人物名を有することがその人物の名声・名誉を傷つける虞があるとまでは言うことができない。 そこで、本願商標についてみると、本願商標は「政宗」の文字を有してなるものの、「政宗逸品」の文字は「伊達政宗の優れた品」程の意味合いを認識させるものであって、単に当該人物を認識させるものではない。 そして、「伊達政宗」の文字が公益的な施策等に使用されている事実も見受けられない。 そうとすれば、本願商標をその指定商品に使用することが、「伊達政宗」に係る公益的な施策の遂行を阻害することにはならないし、また、本願商標は「伊達政宗の優れた品」程の意味合いを認識させるものであり、その人物の名声、名誉を傷つけるとする事情も窺えない。 従って、本願商標をその指定商品に使用することが、社会公共の利益に反し、かつ、公正な競業秩序を害するものであるとして、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとした原査定は妥当でなく、取消しを免れない。 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。 よって、結論の通り審決する。 |