最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「川越七福神」は、地域振興の為の観光資源の一つとして公益的な事業の遂行に使用されている事実は見出せず、川越地域の特産品や土産物に表示して地域の活性化を図るための具体的活動に使用されている等の実情も見当らないから、これをその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するとはいえない、と判断された事例
(不服2013-23406、平成26年7月31日審決、審決公報第177号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「川越七福神」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する商品を指定商品として、平成24年12月28日に登録出願、その後、本願の指定商品については、最終的に、第30類「川越市及びその周辺地域産の菓子、川越市及びその周辺地域産のパン」と補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は『埼玉県中部の市。』を意味する『川越』の文字と「七柱の福富の神。大黒天・蛭子・毘沙門天・弁財天・福禄寿・寿老人・布袋」を意味する『七福神』の文字を組み合わせて『川越七福神』と標準文字で表してなる処、近時、全国各地において、その地域の七福神をまつる寺社巡りが、信仰や観光の対象となっていることから、全体として『埼玉県川越市地域にある寺社にまつられている七福神』程の意味合いを容易に把握させるものである。また、川越地域において当該七福神を巡るコースが、観光スポット等になっていることからすると、その地域の名所の名称である本願商標を、該観光地域の川越市や上記寺社と何ら関係のない出願人が自己の商標として採択・使用することは商道徳に反するため穏当ではない。従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「川越七福神」の文字を標準文字で表してなる処、構成中の「川越」の文字は「埼玉県中部の市である川越」の意味を有し、また『七福神』の文字は「七柱の福富の神」の意味を有するものであるから、全体として「埼玉県川越市の七柱の福富の神」程の意味合いを理解させるものである。
 ところで、「七福神」である「大黒天・恵比寿(恵比須、蛭子)・毘沙門天・弁財天・福禄寿・寿老人・布袋」の神をまっる寺社が全国各地に存在することは、広く知られており、埼玉県川越市においても、七福神をまつる寺社が存在していることが窺える。  しかしながら、当審において職権により調査するも、「川越七福神」の文字が、地域振興のための観光資源の一つとして公益的な事業の遂行に使用されている事実は見出せず、また、川越地域の特産品や土産物に表示して地域の活性化を図るための具体的活動に使用されている等の実情も見当らない。
 そうすると、本願商標は、これを指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するということはできない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとした原査定は、妥当ではなく、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「山内農場」は、「山内氏による農場」程の意味合いを認識させる場合があるとしても、補正後の指定役務との関係においては、自他役務の識別機能を有する、と判断された事例
(不服2013-18272、平成26年7月31日審決、審決公報第177号)
 
1 本願商標
 本願商標は「山内農場」の文字を書してなり、第31類、第35類及び第43類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成24年4月6日に登録出願され、その後、指定商品及び指定役務については、第43類[飲食物の提供、飲食物の提供に関する指導・助言・情報の提供、会議のための施設の提供]と補正されている。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
 原査定は、「本願商標は『山内農場』の文字を普通に書してなる処、構成中の『山内』の文字は、日本人におけるありふれた氏の中の一つに含まれるから、全体として『山内氏による農場』の意味合いを認識させるに止まり、これを本願指定役務に使用しても、全国に多数存在する山内氏の内いずれかによるものか判別することができず、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標と認める。従って、本願商標は商標法第3条第1項第6号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「山内農場」の文字を標準文字で表してなる処、該文字から「山内氏による農場」程の意味合いを認識させる場合があるとしても、補正後の指定役務との関係においては、自他役務の識別機能を果たし得ないというべき事情は見出せないから、本願商標は需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標とはいえないものである。  したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。  その他、本願について拒絶の理由を発見しない。  よって、結論の通り審決する。

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '15/07/14