最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 「別掲1(本願商標)が、不正の目的を持って使用するといわざるを得ないものであり、商標法第4条第1項第19号に該当する、と判断された事例
(不服2014-26122号、平成27年7月23日審決、審決公報第191号)
別掲1
(本願商標)
 
1 本願商標
 本願商標は、別掲1の構成からなり、第18類「かばん金具、がま口口金、蹄鉄、愛玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄」を指定商品とし、平成26年4月14日に登録出願されたものである。

2 当審において通知した拒絶理由
 当審において、要旨以下の通りの拒絶理由を通知し、これに対する意見を求めた。
(1) 本願商標は別掲1の構成よりなり、米国において、「フードバイ エア ライセンシング リミテッド ライアビリティ カンパニー」社(以下「フード・バイ・エア社」という。)が、長袖シャツ等の被服について、同社の出所を表示するものとして、取引者、需要者の間に一定程度知られていたものと認められる、「フード・バイ・エア社商標」と特徴の多くを共通とする酷似した商標であるから、本願商標が、同社商標と、偶然の一致したものとは到底認められない。
(2)したがって、本願商標は、フード・バイ・エア社商標が商標登録されていないことを奇貨として先取りし、剽窃的に本願商標を登録出願し、その登録を受けようとしたものというのが相当であって、不正の目的をもって使用するものといわざるを得ないから、商標法第4条第1項第19号に該当する。


3 当審の判断
 本願商標は、特定の観念を生じることのない造語であって、文字の組み合わせに構成上顕著な特徴を有する。
 一方、「フード・バイ・エア社商標」及び「HOOD BY AIR.」一連の商標は、米国において、長袖シャツ等の被服について、同社の出所を表示するものとして、取引者、需要者の間に一定程度知られていたものと認められる。
 本願商標とフード・バイ・エア社商標とは、同一の文字構成であること、同じく書き出し位置を縦にそろえた三段書きであること及び同じくやや縦長の太字のゴシック体が用いられていることから、その構成における特徴の多くを共通とする酷似した商標といわざるを得ない。
 よって、本願出願前より米国で取引者、需要者の間に広く認識されているフード・バイ・エア社商標と酷似するものである。しかも、本願商標は、特定の観念を生じることのない造語であって、フード・バイ・エア社商標と構成上の顕著な特徴を共通にするものであることから、本願商標を採択するに際し、偶然に一致したものとは到底認められない。
 そして、本願の指定商品と、フード・バイ・エア社商標を付した「フード バイ エア社」の使用商品である被服等とは、いずれもファッション関連商品であり、統一ブランドの下にファッションをまとめようとする昨今にあっては、密接な関係にある商品であり、取引者、需要者が共通しているといえることなどを総合勘案すると、本願商標の登録出願時に、同社商標の存在を熟知していたものというべきであり、同社商標が商標登録されていないことを奇貨として先取りし、剽窃的に出願し、その登録を受けようとしたものというのが相当であるから、不正の目的をもって使用するものといわざるを得ない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものであるから、登録することができない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「ISO−CHILL」は、公益に関する団体であって営利を目的としないものである「国際標準化機構」を表示する、著名な標章「ISO」と類似の商標であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する、と判断された事例
(不服2014-24233号、平成27年6月5日審決、審決公報第192号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「ISO−CHILL」の文字を標準文字で表してなり、第29類「乳清を使用してなる食用たんぱく、食用たんぱく、乳清、乳製品」を指定商品として、平成25年12月16日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶理由の要点
 原査定は、「本願商標は、国際的な規格・単位・用語などの標準化を推進する国際機関である『国際標準化機構(International Organization for Standardization)』の著名な略称『ISO』の文字を含むから、公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する著名な標章と同一又は類似のものであるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 「ISO」の文字は、「アイエスオー」又は「イソ」と称呼され、「国際標準化機構」を表す略称として、様々な辞書、ウェブサイト等に掲載されており、我が国のみならず、世界各国において広く知られている標章である。よって、「国際標準化機構」は、公益に関する団体であって営利を目的としないものといえ、その略称「ISO」も著名な標章というべきものである。
 また、本願商標は、「ISO」及び「CHILL」の各文字を「−」(ハイフン)を用いて結合した「ISO−CHILL」の文字を標準文字で表してなり、それを構成する「ISO」及び「CHILL」が辞書に掲載されているとしても、本願商標全体が一連一体の語句として特定の意味合いをもって、一般に親しまれているということはできない。
 そうすると、本願商標は、ハイフンにより「ISO」の文字部分が分離して看取され得るといえ、該文字部分に相応して、「アイエスオー」又は「イソ」の称呼をも生じ、該文字部分から「国際標準化機構」の観念を生じるものとみるのが相当である。
 したがって、本願商標は、著名な標章「ISO」と、全体の外観は相違するものの、「ISO」の文字部分において外観が類似し、称呼及び観念を同一にする、類似の商標である。
 よって、本願商標は、公益に関する団体であって営利を目的としない「国際標準化機構」を表示する、著名な標章「ISO」と類似の商標であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '16/09/26