最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「FLYING TIGERS」は、商標法第4条第1項第10号には該当しない、と判断された事例
(不服2016-10976号、平成28年11月28日審決、審決公報第205号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「FLYING TIGERS」の文字を標準文字で表してなり、第18類及び第25類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成26年12月10日に登録出願されたものである。その後、指定商品は、第25類「被服,仮装用衣服」と補正された。

2 原査定の理由(要旨)
 本願商標は、デンマーク国コペンハーゲン所在のゼブラ・アクチエセルスカーブがその商品について使用する商標「FLYING TIGER COPENHAGEN(フライングタイガーコペンハーゲン)」(以下「引用商標」という。)と類似する商標であるところ、新聞記事によれば、日本初出店では、品薄で一時休業を余儀なくされるほど来客が殺到したこと、その後、2014年11月までに東京・表参道、千葉県船橋市のショッピングセンター「ららぽーとTOKYO−BAY」、神戸・三宮、京都・四条河原町と国内の繁華街及び巨大ショッピングセンターに店舗を開店し、どれも人気を博していることが認められるから、引用商標は、本願商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識されていたものと判断するのが相当である。
 そして、インターネット情報によれば、その店舗においては、「スカーフ」、「手袋」、「耳覆い」、「帽子」、「ソックス」、「全身タイツ」及び「仮装用帽子」等の商品が取り扱われているから、商品「被服,仮装用衣服」に関しても引用商標は、取引者、需要者間に広く認識されていたものというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。


3 当審の判断
 原査定で引用した新聞記事情報及びインターネット情報並びに当審における職権調査によれば、引用商標は、デンマーク由来の雑貨店の店名としては一定程度知られているとしても、同店での取扱い商品は、約1500種類にも及んでいるというのであるから、その数ある商品の一として、本願商標の指定商品と同一又は類似する商品も取り扱われていたというだけでは、その登録出願時において、引用商標がそれらの商品の出所を表示する商標として需要者の間に広く認識されていたとまでは認めることができない。
 そして、当審において職権調査するも,本願商標の登録出願時において、本願商標の指定商品と同一又は類似する商品又は役務について、引用商標が需要者の間に広く認識されていたと認めるに足る事実は見いだし得なかった。
 以上のとおり、引用商標は、本願商標の登録出願時において、本願商標の指定商品と同一又は類似する商品又は役務について、需要者の間に広く認識されている商標とは認めることができないから、本願商標は、商標法第4条第1項第10号所定のその他の要件について論究するまでもなく、同号に該当するとはいえない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕


B. 本願商標「CADDIE」は、商標法第4条第1項第10号には該当しない、と判断された事例
(不服2016-14447号、平成28年12月7日審決、審決公報第205号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「CADDIE」の文字を標準文字で表してなり、第12類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品とし、平成27年9月18日に登録出願されたものである。その後、指定商品については、第12類「軽自動車,貨物自動車」と補正された。

2 原査定の拒絶の理由
 本願商標は、前記1の通りであるところ、自動車業界において、「Caddie」や「Caddy」及びその読みの片仮名表記「キャディ(ー)」の文字(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)は、「GENERAL MOTORS LLC」が、本願商標の登録出願前より商品「自動車並びにその部品及び附属品」等に使用して著名な商標「CADILLAC」の愛称として、我が国においても需要者の間に広く認識されているものである。
 したがって、本願商標は、引用商標と同一又は類似する商標であって、かつ、その指定商品も前記商品と同一又は類似する商品であるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。


3 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
 原審において引用した辞典等並びに当審において職権調査した英和辞典には、「Caddie」及び「Caddy」の語について、「米国車キャデラック(CADILLAC)」の意味合いを有する旨の記載があるものの、同じく職権調査による他の英和辞典及びわが国の一般的な国語辞典には、「キャディ(ー)」の語を含め、かかる意味合い有する旨の記載はない。そして、原審で引用したインターネット記事情報についても、米国車キャデラックに関する紹介記事の中のわずか一部で「Caddy」又は「キャディ」の語が同車の愛称として用いられているにすぎないものである上、我が国の需要者向けとは認め難い全て英語による記事などもあり、いずれも「Caddy」又は「キャディ」の語が同車を指称するものとして、我が国の需要者において広く知られていることを示すには十分ではない。

 また、当審において職権調査するも、引用商標のいずれも、原審説示のように、他人の業務に係る商品、特に自動車を示すものとして、本願商標の登録出願前から、製造者名や商品名などとして採択、採用され、我が国における需要者の間に広く知られていることを示すような事実は発見できなかった。
(2)本願商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
 上記(1)によれば、本願商標の登録出願時において,引用商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標とは認めることができないから、本願商標は、その余の点について検討するまでもなく、商標法第4条第1項第10号には該当しない。

(3)結語
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '17/07/12