最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「段戸山高原牛」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2018-9751、平成31年3月25日審決、審決公報第233号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「段戸山高原牛」の文字を標準文字で表してなり、第29類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成29年4月4日に登録出願され、その後、第29類「食用牛脂,牛肉,牛肉製品,牛を用いたカレー・シチュー又はスープのもと」他に補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『段戸山高原牛』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の『段戸山』の文字は、『愛知県北設楽郡設楽町にある山。』の名称であり、『高原』の文字は、『海面からかなり高い位置にあって、平らな表面をもち、比較的起伏が小さく、谷の発達があまり顕著でない高地。』を、『牛』の文字は、『ウシ目(偶蹄類)ウシ科の一群の哺乳類の総称。牛肉。』を、それぞれ意味する語であるから、構成全体として、『段戸山の高原産の牛肉』程度の意味合いを認識させる。また、『段戸山』は山であり、高地であるといえるところ、山や高原といった高地で生産された牛肉を、『○○高原牛』(○○には地名等が入る)と称している事実がある。そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合、取引者及び需要者は、『段戸山で生産された牛肉,段戸山で生産された牛肉を使用した商品』であることを理解するにとどまるというのが相当であるから、本願商標は単に商品の産地・品質を普通に用いられる方法で表示するに標章のみからなる商標である。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり「段戸山高原牛」の文字を標準文字で表してなるものである。
 そして、「改訂 新日本山岳誌」の記載から、本願商標の構成中「段戸山」の文字は、愛知県北設楽郡設楽町にある「鷹ノ巣山」の旧名であることが認められる。
 また、当審において職権をもって調査するも、「段戸山高原」なる高原はなく、本願の指定商品を取り扱う業界において、「段戸山高原」の文字が、産地、販売地を表示するものとして一般に使用されているという事実、あるいは、産地、販売地として一定の地域を認識させるというべき事情は発見できなかった。
 さらに、商品「牛肉,牛を用いたカレー・シチュー又はスープのもと」について、本願商標が、請求人及びその取引業者の取扱いに係る商品について使用されていることは確認できるものの、それらが請求人等以外の者の取扱いに係る商品について使用されている事実は確認できず、本願商標に接する取引者、需要者が当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も見当たらない。
 そうすると、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質等を表示するとはいえないものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「半平太酒」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2018-5959、平成31年3月20日審決、審決公報第233号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「半平太酒」の文字を標準文字で表してなり、第33類「泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒」他を指定商品として、平成29年1月11日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『半平太酒』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の『酒』の文字は、本願の指定商品との関係において、自他商品の識別力を有さないものであるため、その構成中の『半平太』の文字が、需要者の注意を特に引く部分であるといえる。そして、『半平太』の文字についてみると、『武市瑞山(半平太)』という歴史上の人物が存在し、当該人物を称する際、『武市』の氏を省略した『半平太』の文字が使用されている事実があり、武市半平太ゆかりの地では、武市半平太の銅像や、旧宅・墓(国指定史跡文化財)などが存在していることから、武市半平太は、その名声が今日においても高く、地元住民をはじめとして広く親しまれており、かつ、観光資源としても活用されているというのが相当である。そうすると、本願商標を、一私人である出願人が、自己の商標としてその指定商品に独占的に使用することは、武市半平太を敬愛する人々の心情を害するおそれがあるばかりでなく、武市半平太にちなんだ観光振興などの公益的な施策の遂行を阻害するおそれがあり、社会公共の利益に反するものと判断するのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり「半平太酒」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、その構成中「半平太」の文字は、「武市瑞山」の見出しの下、幕末の志士、武市瑞山の通称を表すものとして、一般の辞書に掲載されているものであるが、「半平太」の見出しの下では、一般の辞書に掲載されていない。
 そして、武市瑞山の出生地である高知県には、武市瑞山を祀る神社である「瑞山神社」、同人の業績を伝える「瑞山記念館」、同人の旧宅及び墓である「武市半平太旧宅及び墓」及び「武市半平太(瑞山)像」と称する銅像があり、高知県においては、「武市半平太」「武市瑞山」又は「瑞山」の文字が施設等の名称に使用されていることは認められるものの、「半平太」の文字のみを冠した施設等は見受けられず、また、「半平太」の文字のみが、公益的な機関による地域振興や観光振興の施策に使用されている事実も見いだすことはできない。
 さらに、武市瑞山が本願の指定商品と関連の深い人物であるとの事情も見いだすことができない。
 そうすると、本願商標は、商標の一部に「半平太」の文字を有するものの、請求人が本願商標を出願し、登録を受けることが、地域振興や観光振興のための施策等の名称に「武市半平太」「武市瑞山」又は「瑞山」の文字を使用することに支障を生じさせるとまではいえない。
 そして、本願商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく、その構成自体がそのようなものではなくとも、それを本願の指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。
 また、本願商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
 さらに、本願商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるに足る具体的事実も見いだせない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではないから、本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/05/06