最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「不動産経営力鑑定士」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2019-11352、令和2年3月19日審決、審決公報第245号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「不動産経営力鑑定士」の文字を横書きしてなるところ、第35類「経営に関する診断又は経営に関する助言,経営に関する情報の提供,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,職業のあっせん,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,広告用具の貸与,求人情報の提供」を指定役務として、平成30年3月9日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 本願商標は、前記1のとおり、「不動産経営力鑑定士」の文字を横書きしてなるところ、その構成中の「不動産」の文字は、「民法上、土地およびその定着物(建物・立ち木など)のこと。」を、「経営」の文字は、「継続的・計画的に事業を遂行すること。特に、会社・商業など経済的活動を運営すること。」を、「力」は、「能力」を、「鑑定」の文字は、「物の真偽・良否などを見定めること。」を、「士」の文字は、「一定の資格・役割をもった者。」をそれぞれ意味する語であるから(「広辞苑第六版」岩波書店)、その構成全体として、「不動産事業を運営する能力を鑑定する資格を有する者」程の意味合いを想起させるものである。
 また、本願商標の構成中の「士」の文字は、末尾に配されて、一定の国家資格をもった者又はそれらの資格自体を表すものとして理解される場合もあるものである。


3 当審の判断

 しかしながら、当審において、職権により調査したところによれば、本願商標と同一又は類似する名称の国家資格の存在や国家資格を想起させるような事情及び本願商標と同一又は類似する名称が法令によって使用を規制されている事実は見出せなかった。
 そうすると、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者をして、これより直ちに国家資格を表すものであるかのように誤認するおそれがあるということはできず、また、国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせるものと認めることもできない。
 したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものということはできないから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「一番酒場」は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2019-9895、令和2年3月31日審決、審決公報第245号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「一番酒場」の文字を標準文字で表してなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成30年2月13日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『一番酒場』」の文字を書してなり、その構成中の『一番』の文字は、『同種のものの中で最もすぐれたもの。この上もなく。』の意味を有し、また、『酒場』の文字は、『酒を飲ませる店。居酒屋・バーの類。』の意味を有するので、全体よりは、『最もすぐれた居酒屋、この上もない居酒屋』程の意味を理解させるものである。そうとすれば、本願商標をその指定役務に使用しても、顧客の吸引、役務の提供促進等のためのキャッチフレーズを表示したものと理解させるものといえ、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、前記1のとおり、「一番酒場」の文字からなるところ、その構成中の「一番」の文字が、「同種のものの中で最もすぐれたもの。」を意味し、「酒場」の文字が、「酒を飲ませる店。」(いずれも株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)を意味する語であるとしても、これらの文字を一連一体に結合した「一番酒場」の文字が、その指定役務との関係において、直ちに原審説示のような役務の宣伝広告を表示したものとして理解、認識されるとはいい難く、むしろ、全体として特定の意味合いを有しない一種の造語であると認識するとみるのが相当である。
 また、当審において職権をもって調査するも、「一番酒場」の文字が、本願の指定役務を取り扱う業界において、その指定役務の宣伝広告を表示するものとして、一般に用いられ、取引上普通に使用されていると認め得る事情は発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、これをその指定役務に使用しても、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標とはいえないものであり、自他役務の識別標識としての機能を十分に果たし得るものと判断するのが相当である。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/12/25