最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「口腔機能療法士」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-188、令和2年7月15日審決、審決公報第249号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「口腔機能療法士」の文字を標準文字で表してなり、第41類「口腔衛生及び歯牙衛生並びに口腔内のマッサージ及び指圧に関する資格の付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,口腔衛生及び歯牙衛生並びに口腔内のマッサージ及び指圧に関する資格取得のための知識の教授,口腔内のクリーニングに関する知識及び技能の教授,口腔の健康保持を目的とするマッサージ及び指圧に関する知識及び技能の教授,口腔内のクリーニングに関する知識及び技能の検定の実施,口腔の健康保持を目的とするマッサージ及び指圧に関する知識及び技能の検定の実施」及び第44類「歯科衛生士による歯科医療補助,口腔衛生及び歯牙衛生並びに口腔内のマッサージ及び指圧に関する情報提供・指導及び助言,口腔内のマッサージ及び指圧,口腔の健康保持に関する情報提供・指導及び助言,口腔内のクリーニング,口腔内のクリーニングに関する情報提供・指導及び助言,口腔の健康保持を目的とするマッサージ及び指圧,口腔の健康保持を目的とするマッサージ及び指圧に関する情報提供・指導及び助言」を指定役務として、平成30年8月7日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由

 原査定は、「本願商標は、『口腔機能療法士』の文字を表してなるところ、理学療法士及び作業療法士法の第17条第1項によれば、『理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない。』とある『機能療法士』の語を含むばかりでなく、本願指定役務は『口腔』に関するものであるから、本願商標に接する需要者は、口腔(分野)に関する機能療法士ほどの意味を容易に認識するものといえ、加えて、『理学療法士』のように、『○○士』という名称は、高度な専門性が要求される業であって、国が法律に基づいて資格を特別に付与した者を表示する事例が多い。そうすると、本願商標をその指定役務に使用する場合には、それがあたかも理学療法士とまぎらわしい国家資格を表す名称の一つであるかの如く、需要者に誤認を生じさせるおそれがあるから、これを登録し、使用することは、国家資格等の制度に対する社会的信頼を失わせ、ひいては商取引の秩序を乱すおそれがある。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、前記1のとおり、「口腔機能療法士」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「口腔」の文字は、「口の中の腔所で咽頭につながる部分。」を、「機能」の文字は、「物のはたらき。」を、「療法」の文字は、「治療の方法。」を、「士」の文字は、「一定の資格・役割をもった者。」をそれぞれ意味する語であるから(「広辞苑第七版」岩波書店)、その構成全体として、「口腔のはたらきを治療する資格を有する者」程の意味合いを想起させるものである。
 また、本願商標の構成中の「機能療法士」の文字は、理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年六月二十九日法律第百三十七号)の第17条第1項によれば、「理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない。」とあることから、該文字は、「理学療法士」でない者による名称使用を禁止されているものである。
 しかしながら、当審において、職権により調査したところによれば、「口腔機能療法士」の文字よりなる本願商標から「理学療法士」を想起させるような事情及び本願商標と同一又は類似する名称(「○○機能療法士」等)が法令によって使用を規制されている事実は見出せなかった。
 そうすると、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者をして、これより直ちに理学療法士とまぎらわしい国家資格を表すものであるかのように誤認するおそれがあるとはいうことはできず、また、国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせるものと認めることもできない。
 したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものということはできないから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「なめらか肌UV」は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-5749、令和2年7月21日審決、審決公報第249号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「なめらか肌UV」の文字を標準文字で表してなり、第3類「化粧品,せっけん類」を指定商品として、平成31年2月21日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「なめらか肌UV」の文字よりなるところ、「なめらか肌」及び「UV」のそれぞれの文字は、その指定商品を取り扱う業界では、すべすべした、なめらかな肌に仕上げるUV(紫外線)対応の商品の説明に使用されている。
 そうすると、本願商標は、その指定商品に使用しても、「すべすべした、なめらかな肌に仕上げるUV(紫外線)対応の商品」であること、すなわち単に商品の品質、効能を表示したものと理解させるにとどまり、かつ、前記以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「なめらか肌UV」の文字を、字間なく横一列に、標準文字で表してなるところ、構成上のまとまりのよさから、構成文字全体で一連一体の語を表してなると認識、看取できる。
 そして、本願商標の構成中「なめらか肌」の文字は「表面に凹凸がなく、すべるような肌」(参照:「広辞苑 第7版」岩波書店)程度の意味合いを認識させ、「UV」の文字は「紫外線」(前掲書)の意味を有する語であるとしても、両文字を結合して特定の意味を有する成語となるものではなく、また、各文字の語義を結合した意味合いも漠然としており具体性を欠くものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「なめらか肌UV」の文字又はそれに類する文字が、商品の具体的な品質等を表示するものとして一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、構成文字全体として、その指定商品との関係において、商品の品質や効能等を表示するものではなく、商品の品質について誤認を生じさせるおそれもない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当せず、それらに該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/10/29