最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第5号に該当しない、と判断された事例
(不服2019-10724、令和2年8月19日審決、審決公報第250号)
別掲1(本願商標)
 
1 本願商標

 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第35類及び第36類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、平成30年4月25日に登録出願され、その後、指定役務については、原審における同31年2月19日受付の手続補正書及び審判請求と同時に提出された令和元年8月13日受付の手続補正書により、最終的に、別掲2のとおりの役務(※別掲2の記載は省略。指定役務は第35類「経営の診断及び指導,企業再生に関するコンサルティング」他及び第36類「有価証券の売買・有価証券先物取引・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引」他)に補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、○を太く表したにすぎないものであるから、極めて簡単であって、かつ、ありふれた標章のみからなる商標であるものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第5号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、別掲1のとおり、黒色の太い線で描かれた円輪郭図形からなるところ、当該図形は、中心の白抜きの円の直径とほぼ同一の太さの線で描かれており、構成全体として一種独特な印象を与える特徴的な図形と認識されるとみるのが相当である。
 また、当審において職権をもって調査するも、請求人のグループ企業である岡三証券株式会社が、当該図形を店舗の看板等に使用していることは確認し得るものの、それ以外に当該図形が一般的に使用されているとまで認めるに足りる事実は発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標とはいえないものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第5号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「iino」は、商標法第3条第1項第4号に該当する、と判断された事例
(不服2020-644、令和2年7月17日審決、審決公報第250号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「iino」の文字を標準文字で表してなり、第35類、第38類、第39類、第41類、第42類及び第45類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、平成30年5月31日に登録出願され、その後、その指定役務については、原審における同31年4月8日付けの手続補正書により、別掲1(※別掲1の記載は省略。指定役務は第35類「広告業」他、第38類「電気通信(「放送」を除く。)」他、第39類「車両による輸送」他、第41類「インターネットプロトコルテレビジョンによる娯楽の提供」他、第42類「インターネット・電子計算機端末および携帯電話・モバイル端末を利用した気象情報の提供」、第45類「地図・地理情報の提供」他等)のとおり補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『iino』を標準文字で表してなるところ、これはありふれた氏である『飯野』を欧文字で表したものと容易に理解できるものであるから、ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえる。したがって、商標法第3条第1項第4号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

(1)商標法第3条第1項第4号該当性について
 本願商標は、「iino」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「イイノ」と称呼されるといえるから、これより、ありふれた氏の「飯野」の読みを表したものであると容易に連想、想起されるものである。
 そして、当該「飯野」がありふれた氏であることは、別掲2のとおり(※記載省略「日本人の姓」(佐久間英著 六藝書房)の記載例)、多数存在する姓であることから裏付けられる。
 さらに、氏を表記する際に、その読みをローマ字で表すことが一般に広く行われている。 以上からすると、本願商標は、ありふれた氏である「飯野」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当である。
 したがって、本願商標は商標法第3条第1項第4号に該当する。

(2)請求人の主張について
ア 請求人は、「人の姓氏をアルファベット表示する際はその全て、又は少なくとも一文字目を大文字で表記するのが通例であることは顕著な事実」であるから、全て小文字から構成される「iino」から、人の姓氏である「飯野」を想起させるとはいえない旨を主張している。
 しかしながら、氏を表記する際に、その読みをローマ字で表すことは一般に広く行われているところ、別掲3のとおり(※記載省略。ウェブサイト上の記載例。)、氏の読み全てを小文字で表すことも、一般に広く行われているものである。
イ 請求人は、インターネットの検索結果をあげて「当該語の称呼『イイノ』からは日本語の『いいの』(良いの/好いの)が推測され得る」旨を主張している。 しかしながら、請求人が提出する資料は、単に「いいの」の文字をGoogle検索した
 結果であって、これからは「いいの」の文字を含む検索結果が表示されるにすぎないものであるから、このことをもって「iino」の文字から、「良いの」や「好いの」といった意味合いを認識するものとは判断することができない。
ウ 請求人は、過去の登録例を挙げて、本願商標も登録されるべきである旨主張している。
 しかしながら、請求人の挙げる登録例は、本願商標とは、商標の構成態様等において相違し、事案を異にするものであるから、請求人の挙げた登録例の存在によって、前記(1)の認定判断が左右されるものではない。
 よって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。
 なお、請求人は、本願商標について、同人が近い将来提供することを予定するサービスに使用する商標であって、メディアに取り上げられ、広く需要者間に知られるに至っている旨や、その商標の採択の意図も述べるが、請求人による商標の採択の意図に拘わらず、本願商標は一義的には氏をローマ字表記したものと認められるものであって、上記主張及び証拠(令和元年11月5日付け手続補足書の第1号証ないし第3号証)を参酌しても、前記(1)の認定判断を左右するものではない。

(3)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当し、登録することができない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/10/29