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  本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第11号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-650005、令和2年8月31日審決、審決公報第252号)
別掲(本願商標)

※色彩については原本参照
 
1 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成からなり、第35類、第36類、第41類及び第42類に属する日本国を指定する国際登録において指定された役務を指定役務として、2017年7月10日にUnited Kingdomにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、2018年(平成30年)1月9日に国際商標登録出願されたものである。
 その後、指定役務については、原審における令和元年7月19日付けの手続補正書により補正されたものである(※補正の内容については記載省略。)。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した登録第4788709号商標(以下「引用商標」という)は、「off!」の欧文字及び記号を書してなり、平成14年5月27日登録出願、「慈善のための募金,慈善事業活動のための企画・運営」を含む第36類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として、同16年7月23日に設定登録、その後、同26年4月8日に更新登録されたものであり、現に有効に存続している。


3 当審の判断

 (1)本願商標
 ア 本願商標は、別掲のとおり、青色の横長の長方形の図形部分(以下「長方形図形部分」という。)内に、欧文字「O」の中央部分に水滴状の図形(以下「水滴状図形部分」という。)を有するゴシック体風の白抜きの欧文字「OFF」を上段に大きく顕著に表し(以下「上段文字部分」という。)、下段に、上段文字部分と両端を揃えて、ゴシック体風の白抜きの欧文字「OCEAN FAMILY FOUNDATION」を小さく表した(以下「下段文字部分」という。)構成よりなるところ、長方形図形部分は、極めて単純かつありふれた図形であって、背景図形の一種と認識される態様であるものであって、格別に看者の注意をひくものではないから、商品の出所識別標識としての機能を有しない部分であるといえる。
 イ 上段文字部分「OFF」は、下段文字部分「OCEAN FAMILY FOUNDATION」の各英単語の頭文字「O」、「F」及び「F」を連想させること、また、下段の文字部分の両端は、上段文字部分の両端と揃っており、長方形図形部分にまとまりよく一体的に表されていること、更に、下段文字部分は、全体として、上段文字部分に比べてかなり小さく表されていることからすると、下段文字部分は、見る者に、あたかも上段文字部分のルビとして付されたものという印象を与えるということができる。
 以上に加え、複数の単語から構成される英語の熟語や名称については、その略称として、各単語の頭文字の大文字を並べたものを用いることが多いことに鑑みると、上段文字部分は、下段文字部分を構成する各英単語の頭文字である「O」、「F」及び「F」を意味するものとして認識されるというべきである。
 そうすると、上段文字部分は、アルファベットの大文字「O」、「F」及び「F」の3文字に相応した「オーエフエフ」又は「オフ」との称呼を生じるものと認められる。そして、上段文字部分は、下段文字部分の略称であるから特定の観念は生じない。
 また、下段の文字部分は、「OCEAN」、「FAMILY」及び「FOUNDATION」の欧文字よりなるところ、それぞれ、「海洋」、「家族」、「財団」(「ベーシック ジーニアス 英和辞典」(株式会社大修館))の意味を有する、我が国において広く知られた英単語であることから、構成文字に相応し、「オーシャンファミリーファウンデーション」の称呼が生じ、「海洋家族財団」ほどの意味合いを想起し得る。
 ウ 以上によれば、本願商標の外観上、上段文字部分は、下段文字部分に比して、明らかに強い印象を見る者に与え、その注意をより強く引くものということができる。
 そして、前記イにおいて述べた下段文字部分の外観、称呼及び観念を併せ考えれば、上段文字部分は、取引者、需要者に対し、本願商標の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというのが相当である。
 エ そうすると、本願商標のうち、上段文字部分と下段文字部分を分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできず、本願商標からは、上段文字部分より「オフ」及び「オーエフエフ」の称呼が、及び下段文字部分より「オーシャンファミリーファウンデーション」の称呼が生じ、下段文字部分より「海洋家族財団」の観念が生じる。

 (2)引用商標
 引用商標は、「off」の欧文字及び「!」の符号よりなるところ、各構成文字及び符号は同書、同大でまとまりよく表されており、全体が一体としてまとまった印象を与えるものである。
 そして、引用商標の構成中、「off」の欧文字は「(時間的・空間的に)離れて」(前掲書)の意味を有する我が国において広く知られた英単語であり、また、末尾に位置する「!」は、感嘆や強調を表す符号であって、当該符号であると認識させる以上に、格別の称呼及び観念は生じない。
 そうすると、引用商標からは、「オフ」の称呼、及び「(時間的・空間的に)離れて」の観念が生じる。

 (3)本願商標と引用商標の類否
 本願商標の要部である上段文字部分「OFF」と、引用商標「off!」との類否を検討すると、外観において、前半3文字のつづりを共通にするものの、各文字における大文字と小文字の差異、末尾の符号の有無、そして、本願商標の「O」の文字が水滴状図形部分を有しており、特徴的にデザイン化された態様であることからすると、これらの差異が、3文字又は3文字及び符号という短い構成からなる両者の外観全体の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいえないから、両者は相紛れるおそれのないものとみるのが相当である。
 次に、本願商標の上段文字部分「OFF」から生じる「オフ」及び「オーエフエフ」と、引用商標「off!」から生じる「オフ」の称呼を比較すると、両者は、「オフ」の称呼を同一にする場合もあるから、称呼において、類似する場合があるというのが相当である。
 そして、観念においては、本願商標の上段文字部分「OFF」は特定の観念が生じないものであるのに対し、引用商標は「(時間的・空間的に)離れて」の観念が生じるものであることから、両者は観念において相紛れるおそれのないものというのが相当である。
 そうすると、本願商標と引用商標とは、本願商標から生じる複数の称呼のうち、一つの称呼において同一にする場合があるものの、外観及び観念において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は非類似の商標と判断するのが相当である。

 (4)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、引用商標とは、同一又は類似する商標ではないため、その指定商品について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号には該当しない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/12/10