最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「くるくるいなり」は、商標法第3条第1項第3号に該当する、と判断された事例
(不服2020-643、令和2年9月30日審決、審決公報第253号)
 
1 本願商標について

 本願商標は、「くるくるいなり」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成30年12月26日に登録出願され、その後、指定商品については、原審における令和元年6月27日受付の手続補正書により、第30類「いなりすし」に補正されたものである。


2 当審における拒絶理由通知

 当審において、請求人に対し、令和2年6月2日付けで、別掲のとおりの事実を示した上で、本願商標は、その指定商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当する旨の拒絶理由を通知し、相当の期間を指定して、これに対する意見を求めた。


3 当審における拒絶理由通知に対する請求人の意見

 請求人は、上記2の拒絶理由通知に対して、所定の期間内に何ら応答するところがない。


4 当審の判断

 本願商標は、「くるくるいなり」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「くるくる」の文字は「手早く幾重にも巻きつけるさま。また、物をまるめるさま。」の意味を有する(株式会社三省堂 大辞林第3版)ものであり、「いなり」の文字は「『稲荷鮨』の略」を表す(同上)ものであり、そうすると、構成文字全体として「(くるくると)巻き付けてある稲荷鮨」程の意味合いを理解させるものである。
 そして、「くるくるいなり」の文字は、本願指定商品との関係において、「油揚げに酢飯(ご飯)をのせて巻いて作る稲荷鮨」を称する語として、一般に使用されている事実が認められる(別掲)。
 以上を踏まえると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者は、その商品が「油揚げに酢飯(ご飯)をのせてくるくると巻いて作る稲荷鮨」であること、すなわち、商品の品質を普通に用いられる方法で表示したものと認識するにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないといわざるを得ない。
 してみれば、本願商標は、その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と判断するのが相当である。
 以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるから、登録することができない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲1)は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2019-16833、令和2年11月17日審決、審決公報第253号)

別掲1(本願商標)

 
1 本願商標について

 本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、第9・16・35・41・42類及び第45類に属する願書に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、登録出願され、その後、第9・16・35・41・42類及び第45類に属する別掲2(※別掲2の記載は省略)のとおりの商品及び役務に補正されたものである。


2 原査定における拒絶の理由の要旨

(1)本願商標の構成中の「ebook」の文字は、近年「電子書籍」を意味する語として知られており、「Japan」の文字は「英語で、日本を呼ぶ称。」を意味する語であることからすると、本願商標をその指定商品及び指定役務中、第9類「電子出版物」及び第41類「電子出版物の提供」に使用しても、これに接する取引者・需要者は、「日本で制作された電子出版物」及び「日本で制作された電子出版物の提供」であることを認識するにすぎないことから、本願商標は、単に商品の品質及び役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当である。したがって、商標法第3条第1項第3号に該当する。

(2)本願商標の構成中の「ebook」の文字は、近年「電子書籍」を意味する語として知られており、「Japan」の文字は「英語で、日本を呼ぶ称。」を意味する語であることからすると、これを本願指定商品及び指定役務中、第16類「雑誌,書籍,印刷物」、第35類「書籍及び雑誌の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第41類「図書及び記録の供覧,図書の貸与」に使用するときは,あたかもその商品及び役務が「日本で制作された電子書籍に関する商品」及び「日本で制作された電子書籍に関する役務」であるかのように、商品の品質及び役務の質の誤認を生ずるおそれがある。したがって、商標法第4条第1項第16号に該当する。

(3)本願商標は、登録第2616249号商標(以下「引用商標」という。)と同一又は類似であって、その商標登録に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。


3 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第11号について
 本願の指定商品及び指定役務は、補正された結果、引用商標の指定商品と類似しない商品になったと認められので、商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定の拒絶の理由は解消した。

(2)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
 本願商標は、丸みを帯びたサンセリフの書体をもって表した「ebook」の文字(「e」及び「k」の文字はレタリングしてなる)及び「Japan」の文字(「J」の文字は「apan」の文字と上端がそろうようレタリングしてなる)を上下2段に書してなるところ、その構成は、上段と下段とで文字の大きさが異なるものの、両文字部分はさほど間隔を設けずに配置されており、かつ、上段と下段の構成文字は、いずれも、丸みを帯びたサンセリフの統一的な態様で表されていることから、本願商標は、全体として、まとまりのよい一体のものとして把握し得るものである。

 そして、「e」の文字と「book」の文字とをハイフンを介して表した「」の文字又は「e」の文字と大文字からなる「BOOK」の文字とを組み合わせた「eBOOK」の文字が「電子書籍」の意味を有する語として辞書に載録されており、「Japan」の文字が「日本」の意味を有する語であるとしても、上記のとおりの態様で表された「ebook」及び「Japan」の両文字を上下二段にまとまりよく配してなる本願商標は、本願の指定商品及び指定役務との関係において、特定の意味合いを表示したものとして直ちに理解されるものとはいい難いものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品及び指定役務を扱う業界において、本願商標が、商品の品質又は役務の質等を表示するものとして、取引上、普通に採択、使用されているという実情も見いだすことができず、さらに、本願の指定商品及び指定役務の取引者、需要者が当該文字を商品の品質又は役務の質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、これに接する需要者、取引者をして、その構成全体をもって、特定の意味合いを認識させることのない、一種の造語として認識し、把握されるものとみるのが相当である。
 してみれば、本願商標をその指定商品及び指定役務について使用しても、商品の品質又は役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであり、かつ、商品の品質又は役務の質の誤認を生じるおそれがあるものということもできない。
 したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものではないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/12/10