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A. 本願商標「ハプスブルク」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-11016、令和2年12月18日審決、審決公報第254号)
 
1 本願商標について

 本願商標は、「ハプスブルク」の文字を標準文字で表してなり、第45類「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,衣服の貸与,祭壇の貸与,装身具の貸与」を指定役務として、平成31年3月7日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『中部ヨーロッパを中心とする広大な地域に君臨した家門。ヨーロッパで最も由緒ある家柄の一つ』である『ハプスブルク家』を認識させる『ハプスブルク』の文字を標準文字で表してなるものであるから、このような商標を一法人が営利目的において使用することは、該家の権威と尊厳を損ねるおそれがあり、ひいては国際間の信義則を保つ観点から、公序良俗に反する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「ハプスブルク」の文字よりなるところ、各種辞典において、「ハプスブルク家」の項に、「中部ヨーロッパを中心とする広大な地域に君臨した家門。ヨーロッパで最も由緒ある家柄の一つ。」(「広辞苑第七版」株式会社岩波書店発行)、「オーストリアなど中部ヨーロッパを中心に勢力をもった名門王家。」(「大辞林第三版」株式会社三省堂発行)、「神聖ローマ帝国およびオーストリアの王家。」(「大辞泉第二版」株式会社小学館発行)のように載録されていることからすると、「ハプスブルク」の文字は、中部ヨーロッパを中心とする広大な地域に君臨した王家の家柄の名称を認識させるものである。
 また、「図説 ハプスブルク帝国」(2011年4月30日第21刷、河出書房新社発行)によれば、ハプスブルク家は、1273年にルドルフ1世が神聖ローマ帝国の皇帝となり、その後1440年にフリードリヒ5世が皇帝となってからは、1806年に神聖ローマ帝国が崩壊するまで、ほぼ一貫してハプスブルク家が王位を継承し、神聖ローマ帝国崩壊後もオーストリア帝国(後にオーストリア=ハンガリー二重帝国)の皇帝を継承し続けたことが認められる。そして、1918年にカール1世が退位して以降、ハプスブルク家は、君主としての地位を失っており、現在、オーストリア共和国は、連邦共和制の国家である。さらに、神聖ローマ帝国及びオーストリア帝国の領土は、現在のオーストリア共和国の国土よりはるかに広範囲にわたっていたものであると共に、新聞記事情報やインターネット情報によれば、ハプスブルク家の末裔と称する者は世界中に散見される。
 以上からすると、オーストリア帝国の皇帝としての地位が消滅してから1世紀以上経過した現代において、「ハプスブルク家」の王位等の地位を継承すべき特定の系譜が存在するとはいえず、また、当審において職権をもって調査するも、「ハプスブルク」の名称の統制や商標を管理する公的な団体は存在せず、「ハプスブルク」の名称を商標として採択することが公益上妥当でないとする特段の事情を発見することはできなかった。
 そうすると、請求人が、本願商標をその指定役務について使用をしたときに、かつての王家である「ハプスブルク家」を想起させる場合があるとしても、同家の権威や尊厳を損なう具体的な事情があるとはいい難く、また、特定の国の国民の感情を害し、国際信義に反するとまではいえないというのが相当である。
 さらに、本願商標の構成自体が、非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもなく、本願商標をその指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもない。
 その他、本願商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取り消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「Fintan」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-3534、令和2年12月22日審決、審決公報第254号)
 
1 本願商標について

 本願商標は、「Fintan」の文字を標準文字で表してなり、第9類「電子計算機,電子計算機用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードされるものを含む),その他の電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計,コンピュータネットワークシステム及び電子計算機データの遠隔監視,コンピュータデータベースへのアクセスタイムの賃貸,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守及びこれらに関する情報の提供」他(※詳細な指定商品の記載は省略)を指定商品及び指定役務として、平成30年2月28日に登録出願されたものである。


2 原査定における拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「Fintan」の文字を標準文字で表してなる。
 ところで、「フィンたん」の文字は、駐日フィンランド大使館のソーシャルネットワークサービスにおける公式アカウントに登場したキャラクターの名称を表すもので、多数のフォロワーを抱え、同国の知名度アップに貢献しているものである。
 このような事情を勘案すると、本願商標は、駐日フィンランド大使館のキャラクターとして広く知られている「フィンたん」の文字を単に欧文字で表記したものであり、これを一私人が営利目的で使用することは、同大使館の広報活動に便乗することになり、ひいては、同国の権威と尊厳を損ねるおそれがある。
 したがって、本願商標は、出願人が採択使用することは国際信義に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「Fintan」の欧文字を標準文字で表してなるところ、特定の意味を有さない造語を表したものと認識、理解されるものである。
 そして、原審が拒絶理由として引用する「フィンたん」は、「駐日フィンランド大使館のキャラクター。2012年7月、ソーシャルネットワークサービス、Twitterの大使館公式アカウントとして登場。」(「デジタル大辞泉プラス」小学館)を指称するものであるとしても、我が国における同大使館の広報活動と関連した、比較的最近誕生したキャラクターにすぎないから、フィンランド国内及び同国民の間における位置づけや文化的価値の程度は不明であり、本願商標を登録することによる同国及びその国民の感情などに与える影響は明らかではない。
 したがって、本願商標が、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又はそれ自体が一般的な国際信義に反するとは認められない。
 また、本願商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい又は差別的な商標ではないこと明らかであり、その他に、それをその指定商品及び指定役務に使用することが、公正な取引秩序を乱し、社会公共の利益に反するものとすべき具体的事情等を見いだすことはできない。
 以上によれば、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ではなく、商標法第4条第1項第7号に該当しないから、同項同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は,取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '21/12/10