最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「鼻す〜っと」は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-10990、令和3年4月13日審決、審決公報第258号)
 
1 本願商標について

 本願商標は、「鼻す〜っと」の文字を標準文字で表してなり、第5類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成30年12月5日に登録出願され、その後、指定商品については、原審における令和元年12月24日付けの手続補正書により、第5類「衛生マスク」に補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 本願商標は、「鼻す〜っと」の文字を標準文字で表してなるところ、近年、指定商品を取り扱う分野において、「鼻どおりをすっきりさせる商品、ミント等のすっきりした香りの商品」が製造・提供されており、そのような商品に「す〜っと」等の文字が使用されている実情がある。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者、取引者は、「鼻どおりをすっきりさせる商品」等の意味合いを認識するにとどまり、本願商標は、単に商品の品質、効能を普通に用いられる方法で表示するにすぎず、自他商品の識別標識としては認識しないとみるのが相当である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「鼻す〜っと」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字からは直ちに特定の意味合いを認識するとは認められないものである。
 また、当審における職権による調査によっても、本願の指定商品を取り扱う業界において、「鼻す〜っと」の文字が、商品の品質を直接的かつ具体的に表するものとして、取引上一般に使用されている事実を発見することができず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その指定商品について使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであるというべきであり、かつ、商品の品質の誤認を生じるおそれがあるものということもできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「LIGHTSTRIKE」は、商標法第4条第1項第11号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-8970、令和3年4月15日審決、審決公報第258号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「LIGHTSTRIKE」の文字を標準文字で表してなり、第25類「履物,運動用特殊靴」を指定商品として、平成30年11月28日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願の拒絶の理由に引用した登録第5424914号商標(以下「引用商標」という。)は、「LIGHT STRIKE」の文字を標準文字で表してなり、2010年(平成22年)8月10日にアメリカ合衆国においてした商標の登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成22年12月24日に登録出願、第28類「アクションタイプのターゲットゲームをプレイするためのゲーム用具,レーザータグをプレイするためのゲーム用具,おもちゃのけん銃及びその附属品,おもちゃの武器及びその附属品,おもちゃのけん銃・おもちゃの武器の標的」を指定商品として、平成23年7月8日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。


3 当審の判断

(1)本願商標について
 本願商標は、「LIGHTSTRIKE」の文字を標準文字で表してなるものである。そして、「LIGHTSTRIKE」の文字は、我が国において慣れ親しまれた英語である「LIGHT」及び「STRIKE」を結合してなるものと認識されるものの、これらを組み合わせた「LIGHTSTRIKE」の文字は、辞書等に載録されている語ではなく、特定の意味合いを有するものとして認識されているというような事情も見いだせないことからすれば、当該文字は、特定の観念を生じないものである。
 そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して「ライトストライク」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(2)引用商標について
 引用商標は、「LIGHT STRIKE」の文字を標準文字で表してなるところ、上記(1)同様、当該文字が特定の意味合いを有するものとして認識されているというような事情は見いだせないことからすれば、当該文字は、特定の観念を生じないものである。
 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「ライトストライク」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

(3)本願商標と引用商標の比較
 本願商標と引用商標との類否について検討するに、本願商標と引用商標は、それぞれ上記(1)及び(2)のとおりであるところ、本願商標と引用商標は、構成するすべての文字を共通にするものであり、相違点は引用商標の中央にあるスペースの有無のみであるから、両商標は外観において類似するものというのが相当である。
 次に、称呼についてみるに、本願商標と引用商標は「ライトストライク」の称呼を共通にするものである。
 さらに、本願商標と引用商標は、いずれも特定の観念を有しないものであるから、観念において比較することはできない。
 そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観において類似し、称呼を共通にする類似の商標というべきである。

(4)本願の指定商品と引用商標の指定商品の比較
 本願商標の指定商品中、第25類「運動用特殊靴」と、引用商標の指定商品中、第28類「アクションタイプのターゲットゲームをプレイするためのゲーム用具,レーザータグをプレイするためのゲーム用具」を比較する。
 本願の指定商品は、「運動用特殊靴」であり、ゴルフ靴、サッカー靴、スキー靴等、特定のスポーツを行う際に限ってプレーヤーが使用する特殊な靴(履物)であるのに対し、引用商標の指定商品は、「アクションタイプのターゲットゲームをプレイするためのゲーム用具,レーザータグをプレイするためのゲーム用具」であり、標的(ターゲット)やおもちゃの光線銃を用いたゲーム用の商品であると解される。
 そして、前者の販売場所は、主としてスポーツ用品店、百貨店、スーパー、大型量販店等の靴売り場コーナー及びスポーツシューズを取り扱う靴専門店と考えられるのに対し、後者は、主に「おもちゃ」又はそれに準ずる商品として販売されているか、そうでないとしても、少なくとも一般的に「運動用特殊靴」と共通の場所で販売されている実情は見られない。また、前者の用途及び需要者は、特定のスポーツを行いたい者が使用するものであるのに対し、後者は、標的(ターゲット)やおもちゃの光線銃を用いたゲームを行いたい者が使用するものであると考えられる。
 そうすると、上記両商品は、その販売部門、用途及び需要者の範囲が相違するといい得るから、両商品が競合するとみることは困難であり、両商標がそれぞれ上記の指定商品について使用されたとしても、その商品が同一営業主の提供に係る商品であると誤認混同されるおそれがあるということはできず、両商品は互いに類似するものではないというのが相当である。
 また、本願の上記以外の指定商品と、引用商標の上記以外の指定商品とは類似しないことは明らかである。

(5)まとめ
 してみれば、本願商標と引用商標が類似するとしても、互いの指定商品において類似するといえない以上、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではないというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定の理由をもって、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
 その他、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/2/24