最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「軽が安い」は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-3306、令和3年5月20日審決、審決公報第259号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「軽が安い」の文字を標準文字で表してなり、第35類「自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、平成30年10月4日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、『軽が安い』の文字を標準文字で表してなるところ、本願の指定役務を取り扱う業界においては、『軽が安い』の文字が『軽自動車が安い』程の意味合いで宣伝広告として広く使用されている実情が認められる。そうすると、本願商標は、その構成全体から前記意味合いを認識させるにすぎないものであって、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というのが相当であるから、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、「軽が安い」の文字を標準文字で表してなるところ、本願商標の指定役務との関係において、「軽」の文字が「軽自動車」の略称を、「安い」の文字が、「品物の量や質の割に値段が低いこと」を認識させるとしても、これらの文字を結合した「軽が安い」の文字が、直ちに、原審説示の意味合いを表したものと理解、認識されるとはいい難いものである。
 さらに、当審において職権をもって調査すると、「軽が安い」の文字が、請求人とその関係者が使用していることは確認できるものの、それ以外の者によって、一般に使用されている事実は発見できず、また、取引者、需要者が、当該文字を特定の役務の特徴等を表示するものと認識する等、これを自他役務の識別標識と認識し得ないと判断するべき特別な事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、これをその指定役務について使用しても、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当であり、需要者が何人かの業務に係る役務であると認識することができない商標とはいえないものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「日本情報バンク」は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-13273、令和3年5月25日審決、審決公報第259号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「日本情報バンク」の文字を標準文字で表してなり、第35類「電子計算機を用いて行う情報検索事務の代行」を指定役務として、平成31年2月7日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「日本情報バンク」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「バンク」の文字は「銀行」を意味する「bank」の片仮名表記で、一般によく知られた語であるから、全体として「日本の情報銀行」ほどの意味合いを認識させる。
 そして、「情報銀行」とは、「個人情報を預かり、利用者の同意する範囲内で管理運用し、その対価と便益を本人や社会全体に還元する事業者。または、そのサービス。」を意味する語として使用されており、いくつもの企業が情報銀行事業に参入している実情がある。
 そうとすると、本願商標は、その指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「日本における情報銀行業、日本における情報銀行に関する役務」であることを理解するにすぎないから、自他役務の識別標識とは認識し得ず、何人かの業務に係る役務であることを認識することができないものである。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「日本情報バンク」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ書体、大きさで、間隔なく、横一列にまとまりよく一体的に表されているから、構成文字全体をして一連一体の語を表してなると看取できるものである。
 そして、本願商標は、その構成中「日本」の文字は「わが国の国号」を指称する語であって、「情報」の文字は「ある事柄についての知らせ。判断を下したり行動を起こしたりするために必要な、種々の媒体を介しての知識。」、「バンク」の文字は「銀行。特定のものや情報を集め、必要に備えて蓄えておく機関。」の意味を有する(参照:「大辞泉 第2版」小学館、「広辞苑 第7版」岩波書店)ところ、各語を結合して成語や慣用句となるものではなく、それぞれの語義を結合して連想される意味合いも具体性を欠くもので、直ちに特定の意味合いを認識、理解させるものではない。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定役務を取り扱う業界において、「日本情報バンク」の文字又はそれに類する文字が、役務の質の表示や業種名等として、取引上一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を何人かの業務に係る役務であることを認識できないというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標とはいえず、商標法第3条第1項第6号に該当しないから、それに該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/2/24