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A. 本願商標「大山清正公」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-16223、令和3年7月13日審決、審決公報第261号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「大山清正公」の文字を標準文字で表してなり、第33類「日本酒,泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」を指定商品として、令和元年6月27日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は『大山清正公』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中『清正公』の文字に着目すると、『公』の文字は『貴人などへの敬称。名などの下につけて親しみの意を表す。』の意味があるから、『清正』という名前の者に尊敬の念を持ってあがめていることを表しているとみるのが相当である。そうすると、本願商標は、一般需要者に、戦国時代の武将の一人である、『加藤清正』公を容易に想起させるものである。そして、当該人物は、神格化され人々にあがめられており、また、これに伴い、観光振興や地域興しなども行われていることを考慮すると、本願商標を、一私人である出願人が、自己の商標として、その指定商品について独占的に使用することは、その著名な故人の名声にあやかることにつながり、また、支持者等の尊敬の心情を害したり、当該歴史上の人物に関連した観光振興や地域興しなどの公益的な施策の遂行を阻害することが考えられるから、社会公共の利益に反するものといわざるを得ない。したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨を認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「大山清正公」の文字からなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさで等間隔に、外観上まとまりよく一体的に表されているものであり、また、その構成中「大山」の文字は「大きな山。」、「神奈川県中部にある山。」、「姓氏の1つ。」等、複数の意味を有する語(「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)であって、「清正公」の文字が戦国時代の武将の一人である「加藤清正」の敬称として用いられる場合があるとしても、本願商標に接する取引者、需要者はその構成全体をもって特定の意味合いを有しない一体不可分の造語として理解、認識するとみるのが相当である。
 そうすると、請求人が本願商標を出願し、登録を受けることが、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関による観光振興や地域興しのための施策等に「清正公」の名称を利用することについて支障を生じさせるおそれがあるとはいい難いものである。
 さらに、当審において職権をもって調査するも、「大山清正公」の文字を商標として採択、使用することが「加藤清正」の出身地である名古屋市中村区や日本国内各地のゆかりの地とされる地域等の人々の感情を害すると認め得る具体的な事情は、発見することができなかった。
 してみれば、本願商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような構成でないことは明らかであり、また、本願商標をその指定商品に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するとはいえず、加えて、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
 さらに、本願商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるに足る具体的事実も見いだせない。
 したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえないから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「BIBLE」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-1928、令和3年2月28日審決、審決公報第261号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「BIBLE」の文字を標準文字で表してなり、第3類「化粧品」を指定商品として、令和2年2月28日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「BIBLE」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は「聖書」を意味する英語として一般に親しまれている。
 そして、聖書は、キリスト教徒にとっての聖典であって、かけがえのない心のよりどころとなるものであり、また、キリスト教信者は、全世界にわたって多数存在し、日本国内にも相当数いることからすれば、「BIBLE」の語を、一私人である出願人が、自己の商標としてその指定商品に独占的に使用することは、我が国及び世界のキリスト教徒の宗教的信条を損ね、国際信義にも反するおそれがあるから、出願人がこれを採択、使用することは社会の一般的道徳観念に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「BIBLE」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は「(キリスト教・ユダヤ教の)聖書。(聖書のように)権威ある書物、必読書。」の意味を有する英語(「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)であり、いずれの意味においても我が国で親しまれている外来語である(「広辞苑 第7版」岩波書店)。
 そのため、本願商標は、原審が指摘するようなキリスト教における聖典だけを特定するものではなく、その他の抽象的な意味(権威ある書物、必読書)をもって、一般的に広く利用されている語でもあるから、これを登録することが、国際信義に反するかは必ずしも明らかではない。
 また、当審による職権調査によっても、本願商標について、その構成自体が非道徳的であったり、その指定商品に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものであることなどを示す事実は見いだせない。
 以上を踏まえると、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえず、商標法第4条第1項第7号に該当するものではないから、本願商標が同項同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/2/28