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A. 本願商標「梅五輪」は、商標法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-16111、令和3年10月7日審決、審決公報第263号)
 
1 本願商標

 本願商標は、「梅五輪」の文字を標準文字で表してなり、第41類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、平成31年1月16日に登録出願されたものである。
 本願は、令和2年2月26日付けで拒絶理由の通知がされ、同年4月7日に意見書が提出されたが、同年8月7日付けで拒絶査定がされた。
 これに対して同年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、『梅五輪』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の『五輪』の文字は、国際オリンピック委員会(IOC)と、その下部組織である各国のオリンピック委員会(日本オリンピック委員会等)が、オリンピック憲章に基づき4年ごとに開催する国際的スポーツ競技大会である『オリンピック』の俗称として、我が国において広く一般に親しまれているものである。そうすると、本願商標は、『五輪』の文字部分が看者に強い印象を与え、オリンピックに関連するものであることを容易に認識させるというべきである。以上よりすれば、本願商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する著名な標章『五輪』と類似の商標と判断するのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

(1)本願商標について
 本願商標は、前記1のとおり、「梅五輪」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の各文字は、同一の書体、同一の大きさ、等間隔で、外観上まとまりよく一体的に表されており、また、構成全体から生ずる「ウメゴリン」の称呼は、よどみなく一連に称呼されるものである。
 そして、本願商標を構成する「梅」の文字は「バラ科サクラ属の落葉高木。」(出典:広辞苑第七版)を意味するものであるところ、「輪」の文字が「花を数える語。」(出典:同上)であることからすると、全体として「梅の花が5つ」との意味合いを想起させるものといえる。
 そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「五輪」の文字部分のみに着目し、これを独立した識別標識として認識するとはいえず、むしろ、本願商標の構成文字全体をもって、「梅の花が5つ」の意味合いを想起させる造語として認識し、把握するというべきである。

(2)引用標章について
 引用標章は、「五輪」の文字を表してなるところ、当該文字は「オリンピックの俗称。」(出典:同上)として我が国の代表的な辞書にも掲載されており、オリンピック憲章に基づき4年ごとに開催する国際的スポーツ競技大会である「オリンピック」の俗称を表すものとして著名な標章と認められる。

(3)本願商標と引用標章の類否について
 そこで検討するに、外観については、両者は、「梅」の文字の有無の差異を有するから、明確に区別し得るものである。
 称呼については、両者は、「ウメ」の音の有無の差異を有するから、明瞭に聴別できるものである。
 観念については、本願商標からは、「梅の花が5つ」の観念が生じるのに対して、引用標章からは、「オリンピックの俗称」の観念が生じるから、明らかに相違するものである。
 そうすると、両者は、外観、称呼、観念のいずれにおいても明確な差異を有するから、非類似のものというべきである。

(4)まとめ
 してみれば、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が、「オリンピックの俗称」である「五輪」を連想、想起するということはできない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「カリウムの力」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-2172、令和3年10月12日審決、審決公報第263号)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和2年3月3日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和2年8月24日付け :拒絶理由通知書
 令和2年10月29日  :意見書、手続補正書の提出
 令和2年11月17日付け:拒絶査定
 令和3年2月17日   :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「カリウムの力」の文字を標準文字で表してなり、第5類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、登録出願されたものであり、その後、指定商品については、上記1の手続補正書により、第5類「カリウムの成分を含有した薬剤、カリウムの成分を含有したサプリメント、カリウムの成分を含有した栄養補助食品」に補正されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、『カリウムの力』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の『カリウム』の文字は『アルカリ金属元素の一種』の意味を有する語であって、血圧の低下等の効能を有することが一般に知られており、『力』の文字は『効能』の意味を有する語である。そして、本願の指定商品を取り扱う業界においては、カリウムを原材料とする商品が製造・販売されている実情があり、同業界においては、商品説明等において、『原材料○○の効能を有する商品』であることを表す際に、『○○の力』の文字が使用されている事実がある。以上のことから、本願商標全体からは、『カリウムの効能』の意味合いが生じるものといえる。そうすると、本願商標は、これをその補正後の指定商品に使用するときは、これに接する取引者・需要者は『カリウムの効能を有する商品である』と理解するにとどまり、自他商品の識別標識として認識し得ないものといわざるを得ないから、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、「カリウムの力」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「カリウム」の文字は「アルカリ金属元素の一種。」の意味を、また、「力」の文字は「自らの体や他の物を動かし得る、筋肉の働き。能力。実力。ききめ。おかげ。」などの意味を有する(いずれも「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)ものであって、これらの文字を格助詞「の」で結合してなる本願商標全体としては、例えば「カリウムの実力」、「カリウムのききめ」など、各語の語義を結合した多様な意味合いを連想、想起させ得る。
 また、当審において、職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「カリウムの力」の文字が、商品の具体的な品質等を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 してみれば、本願商標は、構成文字全体としては意味合いが漠然としており、その指定商品に係る商品の品質等を表示するものとして取引上普通に使用されている実情もないから、これを補正後の指定商品に使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとはいうことはできない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するとはいえないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/10/15