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A. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-2396、令和3年11月4日審決、審決公報第264号)

別掲 本願商標(色彩については原本参照。)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第18類「かばん類,・・・、等」、第25類「ワイシャツ類,・・・、等」及び第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,・・・」(指定商品・役務の詳細は省略)を指定商品及び指定役務として、令和元年5月16日に登録出願されたものである。
 本願は、令和2年6月4日付けで拒絶理由の通知がされ、同年7月21日に意見書が提出されたが、同年11月16日付けで拒絶査定がされ、これに対して同3年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 原査定は、「本願商標は、『Kamakura』の文字と『ShirtS』の文字を上下2段に横書きしてなるところ、その構成中『Kamakura』の文字は、神奈川県の市である『鎌倉』を、『ShirtS』の文字は、『シャツ』を直ちに理解させるから、本願商標は、全体として『鎌倉市のシャツ』といった意味合いを理解させるものである。そうすると、本願商標を、指定商品中、第25類『ワイシャツ類,被服』に使用しても、これに接する需要者は、鎌倉市で製造又は販売されるシャツであること、すなわち、商品の品質(産地、販売地)を認識するにとどまるといえるから、本願商標は、商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものである。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、鎌倉市で製造又は販売されるシャツ以外の商品に使用するときは、鎌倉市で製造又は販売されるシャツであるかのように、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。また、・・・、本願商標を、この商標登録出願に係る指定役務中、『被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』に使用しても、これに接する需要者は、取扱商品が、鎌倉市で製造又は販売されるシャツであること、すなわち、取扱商品の品質(産地、販売地)を認識するにとどまり、何人かの業務に係る役務であることを認識することができないといえる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当し、本願商標を、鎌倉市で製造又は販売されるシャツ以外の商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供に使用するときは、鎌倉市で製造又は販売されるシャツの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供であるかのように、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。さらに、本願商標は、これを出願人がその指定商品及び指定役務に使用した結果、需要者が何人かの業務に係る商品及び役務であることを認識することができるものとは認められないから、商標法第3条第2項の要件を満たさない。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、「Kamakura」の欧文字と「ShirtS」の欧文字を二段に、やや左右にずらして表してなるところ、本願商標の構成中の「Kamakura」の文字は、「神奈川県南東部、相模湾に臨む市」(出典:広辞苑第七版)である「鎌倉」を、「ShirtS」の文字は、本願指定商品に含まれる「シャツ」を理解させるものである。
 ところで、「シャツ」という商品は、一般的には、その土地や地域に由来する原材料や製法を有する商品ではなく、海外を含め、あらゆる地域で製造、販売されているものであり、神奈川県鎌倉市において、「シャツ」が盛んに製造されているとか、「シャツ」の販売地として知られているとする事実は認められない。
 そうすると、原審説示のとおり、本願商標から「鎌倉市のシャツ」といった意味合いを理解させることがあるとしても、本願商標を、指定商品中、第25類「ワイシャツ類,被服」に使用した場合、これに接する需要者が、その商品が「鎌倉市で製造又は販売されるシャツ」であること、すなわち、商品の産地、販売地を認識するにとどまり、指定役務中、「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に使用した場合、これに接する需要者が、その取扱商品が「鎌倉市で製造又は販売されるシャツ」であること、すなわち、取扱商品の産地、販売地を認識するにとどまるとはいい難いものである。
 さらに、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品及び指定役務を取り扱う業界において、本願商標あるいはこれに類する文字が、商品の産地、販売地や、小売等役務の取扱商品の産地、販売地を表示するものとして、取引上普通に使用されていると認めるに足る事実は発見できなかった。
 また、本願商標は、別掲のとおり、セリフを持つ書体で、「ShirtS」の文字の末尾の「S」を大文字にして左右のバランスを取るように表されており、色彩も一色でまとまりよく一体的にデザインされているものである。
 そうすると、本願商標が、商標法第3条第2項の要件を具備するものであるか否かについて検討するまでもなく、本願商標は、むしろ、「Kamakura」の文字と「ShirtS」の文字とを結合させたところに意外性のある一種の造語よりなるものと判断するのが相当であり、その一体的なデザイン性も相まって、これをその指定商品及び指定役務に使用しても、自他商品及び自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものといわざるを得ず、かつ、商品の品質及び役務の質の誤認を生じるおそれはないものというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「B−DASH」は、商標法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-4266、令和3年11月8日審決、審決公報第264号)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「B−DASH」の文字を横書きしてなり、第25類「運動用特殊靴,履物」を指定商品として、令和2年4月24日に登録出願されたものである。
 原審では、令和2年10月12日付けで拒絶理由の通知、同年11月7日付けで意見書の提出、同年12月23日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同3年4月2日付けで本件拒絶査定不服審判が請求されている。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「B−DASH」の文字を普通に用いられる方法で書してなるところ、これは、国土交通省が新技術の研究開発及び実用化を加速することにより、下水道事業における低炭素・循環型社会の構築やライフサイクルコスト縮減、浸水対策、老朽化対策等を実現し、併せて、本邦企業による水ビジネスの海外展開を支援するために行っている「下水道革新的技術実証事業」の著名な略称である「B−DASHプロジェクト」(以下「引用標章」という。)と同一又は類似する。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「B−DASH」の文字を横書きしてなるところ、その構成文字は「B」の欧文字と、「突進する。勢いよく走る。」の意味を有する「DASH」の欧文字(「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)を、ハイフンを介して横一列に結合してなるもので、構成文字全体でまとまりよく一連一体の造語を表してなると認識、理解できる。
 そして、原審が引用する国土交通省の事業の略称とされる引用標章「B−DASHプロジェクト」は、本願商標とは、その構成文字に「B−DASH」の文字を含む点で共通するものの、語尾の「プロジェクト」の文字の有無により互いに異なる語を表してなると容易に認識、理解できるから、本願商標をその指定商品に使用するときであっても、それに接する需要者及び取引者をして、直ちに引用商標やそれに係る事業との関連を連想、想起させるとはいい難く、互いに類似するものではない。
 そうすると、本願商標は、引用標章とは同一又は類似しないから、その他の要件について言及するまでもなく、商標法第4条第1項第6号の所定の要件を充足しない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/10/15