最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「MOD」は、商標法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-16154、令和3年12月6日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「MOD」の文字を標準文字で表してなり、第9類「腕時計型携帯情報端末」及び第14類「身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,宝石箱,腕時計,宝飾品,キーホルダー,貴金属,時計,時計バンド」を指定商品として、令和元年11月13日に登録出願されたものである。
 本願は、令和2年7月14日付けで拒絶理由の通知がされ、同年8月17日に意見書が提出されたが、同年9月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、『MOD』の文字を標準文字により表してなるところ、当該文字は、『自衛隊を管理・運営する中央行政機関。』である『防衛省』(英語表記:Ministry of Defense)の著名な略称『MOD』と同一のつづり字からなるものである。したがって、本願商標は、国の機関を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標というのが相当だから、商標法第4条第1項第6号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「MOD」の文字を標準文字で表してなるところ、たとえ、当該文字が、原審説示のとおり、「防衛省」の英語表記「Ministry of Defense」の略称である「MOD」とそのつづり字を同一にするものであるとしても、当該文字が、上記行政機関を表示するもの、あるいは上記行政機関の略称として、本願商標の出願時及び査定時において、我が国において著名なものとなっているものと認められる事実を見いだすことはできなかった。
 そうすると、本願商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者は、直ちに、「防衛省」の著名な略称を表示したものとは認識し得ないとみるのが相当であり、加えて、本願を出願人が使用採択することが、上記行政機関の権威を損なうことになるともいい難いというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B.  本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-3343、令和3年11月24日審決)

別掲 本願商標

 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「MONET」の文字を別掲1のとおりに表してなり、第9類、第12類、第35類、第37類、第38類、第39類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として(※別掲2の記載は省略)、平成30年10月1日に登録出願されたものである。
 本願は、令和2年3月5日付けで拒絶理由の通知がされ、同年4月20日及び6月9日に意見書が提出されたが、同3年1月19日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、その構成中『O』の文字部分がやや太い書体で表された『MONET』の文字を横書きし、また当該文字が反射しているかのように装飾を施してなるものである。そして、『Monet』の文字が、印象派のフランス人画家で世界的に著名なクロード・モネ(Claude Monet)の見出しとして各種辞書に記載されていることを考慮すると、本願商標に接する需要者は、当該文字より、直ちに当該故人を想起させるものであるから、上記の者の遺族等の承諾を得ることなく、本願商標をこの商標登録出願に係る指定商品及び指定役務について登録し、独占して使用することは、世界的に著名な死者の著名な略称の名声に便乗し、故人の名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するものと認める。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

(1)本願商標について
 本願商標は、別掲1のとおり、「MONET」の欧文字を「O」の文字のみ極太で表し、構成文字全体の下部に薄く影を表してなるところ、「MONET」の文字は、本願商標の登録出願時はもとより現在においても、フランス印象派の画家である「モネ(Claude Monet)」の著名な略称として、一般に理解、認識されているといえる(「広辞苑第七版」、「ランダムハウス英和大辞典 第2版(1745頁)(小学館)」、フランス及び日本を始めとするモネ作品の所蔵美術館と作品名が列記された記事(気になるアート.com http://kininaruart.com/artist/world/monet.html)など)。

(2)商標法第4条第1項第7号について
 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号)。

(3)本願商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
 本願商標は、別掲1のとおり、「MONET」の欧文字を「O」の文字のみ極太で表し、構成文字全体の下部に薄く影を表してなるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではないことは明らかである。
 また、請求人の主張及び証拠によれば、「MONET」は「Mobility Network」からとったものであり(甲6)、請求人は、日本の社会課題の解決や新たな価値創造を可能にするモビリティサービスの実現と普及を目的とした業務を提供するにあたり、本願商標の出願において別掲2の商品及び役務を指定しているところ、当該商品及び役務は、「自動車」、「通信」、「車両による輸送」等、絵画とは関係性が希薄なものである。
 そうすると、たとえ「MONET」の文字を構成中に含む本願商標からフランス印象派の画家「モネ(Claude Monet)」を想起する場合があるとしても、本願商標を、その指定商品及び指定役務について使用することが、当該人物の略称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図を持ってした出願と認めることはできず、また、当審における職権による調査をもってしても、これが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するなどの事実を見いだすことはできない。
 さらに、上記の経緯で出願され、画家「モネ(Claude Monet)」の名声を僭用して不正な利益を得るために使用する目的、その他不正な意図をもってなされたものと認められない本願商標を、その指定商品及び指定役務に使用しても、フランス国若しくはフランス国民を侮辱し、または国際信義に反するものということはできない。
 加えて、本願商標は、他の法律によって使用等が禁止されているものではなく、また、本願商標の登録出願の経緯に、社会的相当性を欠くところがあるというべき事情も見いだせないから、本願商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないということもできない。
 その他、本願商標が商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に当たるといえる具体的な事情を見いだすこともできない。

(4)まとめ
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '23/02/06