最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「背中角栄」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2020-6682、令和3年12月22日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、平成30年8月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
・令和元年 8月 6日付け:拒絶理由通知書
・令和元年10月 8日  :意見書
・令和2年  1月28日付け:拒絶査定
・令和2年  5月17日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「背中角栄」の文字を標準文字で表してなり、第21類「竹ぐし,台所用へら,しゃもじ,すりこぎ,はし,はし箱,まな板,麺棒,ようじ,孫の手,ほうき,ちりとり,靴べら」を指定商品として、登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、『背中角栄』の文字を標準文字で表してなるところ、新潟県生まれの政治家であり、1972〜74年に首相・自民党総裁を務めた周知、著名な政治家である『田中角栄』氏を容易に連想させる。そうすると、本願商標を、一私人である請求人の商標として登録することは、新潟県等の田中角栄氏のゆかりのある地域住民の感情を害するおそれがあり、田中角栄氏の名称を活用した観光振興や地域興しなどの施策の遂行を阻害するおそれがある。したがって、本願商標をその指定商品に使用することは社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきであるから、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、「背中角栄」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさをもって、等間隔に表されており、外観上まとまりよく一体のものとして把握し得るものである。
 そして、「背中角栄」の文字は、一般的な辞書には載録がなく、また、特定の意味合いを有する語として知られているとも認められないものであって、たとえ、「田中角栄」氏が周知、著名な政治家であるとしても、かかる構成において、これに接する取引者、需要者が、「田中角栄」氏を想起するとはいい難く、構成全体で一体不可分の造語として認識するものとみるのが自然である。
 そうすると、請求人が本願商標を出願し、登録を受けることが、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関による観光振興や地域興しのための施策等に「田中角栄」の名称を利用することについて支障を生じさせるおそれがあるとはいい難いものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、当該文字を商標として採択、使用することが、「田中角栄」氏のゆかりの地とされる地域等の人々の感情を害するおそれや、同氏の名称を活用した観光振興や地域興しなどの施策の遂行を阻害するおそれがあると認め得る具体的な事情は、発見することができなかった。
 そして、本願商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような構成でないことは明らかであり、また、本願商標をその指定商品に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。
 また、本願商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
 さらに、本願商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるに足る具体的事実も見いだせない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕


B. 本願商標「遺品整理人」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-891、令和4年1月14日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「遺品整理人」の文字を標準文字で表してなり、第37類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、令和元年5月16日に登録出願されたものである。
 本願は、令和2年6月1日付けで拒絶理由の通知がされ、同年7月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月18日付けで審査官通知が通知され、同年9月15日に意見書及び手続補正書が提出され、最終的に指定役務が第37類「住宅内の清掃,ハウスクリーニング,エアコンディショナーの清掃,台所・トイレ・浴室・浴槽・洗面化粧台・押入れ又は下駄箱の清掃,住宅の清掃」と補正されたが、同年10月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同3年1月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、『遺品整理人』の文字を標準文字で現してなるところ、その構成中の『遺品』の文字は、『故人が残した品物』の意味を有するものであり、全体として、『故人が残した品物を整理する人』ほどの意味合いを認識させるものである。そして、『遺品整理人』の文字が、上記意味合いを表すものとして使用されている実情がある。そうすると、本願商標は、これをその指定役務に使用したときは、これに接する取引者、需要者に、『故人が残した品物を整理する人による役務』又は『故人が残した品物を整理する人に関する役務』であることを理解させるにすぎないというのが相当であるから、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、「遺品整理人」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔をもって、外観上まとまりよく一体的に表してなるものである。
 そして、本願商標を構成する、「遺品」の文字は「故人が残した品物」を、「整理」の文字は「乱れた状態にあるものをととのえ、秩序正しくすること。不必要なものを取り除くこと」を、「人」の文字は「ひと」を、それぞれ表す語(いずれも出典:広辞苑第七版 岩波書店)であって、「遺品整理人」の文字が、原審において説示した意味合いで使用されている事例が散見されるとしても、本願指定役務との関係においては、役務の質を直接的かつ具体的に表示したものとして直ちに理解されるとはいい難い。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定役務を取り扱う業界において、「遺品整理人」の文字が、役務の質を直接的に表示するものとして取引上一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を役務の質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その指定役務との関係において、役務の質を表示するものとはいえず、自他役務を識別する機能を果たし得るものというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '23/02/06