最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願標章(別掲)は、商標法第64条に規定する要件を具備する、と判断された事例
(不服2021-007935、令和4年6月28日審決)

別掲(本願商標)
 
1 本願標章及び手続の経緯

 本願標章は、別掲のとおり「新幹線」の文字を横書きしてなり、第39類「道路情報の提供,自動車の運転の代行,貨物の積卸し,引越の代行,船舶の貸与・売買又は運航の委託の媒介,船舶の引揚げ,水先案内,ガスの供給,電気の供給,水の供給,熱の供給,有料道路の提供,係留施設の提供,飛行場の提供,駐車場の管理,自転車の貸与,航空機の貸与,機械式駐車装置の貸与,包装用機械器具の貸与,家庭用冷凍冷蔵庫の貸与,家庭用冷凍庫の貸与,車椅子の貸与,信書の送達,航空機用エンジンの貸与,業務用冷凍機械器具の貸与,ガソリンステーション用装置(自動車の修理又は整備用のものを除く。)の貸与」を指定役務とし、登録第3066558号商標(以下「原登録商標」という。)に係る防護標章登録出願として、令和元年6月21日に登録出願されたものである。
 本願は、令和2年7月30日付けで拒絶理由の通知がされ、同年9月11日付けで意見書が提出されたが、同3年3月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年6月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2 原登録商標

 原登録商標は、本願標章と同一の構成よりなり、平成4年9月26日に登録出願、第39類「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,倉庫の提供,駐車場の提供,コンテナの貸与,自動車の貸与,船舶の貸与」を指定役務として、同7年8月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。


3 原査定の拒絶の理由

 原査定は、「本願標章は、他人がこれをその指定役務に使用しても、その役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるものとは認められない。したがって、本願標章は、商標法第64条に規定する要件を具備しない。」旨判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願標章は、原登録商標「新幹線」と同一の構成よりなり、請求人が原登録商標の権利者と同一人であることは、その標章を表示した書面及び商標登録原簿の記載から明らかである。
 そして、請求人提出の資料及び当審による職権調査によれば、1964年に東京・新大阪間(東海道新幹線)で新幹線が開業し、その後、山陽新幹線、東北新幹線、九州新幹線、北海道新幹線などが開業し、現在は北海道から鹿児島県まで南北に路線が結ばれているほか、山形新幹線、秋田新幹線、上越新幹線、北陸新幹線など、日本の各地域を結ぶ新幹線が開業されており(甲2(原審で提出の号証番号と重複するが、審判請求書に添付のものをいう。以下、甲1についても同じ。))、原登録商標は、請求人のほか、北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)及び九州旅客鉄道株式会社(以下、「JR九州」という。)(以下、請求人、JR北海道及びJR九州をまとめていうときは、「請求人等」という。)が、「鉄道による輸送」について使用する商標として、現在に至るまで請求人等各社によって使用されているものである(甲1、甲2、JR北海道及びJR九州の各ウェブサイト)。なお、請求人の主張及び提出された証拠によれば、JR北海道及びJR九州は、請求人によって原登録商標に係る通常使用権の許諾を得ている。
 その結果、新幹線の総延長距離は3千km以上に及び(「新幹線コンプリートブック」JTBパブリッシング発行)、旅客数量は、2018年が約3億8,600万人2019年が約3億7,000万人となっており(甲2)、また、2019年における東海道・山陽新幹線(東京・博多間)の1日あたりの輸送人員が658,500人(甲1)など、我が国の多くの者が利用をしている状況にあるといえる。
 さらに、日常的に「新幹線」に関する何らかのニュースが取り上げられていることに加え、例えば近年開業した又は近い将来開業する路線の沿線でのイベントや、過去に開業した路線の周年行事、他社の人気キャラクターとのコラボレーション企画など、世間の注目を集めるイベントが多数開催されている実情も見られる。
 以上よりすれば、原登録商標は、請求人等の業務に係る指定役務を表示するものとして、その取引者、需要者をはじめ、我が国一般に広く知られたものというべきである。
 加えて、請求人は「鉄道による輸送」以外にも、例えば、旅行業、倉庫業、駐車場業、広告業、金融業、旅館業及び飲食店業、設備工事業、電気供給事業等、多角的に事業を営んでおり(甲3)、また請求人等による「新幹線」の名称の使用についても、べんとう、菓子、食器、おもちゃ、文房具、被服、バッグ、USB、マスク、身飾品等、多様な商品に使用されている実情も見られる(当審による職権調査)ことも勘案すれば、原登録商標と同一の態様からなる本願標章が、他人によって本願の指定役務について使用された場合、これに接する取引者、需要者は、その役務が請求人又は請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがあると判断するのが相当である。
 したがって、本願標章が商標法第64条に規定する要件を具備しないものとして本願を拒絶した原査定は妥当でなく、取り消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕


B. 本願商標「食の北海道遺産」は、商標法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2021-010357、令和4年6月10日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和2年8月25日に登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和2年11月2日付け:拒絶理由通知書
 令和2年12月15日付け:意見書
 令和3年5月6日付け:拒絶査定
 令和3年8月4日付け:審判請求書


2 本願商標

 本願商標は、「食の北海道遺産」の文字を標準文字で表してなり、第35類に属する別掲(※記載省略)のとおりの役務を指定役務として、登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、「食の北海道遺産」の文字を標準文字で表してなる。そして、これは、「北海道に関係する自然・文化・産業などの中から、次世代へ継承したいものとして北海道遺産構想推進協議会が選定した有形無形の財産群」であり、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する著名な標章である「北海道遺産」と類似する。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、「食の北海道遺産」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は空白なく横一列に表してなるもので、構成文字全体でまとまりよく一連一体の造語を表してなると認識、理解できる。
 ところで、当審における職権調査によれば、「北海道遺産」の文字が、北海道の歴史、文化、生活や産業などの分野における有形・無形の財産を選定する事業の名称であることは認められるものの、当該文字が、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示するものとして、我が国において著名の程度に至っていると認められる事実を見いだすことはできなかった。
 そうすると、本願商標は、その構成文字に「北海道遺産」の文字を含むものの、当該文字は、著名なものとはいえないこと、さらに、本願商標はまとまりよく一体的に構成された態様よりなることを併せ考慮すれば、これに接する需要者及び取引者をして、直ちに「北海道遺産」やそれに係る事業との関連を連想、想起させるとはいい難い。
 そうとすれば、本願商標は、公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標ということはできないから、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '23/03/30