最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標(別掲1)は、商標法第4条第1項第11号に該当する、と判断された事例
(不服2021-15406、令和4年7月13日審決)

別掲1 本願商標

別掲2引用商標
(色彩は原本参照)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第43類及び第44類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、令和2年10月9日に登録出願されたものである。
 原審では、同3年4月1日付けで拒絶理由の通知、同年5月21日に意見書の提出、同年8月24日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同年11月10日に本件拒絶査定不服審判が請求され、同日に手続補正書が提出された。
 本願商標の指定役務は、当審における上記手続補正書により、第44類「美容,理容,日焼け施設の提供,入浴施設の提供,サウナの提供」他(※指定役務の詳細の記載省略)と補正された。


2 原査定の拒絶の理由

 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した登録第6002422号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成29年4月20日に登録出願、第44類「入浴施設の提供」を指定役務として、同年12月8日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。


3 当審の判断

(1)本願商標と引用商標の類似
ア 本願商標について
 本願商標は、別掲1のとおり、「yubune」の欧文字をややデザイン化して表してなるところ、そのデザイン化の程度は高いとはいえず、「yubune」の欧文字を表したものと無理なく看取できるものである。
 そして、該欧文字は、我が国の一般的な辞書等に載録がないものであって、指定役務との関係において直ちに何らかの意味合いを理解させるものでもないから,特定の意味合いを有しないものとして認識されるものである。
 また、このように特定の意味合いを有しない欧文字については、我が国で親しまれた英語又はローマ字の発音方法に倣って称呼するのが自然といえるから、本願商標は、その構成文字に相応して「ユブネ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
イ 引用商標について
 引用商標は、別掲2のとおり、茶色で小さく表された「天然温泉」の文字、その右横に少しデザインを施し、青色と水色で大きく表した「湯舞音」の漢字とその上に、その漢字の読みを特定するものと理解させる「ゆぶね」の茶色の平仮名を二段に表してなるものである。
 そして、引用商標構成中の「天然温泉」の文字部分は、「人工的に沸かしたものでなく、天然自然に湧き出る温泉」(「精選版 日本国大辞典」小学館株式会社)の意味合いで一般に広く知られており、その指定役務との関係では、役務の質を表したものと認識されるから、該文字部分は、役務の出所識別標識としての称呼及び観念は生じない。
 一方、「湯舞音」及び「ゆぶね」の文字部分は、他の文字に比べて大きく顕著に表されているところ、指定役務との関係で特定の意味合いを理解するということはないから、役務の出所識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。
 そうすると、引用商標構成中、大きく看者の目を引くように表された「湯舞音」及び「ゆぶね」の文字部分が、取引者、需要者に対し、役務の出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるものというべきであるから、引用商標は、その構成中の「湯舞音」及び「ゆぶね」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標(本願商標)と比較して商標の類否を判断することが許されるものである。
 したがって、引用商標からは、当該文字部分から、「ユブネ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
ウ 本願商標と引用商標の比較
 本願商標と引用商標は、全体の外観においては異なるものの、本願商標と引用商標の要部を比較すると、外観については構成文字の文字種(欧文字、漢字及び平仮名)に差異があるものの、当該差異は、欧文字と漢字及び平仮名の文字表示を相互に変更したものと理解されるにすぎず、漢字や平仮名を同じ称呼の欧文字で表記することが一般的に行われている取引の実情を考慮すると、文字種が異なることによる本願商標と引用商標の外観の相違は,両商標が別異のものであると認識させるほどの強い印象を与えるものではない。
 そして、本願商標と引用商標は、称呼については、「ユブネ」の称呼を同一とするものであり、また、観念についてはいずれも特定の観念が生じないから比較することができない。
 そうすると、本願商標は、引用商標とは、観念においては比較することができないものの、称呼を同一にし、外観においても別異のものであると認識させるほどの強い印象を与えるものではないから、外観、称呼及び観念が与える印象、記憶等を総合して全体的に考察すると、これを同一又は類似の役務について使用するときは、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるから、類似する商標というべきである。
エ 本願商標の指定役務と引用商標の指定役務との類否について
 本願商標の指定役務中「入浴施設の提供,サウナの提供」と、引用商標の指定役務の「入浴施設の提供」は、同一又は類似の役務である。

(2)請求人の主張
ア 請求人は、両商標から生じ得る特定の称呼のみを重視するのではなく、引用商標の外観及び観念並びにこれら各要素が与える印象、記憶、連想等の相違、また、本願商標の外観及び観念並びにこれら各要素が与える印象、記憶、連想等の相違をも総合して全体的に観察し、両商標の類否が判断されるべきである旨主張している。
 しかしながら、引用商標の構成中、「天然温泉」の文字は、上記(1)イのとおり、その指定役務との関係で、役務の質を表したものと認識される。そして、引用商標と本願商標とは、上記(1)ウのとおり、互いに類似するというべきである。
イ 請求人は、裁判例を挙げて、本願商標と引用商標の対比についても類似しないと判断されるべき旨主張している。
 しかしながら、請求人の援用する裁判例は、本願商標とは異なる商標に係るものであるから、本願商標と引用商標の類似に係る上記判断に影響を及ぼすことはないというべきである。
ウ したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(3)むすび
 以上のとおり、本願商標は、引用商標とは類似する商標であって、その指定役務も引用商標の指定役務と同一又は類似の役務について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当するもので、登録することはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕


B. 本願商標「無理なく、無駄なく、美しく」は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-4467、令和4年8月17日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「無理なく、無駄なく、美しく」の文字を標準文字で表してなり、第3類「口臭用消臭剤,動物用防臭剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料,つけづめ,つけまつ毛,化粧用コットン,化粧用綿棒」を指定商品として、令和2年8月27日に登録出願されたものである。
 本願は、令和3年6月25日付けで拒絶理由の通知がされ、同年9月10日に意見書が提出されたが、同年12月17日付けで拒絶査定がされたものである。
 これに対して、令和4年3月26日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨

 原査定は、「本願商標は、「無理なく、無駄なく、美しく」の文字を標準文字で表してなるところ、構成全体として、「無理や無駄をすることなく、美しくある様」等の意味合いが生じる。そして、「無理なく、無駄なく、美しく」の文字は、商品等や企業理念に関する広告・宣伝のための標語やキャッチフレーズとして使用されている実情がある。そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者は、消費者向けに商品の特徴や企業の理念・イメージを訴えるための標語やキャッチフレーズの一類型を表示したものと理解し、把握するに止まるものとみるのが相当である。したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないから、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「無理なく、無駄なく、美しく」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「無理」の文字は、「理由のたたないこと。強いて行うこと。するのが困難なこと。」等の意味を、「なく」の文字は、「ないこと。」の意味を、「無駄」の文字は、「役に立たないこと。益のないこと。また、そのもの。」の意味を有する語であり、また、「美しく」の文字は、「愛らしい。かわいい。いとしい。形・色・声などが快く、このましい。きれいである。いさぎよい。」等の意味(いずれも「広辞苑第七版」岩波書店)を有する「美しい」の連用形である。
 そして、本願商標の構成にあっては、他の言葉を補うことがない限り、全体として何らかの具体的な意味合いを理解させるものとはいい難いものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、「無理なく、無駄なく、美しく」又はこれに類する文字が、個人的な感想・思想を表すものや、文章中の表現の一つとして使用されている事実は散見されるものの、本願の指定商品との関係において、商品の説明、特性や優位性、品質、特徴等を表すものとして、また、企業の特性や優位性を表すものとして使用されている事実は発見できなかった。
 さらに、他に、「無理なく、無駄なく、美しく」の文字からなる本願商標について、これに接する取引者、需要者が、自他商品の識別標識とは認識しないというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の宣伝広告としてのみ認識されるものではなく、また、企業理念・経営方針としてのみ認識されるものでもなく、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと判断するのが相当であるから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものとはいえないものである。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するとはいえないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '23/11/09