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A. 本願商標(別掲1)は、商標法第4条第1項第11号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-6182、令和4年9月20日審決)

別掲1(本願商標)

別掲2(引用商標)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第14類「貴金属,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー」他(※指定役務の詳細の記載省略)及び第18類「かばん金具,がま口口金,蹄鉄,レザークロス」他(※指定役務の詳細の記載省略)を指定商品として、令和3年3月26日に登録出願された商願2021−36467に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、同年11月22日に登録出願されたものである。
 原審では、令和3年12月6日付けで拒絶理由の通知、同月27日付けで意見書の提出、同4年2月14日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同年4月25日に本件拒絶査定不服審判が請求されている。


2 原査定の拒絶の理由

 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するものとして、本願の拒絶の理由に引用した登録6433929号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおり、「STONEOCEAN」の欧文字を横書きしたものであり、令和3年3月1日登録出願、第14類「貴金属,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー」他(※指定役務の詳細の記載省略)及び第18類「かばん金具,がま口口金,蹄鉄,レザークロス」他(※指定役務の詳細の記載省略)を指定商品として、同年8月25日に設定登録されたものである。


3 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第11号該当性

ア 本願商標について
(ア)本願商標は、別掲1のとおり、上段に「ストーンオーシャン」の片仮名を、中段に「STONE」の欧文字、蝶を模した図形及び「OCEAN」の欧文字を、それらを斜めに横切るような曲線の間に、横一列に配置し、下段に「ジョジョの奇妙な冒険」の文字を表してなるところ、上中下の各段は、書体や文字の大きさを異にするものの、間を空けずに曲線を介して近接して配置されているから、構成全体として視覚上まとまりのよい不可分一体の構成からなるものである。
(イ)そして、本願商標の上段及び中段の文字部分(ストーンオーシャン、STONE OCEAN)の構成中、「STONE」(ストーン)の文字は「石」の意味を、「OCEAN」(オーシャン)の文字は「海」の意味を有する英語(外来語)である(参照:「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店、「広辞苑 第7版」岩波書店)が、両語を結合して成語となるものではなく、それぞれの語義を結合した意味合いも漠然としている。
(ウ)また、本願商標の構成中、「ジョジョの奇妙な冒険」の文字は、「荒木飛呂彦」著の漫画作品のタイトルに相当し、同作品は1987年に連載開始、同シリーズのコミックスの累計発行部数は1億部を突破、アニメ化や映画化、関連グッズ(アクセサリー等を含む。)の販売もされている(甲6、甲8〜甲14)。
 なお、同作品の第6部(ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン)のコミックスは、1巻(2000年発売)から17巻(2003年発売)が刊行され、そのアニメ作品のタイトルとして、本願商標と構成を共通にする標章が表示されている(甲3、甲12)。
(エ)以上を踏まえると、本願商標は、まとまりのよい不可分一体の構成や、構成全体としては漫画作品のタイトルに通じることを踏まえると、それぞれの構成部分(段)を分離して観察することは取引上不自然である。
 そして、本願商標の構成においては、「ストーンオーシャン」の片仮名が最も大きく書されているものの、需要者に対して強く印象及び記憶に残るのは、我が国で広く知られている漫画作品のタイトルである「ジョジョの奇妙な冒険」の文字部分というべきで、当該文字部分が、本願商標の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部であると認められる。
(オ)そうすると、本願商標は、その構成文字(要部を含む。)に相応して、「ジョジョノキミョウナボウケン」、「ストーンオーシャン」及び「ストーンオーシャンジョジョノキミョウナボウケン」の称呼が生じ、「荒木飛呂彦著の漫画作品」を想起させる。

イ 引用商標について
 引用商標は、別掲2のとおり、「STONEOCEAN」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成中「STONE」の文字は「石」の意味を、「OCEAN」の文字は「海」の意味を有する英語である(参照:「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)ものの、両語を結合して成語となるものではなく、それぞれの語義を結合した意味合いも漠然としている。
 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「ストーンオーシャン」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。

ウ 本願商標と引用商標の比較
 本願商標の要部(ジョジョの奇妙な冒険)と引用商標(STONEOCEAN)を比較すると、その構成文字(及びそれより生じる称呼及び観念)の明らかな差異により、外観、称呼及び観念のいずれも著しく相違する。
 また、本願商標の構成全体と引用商標を比較しても、外観においては、その欧文字部分(「STONE」、「OCEAN」)の構成文字を共通にするが、その他の文字部分及び図形部分の有無の差異により、判別は可能である。また、称呼においては、複数生じる称呼のうち、共通する称呼(ストーンオーシャン)を含むものの、その他の称呼の有無に明らかな差異があるから、相紛れるおそれはない。さらに、観念においては、引用商標からは特定の観念は生じないものの、本願商標の要部は「荒木飛呂彦著の漫画作品」を想起させるから、それぞれの印象において相違する。
 そうすると、本願商標と引用商標とは、要部の比較において著しく相違するもので、構成全体としても、外観及び称呼において相紛れるおそれはなく、観念における印象も相違するから、それらを総合して考察すれば、同一又は類似の商品について使用されるときであっても、その出所について相紛れるおそれはないから、類似の商標とは認められない。

エ 小括
 したがって、本願商標は、引用商標とは、類似する商標ではないから、その指定商品について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

(2)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しないから、同項同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B.  本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-6212、令和4年9月13日審決)

別掲(本願商標)
色彩は原本参照
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲のとおりの構成からなり、第14類、第16類、第25類及び第28類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、令和2年4月8日に登録出願されたものである。
 原審では、令和3年1月4日付けで拒絶理由の通知、同月25日受付で意見書の提出、同4年2月24日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同年4月25日に本件拒絶査定不服審判が請求され、同日受付で手続補正書が提出されている。
 本願商標の指定商品は、当審における上記の手続補正書により、第28類「釣り具」と補正された。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「Masakado」の文字を若干斜めに横書きし、その上に、馬に乗って弓を引く武将とおぼしきもののシルエット図形を配してなる。
 そして、本願商標の構成中「Masakado」の文字は、平安中期の武将として一般に広く知られている人物である「平将門」の略称として知られる「将門」を認識させるから、本願商標全体としては、その図形と相まって、「平将門」を表したものと認識する。
 また、平将門のゆかりの地において、同人を祀る神社等が観光地として知られており、同人を題材にした企画展等が開催されている実情がある。
 そうすると、平将門を表した本願商標を、同人との関係が認められない出願人が、自己の商標として、その指定商品について独占的に使用することは、その著名な故人の氏名を使用した観光振興や地域おこしなどの公益的な施策の遂行を阻害することとなり、社会公共の利益に反する。
 以上の理由から、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。


3 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第7号該当性
ア 本願商標は、別掲のとおり、馬上から弓を引く武将風の人物及び馬のシルエットを描いてなる図形(赤色)の下に、「Masakado」の欧文字を筆書き状の書体で横書きしたものである。
 そして、本願商標の構成中、欧文字部分は、「マサカド」と称呼できる語をローマ字表記してなるものだが、それに併記された武将風の人物及び馬の図形を併せ鑑みると、本願商標は構成全体として、「平安中期の武将」である「平将門」(たいらのまさかど)に通じる文字及び図形を表してなることを連想させる。
イ 他方、当審による職権調査によっても、「平将門」は、その伝承に由来する史跡や祭りなどが存在するとしても、それらと関連する事業において、本願商標と同一又は類似の標章を表示した、その指定商品(釣り具)と同一又は類似する商品(名産品、土産物)が広く販売されている事実は発見できず、また、それら事業の遂行が、請求人により妨害又は阻害されていることを具体的に示す事実関係は見いだせない。
 なお、請求人の主張によれば、請求人は、釣り具のルアーの企画、製造、販売を行っている会社であるところ、「矢の名手でもある平将門公が矢を射るがごとく狙ったポイントに刺さるようなルアーを作りたい」との思いから本願商標を採択したとされる。
ウ 以上を踏まえて検討すると、本願商標は、商標登録によって、同一又は類似の商標及びその指定商品と同一又は類似の商品及び役務に係る使用について禁止権が生じるとしても、その商標の構成態様及び補正された指定商品(釣り具)の範囲を鑑みれば、「平将門」と関連する公益事業の遂行に与える影響は、少なくとも現時点においては具体性を欠くもので、極めて限定的である。
 また、本願商標の登録出願の目的に、公益事業の遂行を阻害する目的など、何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はなく、さらに、その出願経緯が社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くことを示す具体的な証拠もない。
 そうすると、本願商標の使用や登録が、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するとまではいえないから、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ではない。
エ したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

(2)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しないから、本願商標が同項同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '23/11/09