最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「天ぷらとワイン小島」は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-7912、令和5年2月27日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「天ぷらとワイン小島」の文字を標準文字で表してなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、令和3年5月20日に登録出願されたものである。
 本願は、令和3年10月18日付けで拒絶理由の通知がされ、同年11月26日付けで意見書が提出されたが、同4年2月24日付けで拒絶査定され、これに対して、同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


2 原査定における拒絶の理由(要点)

 原査定は、「本願商標は、「天ぷらとワイン小島」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「天ぷら」の文字は「魚介類や野菜などに小麦粉を水でといたころもを着けて油で揚げた料理。」の意味を、「ワイン」の文字は「葡萄ぶどうの果汁を発酵させて作った酒。」の意味を、「小島」の文字は「姓氏の一つ。」の意味を有する語であるから、本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する需要者は、当該役務が「小島という姓氏の者による天ぷら及びワインの提供」であることを想起し、出願人の業務に係る役務であることを理解するというよりも、単に役務の質を簡潔に表した語句として認識するにとどまる。したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないものであるから、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断
 本願商標は、上記1のとおり「天ぷらとワイン小島」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ、同じ書体、間隔なく横一列にまとまりよく一体的に表されており、これより生じる称呼「テンプラトワインコジマ」も格段冗長ではなく、無理なく一連に称呼し得るものであるから、構成文字全体として一連一体の語を表してなると認識、看取されるものである。  そして、本願商標の構成中の「天ぷら」の文字が「魚介類や野菜などに小麦粉を水でといたころもを着けて油で揚げた料理。」の意味を表すものであり、また、「ワイン」の文字が「葡萄の果汁を発酵させて作った酒。」の意味を、「小島」の文字が「姓氏の一つ。」又は「小さい島」の意味を有する語(いずれも「広辞苑 第7版」岩波書店)であるとしても、これらを結合した構成文字全体として特定の意味を有する慣用句となるものではなく、各文字の語義を結合して連想、想起される意味合いも漠然とした抽象的なものであるから、本願商標は、構成文字全体として特定の店舗名を表したものと認識されるとみるのが自然である。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定役務を取り扱う業界において、「天ぷらとワイン小島」の文字またそれに類する文字が、取引上一般に採択、使用されている事実を発見できず、さらに、本願の指定役務の取引者、需要者が当該文字を自他役務の識別標識とは認識しないというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、これをその指定役務について使用した場合、その構成文字全体に相当する店舗名として自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであり、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標とはいえない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「グラッセ」は、商標法第3条第1項第1号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-10020、令和5年2月28日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年8月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和4年1月24日付け:拒絶理由通知書
令和4年3月11日  :意見書、手続補正書の提出
令和4年3月25日付け:拒絶査定
令和4年6月29日  :審判請求書、手続補正書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「グラッセ」の文字を標準文字で表してなり、第31類に属する願書に記載のとおりの商品を指定商品として登録出願されたものである。
 本願の指定商品は、原審及び当審における上記1の手続補正書により、最終的に第31類「かぼちゃ,かぼちゃの種子,かぼちゃの苗」に補正されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「グラッセ」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、これは過去に「ヒロデンドロン」について種苗法(平成10年法律第83号)の規定による品種登録を受けていた品種(登録番号:第3479号)の名称と同一である。
 そうすると、本願商標をその指定商品中の「種苗またはこれに類似する商品」に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「グラッセ品種のヒロデンドロンに係る商品」であることを認識するものであり、また、本願商標を「グラッセ品種のヒロデンドロンに係る商品」以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第1号及び同法第4条第1項第16号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、「グラッセ」の文字を標準文字で表してなるものであり、これは「野菜をバターや砂糖を加えた水で煮たり、菓子の表面に糖衣をかけたりして、つやのある仕上がりにしたもの。」(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)を意味する語として、我が国においても知られているものである。
 そして、農林水産省公表の情報(請求人の提出した第1号証)によれば、「Philodendron Schott(和名:ヒロデンドロン属)」について、「グラッセ」を登録品種の名称として、1993年(平成5年)3月17日に品種登録がされており、その育成者権は2000年(平成12年)3月18日に消滅している事実が認められるところ、請求人の提出した第3号証及び第4号証によれば、ヒロデンドロン属(フィロデンドロン属)に属する植物は、おおむね観葉植物として扱われているものであって、当審における補正後の本願の指定商品である「かぼちゃ,かぼちゃの種子,かぼちゃの苗」に直接関連するものは見当たらない。
 そうすると、本願商標は、その指定商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえない。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「グラッセ」の文字が、ヒロデンドロン属の品種の名称を表示するものとして一般に使用されている事実は発見できず、そのほか、本願商標に接する取引者、需要者が、上述のとおりの成語でもある「グラッセ」の文字を、植物の品種の名称又は商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合に、それがあたかもヒロデンドロン属の品種に係る商品であるかのごとく、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるともいえない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第1号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/05/09