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A. 本願商標「神室落花生」は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-9657、令和5年3月22日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年5月31日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和4年 1月28日付け:拒絶理由通知書
 令和4年 3月 3日 :意見書、手続補正書の提出
 令和4年 3月23日付け:拒絶査定
 令和4年 6月23日 :審判請求書、手続補正書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「神室落花生」の文字を標準文字で表してなり、第29類ないし第32類に属する願書に記載のとおりの商品を指定商品として登録出願されたものである。
 本願の指定商品は、原審及び当審における上記1の手続補正書により、最終的に別掲(※別掲の記載は省略。第30類「落花生,加工済ピーナッツ」、第30類「ピーナッツまたはピーナッツの粉末を用いた菓子」他)のとおり補正されたものである。


3 原査定における拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「神室落花生」の文字を標準文字で表してなるものであり、その構成中、「神室」の文字は、「秋田・山形県境にある山。」等の意味を有し、商品の産地、販売地を表すものといえ、また、「落花生」の文字は、本願の指定商品又はその原材料を表すものといえる。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用したときは、これに接する取引者、需要者は、「神室山周辺地域で製造又は販売される落花生」又はこれを使用した商品ほどの意味合いを認識するというのが相当であるから、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。


4 当審の判断
 本願商標は、「神室落花生」の文字を標準文字で表してなるものである。
 そして、その構成中、「神室」の文字は、それ自体は一般的な国語辞典に掲載のないものであり、我が国の地名を網羅的に載録する辞典(「コンサイス日本地名事典 第5版」株式会社三省堂)において「秋田県と山形県の境にある山名など。」との記載がある程度である。
 また、「神室」の文字が、一部の取引者、需要者において、秋田県と山形県の境にある山である「神室山」を想起させる場合があるとしても、同山が本願の指定商品の取引者、需要者において広く知られているといった事情は見当たらず、また、「神室」が「神室山」の略称等として広く使用されているとか、神室山周辺の地域において「神室」「神室市(町、村、区)」や「神室地区(地域)」といった地域名が存在するといった事情も見当たらないことからすると、本願商標に接する一般的な取引者、需要者において、「神室」の文字より具体的な意味合いが直ちに想起されるものとはいえない。
 また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「神室落花生」の文字、若しくは、これに類する文字、又は、「神室」の文字と商品名(○○)とを結合させてなる「神室○○」の文字が、「神室山周辺地域で製造又は販売される落花生(若しくは○○)」ほどの意味合いで、商品の品質を表示するものとして一般に使用されている事実は発見できず、そのほか、本願商標に接する取引者、需要者が、「神室落花生」の文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、全体として特定の意味を有しない造語というべきであって、これをその指定商品に使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「チムドンドン」は、商標法第4条第1項第15号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-13133、令和5年3月14日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「チムドンドン」の片仮名を標準文字で表してなり、第28類「遊戯用器具,スロットマシン,ぱちんこ器具」を指定商品として、令和3年9月8日に登録出願されたものである。
 原審では、令和4年3月10日付けで拒絶理由の通知、同年4月19日付けで意見書の提出、同年5月18日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同年8月22日に本件拒絶査定不服審判が請求されている。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「チムドンドン」の文字を標準文字で表してなるが、これは、東京都渋谷区所在の日本放送協会(NHK)が、本願商標の登録出願前から宣伝・広報することにより周知となっている、2022年前期の連続テレビ小説の表題「ちむどんどん」(以下「引用商標」という。)と類似する。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用するときは、その商品があたかも前記会社の業務に係る商品であるかのように、あるいは前記会社と、組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。


3 当審の判断

(1)引用商標の周知性及び独創性について
 引用商標である「ちむどんどん」をタイトルとするNHKのテレビドラマは、2022年(令和4年)4月11日から放送されたもの(甲1)であり、その約1年前である2021年(令和3年)3月には同作品の放送予定はメディアなどを通じて公表されている(甲10、甲11)。そのため、引用商標は、本願商標の登録出願時(令和3年9月8日)において、我が国の需要者の間において、NHKで放送予定のテレビドラマのタイトルとして一定程度認知されていたと考えられるものの、本願商標の指定商品と関連するような具体的な商品に係る商標として使用され、周知、著名となっていたものではない。
 他方、「ちむどんどん」の語は、沖縄の方言で「心がドキドキする」の意味を有する表現である(甲11)から、引用商標は、造語でもなく、独創性の程度は高くはない。

(2)本願商標の指定商品と引用商標の使用に係るテレビドラマの関連性
 本願商標の指定商品である「遊戯用器具,スロットマシン,ぱちんこ器具」は、娯楽用機械製造業者により製造され、業務用娯楽機械器具卸売業者により、パチンコホールやパチスロ店などの遊技場に対して販売される商品である。他方、引用商標の使用に係るテレビドラマは、映像情報製作業者が制作し、放送事業者や映像配信事業者などにより提供される役務である。
 そうすると、本願商標の指定商品と引用商標の使用に係るテレビドラマとは、商品や役務の内容に密接な関連性はなく、取引業者や需要者層などにおける共通性の程度は低い。

(3)検討
 以上のとおり、引用商標は、本願商標の登録出願時において、NHKで放送予定のテレビドラマのタイトルとして一定程度認知されていたとしても、本願商標の指定商品と関連する商品に係る商標として周知、著名となっていたものではなく、また、その独創性の程度は高くはなく、さらに、本件商標の指定商品と引用商標の使用に係るテレビドラマとの間における取引業者や需要者層などにおける共通性の程度は低い。
 そうすると、本願商標は、引用商標と共通する語を表してなるとしても、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、引用商標との関連性や、他人(NHK)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

(4)まとめ
 以上によれば、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないから、本願商標が同項同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/09/16