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A. 本願商標「ハンモックトレー」は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-7009、令和5年4月4日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「ハンモックトレー」の文字を標準文字で表してなり、第20類「木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」を指定商品として、令和3年5月21日に登録出願されたものである。
 本願は、令和3年10月22日付けで拒絶理由の通知がされ、同年12月7日に意見書が提出されたが、同4年2月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2 原査定の拒絶の理由

 原査定は、本願商標は「ハンモックトレー」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「ハンモック」及び「トレー」の文字は、それぞれ、「丈夫な糸であらく編み、両端を柱や立木に吊り、寝床として用いる網」及び「盆状のいれもの」を意味する語として広く知られており、「包装用容器」の分野において、ハンモックのような支持体によって被包装物を宙吊り状態で支持する包装形態を「ハンモック包装」と称しており、また、「トレー」と呼ばれる浅い形状の容器についても、「ハンモック包装」を採用した商品が開発・販売等されている実情が認められることから、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者及び需要者は、当該商品が「ハンモックのような支持体によって被包装物を宙吊り状態で支持するトレー」であること、すなわち単に商品の品質を表示したものとして認識するにすぎず、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであり、前記商品以外の商品に使用した場合には、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるため、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する旨、認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、「ハンモックトレー」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「ハンモック」の文字は「柱の間や樹陰に吊り、寝床に用いる編糸製の網。寝網。吊床。」の意味(「広辞苑 第7版」株式会社岩波書店)を有し、「トレー」の文字は「浅い箱。」の意味(前掲書)を有する語であるが、これらの文字を結合した「ハンモックトレー」は、一般の辞書等や包装用容器に関する辞典に載録されているものではない。
 また、本願の指定商品は、「包装用容器」であるところ、当該商品との関係からは、「ハンモック」と「トレー」とを結合した「ハンモックトレー」が、どのような形状の商品であるのか、どのような構造的特徴を有する商品であるのかという点について具体性を欠くことから、「ハンモックトレー」は、特定の意味合いを生じさせない造語として一定の識別力を有しているといえるため、包装用容器の機能・特性・効果・効能等を表しているにすぎないとはいえず、特定の商品の品質表示としては具体性を欠くものである。
 そして、本願の指定商品について、請求人以外の者が、「ハンモックトレー」と称し、商品の品質や形状を表示するものとして実際に使用している事実もないことから、原審で提示した証拠を根拠として、「ハンモックトレー」の文字からなる本願商標が、本願の指定商品との関係において、原審説示の意味合いを理解するということはできず、むしろ、本願商標は、特定の意味合いを認識させることのないものと判断するのが相当である。
 加えて、当審において職権をもって調査すると、本願の指定商品を取り扱う業界とは異なる「猫用家具」等を取り扱う業界において、「猫用のハンモック(寝床)」を「ハンモックトレー」と称している事例が散見されるものの、本願の指定商品を取り扱う業界において、「ハンモックトレー」の文字が特定の商品の品質等を直接的又は具体的に表示するものとして取引上一般に使用されている事実は発見できず、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、本願の指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものとはいえず、自他商品を識別する機能を果たし得るものであり、かつ、本願商標をその指定商品に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものということもできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-9669、令和5年3月23日審決)
別掲 本願商標
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年7月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
  令和3年12月20日付け:拒絶理由通知書
  令和4年 2月14日 :意見書の提出
  令和4年 3月16日付け:拒絶査定
  令和4年 6月23日 :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第29類「加工水産物,お茶漬けのり,ふりかけ」及び第30類「調味料」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなるところ、本願の指定商品を始めとする食品業界において、多角形の輪郭図形が識別力を有する文字等と共にラベル等に広く使用されている実情に鑑みれば、本願商標が格別特異な印象を与える特徴を有するものとはいえず、これをその指定商品に使用したときは、これに接する需要者は、ありふれた輪郭等の図形からなるラベルの一種であると認識するにとどまるというのが相当であり、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすとはいい難いものであるから、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものというのが相当である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、灰色又は黒色を基調とし、六角形の内側に上部が開いた六角形状の図形を配し、内側の六角形状の左右辺内側は四分の一程度ずつ塗りつぶされているものである。
 そして、本願商標は、一見してそれが何を表したものか判然としないものであり、また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、本願商標やこれに類する図形が、商品の包装などに一般に使用されている事実は発見できず、そのほか、原審説示のように、本願商標に接する需要者が、それをありふれた輪郭等の図形からなる商品のラベルの一種であると認識し、自他商品の識別標識としては認識し得ないというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものとはいえないものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/09/22