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A. 本願商標(別掲)は、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-9170、令和5年6月30日審決)

別掲 本願商標
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年2月8日に出願されたものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年2月9日 :手続補正書の提出
 令和3年11月19日付け:拒絶理由通知書
 令和3年12月25日 :意見書の提出
 令和4年3月15日付け :拒絶査定
 令和4年6月15日 :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、別掲のとおり、「JPX」の欧文字を横書きしてなり、第7類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として登録出願されたものであり、その後、指定商品については、上記1の手続補正により、第7類「焼結機,その他の化学機械器具,鋳造機械器具,金属加工機械器具,プラスチック加工機械器具,半導体製造装置,業務用電気洗濯機,業務用攪はん混合機,業務用皮むき機,業務用切さい機,業務用食器洗浄機,軸(陸上の乗物用のものを除く機械要素),軸受(陸上の乗物用のものを除く機械要素),軸継ぎ手(陸上の乗物用のものを除く機械要素)」と補正されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、東京都中央区日本橋兜町2−1所在の「株式会社日本取引所グループ」の著名な略称である「JPX」の文字からなるものであり、かつ、その者の承諾を得ているものとは認めらない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第8号について
 商標法第4条第1項第8号は「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」とするものである。
 そして、商標の登録要件は、指定商品又は指定役務ごとに判断されるものであるから、本願商標の商標法第4条第1項第8号該当性の判断における、他人の略称の「著名性」も、本願商標の指定商品の属する分野との関連において検討されるべきである(平成14年(行ケ)第150号、東京高裁平成14年9月24日判決参照。)。

(2)本願商標の商標法第4条第1項第8号該当性について
 本願商標は、別掲のとおり、「JPX」の欧文字を横書きしてなるところ、当審において職権をもって調査するも、当該文字が「株式会社日本取引所グループ」の略称として用いられ、金融分野における需要者、取引者の間では知られているとしても、その略称が、本願商標の指定商品(「焼結機,その他の化学機械器具,金属加工機械器具」等)の分野における需要者、取引者の間にまで広く一般に知られており、当該分野において、「JPX」といえば上記「株式会社日本取引所グループ」のことを指していると認識させるほどの著名性を獲得していると認めるに足りる事実は見いだせない。
 そうすると、本願商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標ということはできないから、商標法第4条第1項第8号に該当するということはできない。

(3)まとめ
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当でなく、その理由をもって拒絶すべきものとすることはできない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「SHIMZ Beyond Zero 2050」は、商標法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-12071、令和5年6月21日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年5月25日に登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和3年12月 7日付け:拒絶理由通知書
 令和4年 1月24日受付:意見書
 令和4年 4月27日付け:拒絶査定
 令和4年 8月 4日受付:審判請求書


2 本願商標

 本願商標は、「SHIMZ Beyond Zero 2050」の文字を標準文字で表してなり、第35類、第37類、第40類、第41類、第42類及び第44類に属する別掲1に記載のとおりの役務を指定役務として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要旨

 本願商標は、「SHIMZ Beyond Zero 2050」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「Beyond Zero」の文字及びそれを片仮名文字で表した「ビヨンド・ゼロ」の文字は、「脱炭素社会」の実現を目指す我が国政府が、「世界全体のカーボンニュートラルの実現だけではなく、過去に大気中に排出された二酸化炭素の削減も目指す」という脱炭素化推進の戦略コンセプトを表す語として、脱炭素化推進に係る政策に関連して使用しているものである。
 してみれば、当該「ビヨンド・ゼロ(Beyond Zero)」の文字は、我が国政府が、脱炭素化を推進するために、各省庁等を通じて行っている公益に関する事業(政策)であって営利を目的としないものを表示する標章であり、かつ、一般によく知られている著名な標章であると判断するのが相当である。
 そして、「ビヨンド・ゼロ」又は「Beyond Zero」の文字は、上記のとおり、「世界全体のカーボンニュートラルの実現だけではなく、過去に大気中に排出された二酸化炭素の削減も目指す」という我が国政府の政策を表す標章として著名なものといえるから、本願商標構成中「Beyond Zero」の文字部分は、自他商品役務の識別標識として強く支配的な印象を与えるものと判断できる。
 そうすると、「Beyond Zero」の文字を要部とする本願商標と、上記の著名な「ビヨンド・ゼロ」又は「Beyond Zero」の標章とは、「ビヨンドゼロ」の称呼及び「「世界全体のカーボンニュートラルの実現だけではなく、過去に大気中に排出された二酸化炭素の削減を目指す」という我が国政府の脱炭素化推進に係る政策」の観念を共通にするから、両者は、類似する商標と判断するのが相当である。
 したがって、本願商標は商標法第4条第1項第6号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、「SHIMZ Beyond Zero 2050」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「Beyond Zero」及びそれを片仮名文字で表した「ビヨンド・ゼロ」等の文字は、「世界全体のカーボンニュートラルの実現だけではなく、過去に大気中に排出された二酸化炭素の削減も目指す」という脱炭素化推進の戦略コンセプトを表す語として、一般に使用されているほか、別掲2のとおり、民間の企業等がその事業の方針や目標を示す表示として使用するものや、あるいは、二酸化炭素削減に関係する意味合いではあるものの、政府とは直接の関連性の無い文脈において記述的な語として使用されているものである。
 したがって、「Beyond Zero」及びそれを片仮名文字で表した「ビヨンド・ゼロ」等の文字は、我が国の特定の機関や公益事業の標章として使用されるものというよりは、むしろ、企業、国民及び社会全体に浸透し、使用される標語の一つといえるものである。
 そうすると、本願商標は、その構成中に「Beyond Zero」の文字を有するとしても、商標法第4条第1項第6号にいう「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」ということはできない。
 したがって、本願商標が、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/09/16