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 本願商標「ARIGATOBANK」は、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-10440、令和5年6月8日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「ARIGATOBANK」の文字を標準文字で表してなり、第36類に属する別掲1(※記載省略)のとおりの役務を指定役務として、令和2年11月12日に登録出願された商願2021−139856に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、同3年12月17日に登録出願されたものである。
 本願は、令和4年1月24日付けで拒絶理由の通知がされ、同年2月18日に意見書が提出されたが、同年4月1日付けで拒絶査定がされ、これに対して同4年7月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

(1)本願商標について
 本願商標は、上記1のとおり、「 \ARIGATOBANK」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「ARIGATO」の文字は、「感謝の意をあらわす挨拶語」(広辞苑第7版)を意味する「ありがとう」の語をローマ字表記したものであり、「ありがとう」の語をローマ字表記することは一般的に行われており(別掲2(※記載省略))、「BANK」の語は、「銀行」等(出典:ジーニアス英和辞典第5版)を意味する平易な英単語である。
 そうすると、本願商標は、「ARIGATO」の語と「BANK」の語を組み合わせた構成よりなり、全体として「ありがとう銀行」の意味合いを認識、把握するというのが相当である。

(2)商標法第4条第1項第7号について
 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号)。

(3)本願商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
 本願商標は、上記(1)のとおり、「ARIGATO」の語と「BANK」の語を組み合わせた構成よりなり、全体として「ありがとう銀行」の意味合いを認識、把握するものであるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではないこと(上記<1>)、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合に当たらないこと(上記<4>)、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たらないこと(上記<5>)は明らかである。
 一方で、銀行法第6条第2項は、「銀行でない者は、その名称又は商号中に銀行であることを示す文字を使用してはならない。」と定めるところ、請求人が銀行であることは確認できないから、請求人は「銀行でない者」である。
 また、「BANK(バンク)」の文字は、「銀行」等を意味する英語であって、「ネットバンク」「メガバンク」等のように形式や規模を表す文字と結合して銀行であることを示して使用されていること、銀行の英名表記には「BANK」の文字が使用されていること(別掲3(※記載省略))から、本願商標構成中の「BANK」の文字は、「銀行であることを示す文字」といえる。
 さらに、本願商標が銀行業務に該当する指定役務について、請求人の名称や商号に使用されることは当然に想定されるものである。
 そうすると、本願商標は、銀行法第6条第2項によって使用禁止される要件を満たしているものといえ、商標法第4条第1項第7号が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に含まれるとする、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合(上記<3>)に該当するものというべきである。
 加えて、「銀行でない者」である請求人が、「BANK」の文字を含む本願商標を採択使用することは、これに接する取引者、需要者に対し、銀行の名称を表示したものと誤解、誤信させ、金融制度に対する社会的信頼を失わせることになるから、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものである。
 そうすると、本願商標は、商標法第4条第1項第7号が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に含まれるとする、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合(上記<2>)に該当するものというべきである。
 したがって、本願商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であって、商標法第4条第1項第7号に該当する。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、銀行法第6条第2項の文言上「商標」への言及はなく、銀行法第6条第2項を拡張解釈し、商標法第4条第1項第7号により、本願商標の商標登録を拒絶するというのは、予測可能性や法的安定性を害する旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、本願商標が銀行業務に該当する指定役務について、請求人の名称や商号に使用されることは、通常の商標使用の範囲として、当然に想定されるものであるから、銀行法第6条第2項を拡張解釈して、商標法第4条第1項第7号により、本願商標を拒絶するものとはいえない。
イ 請求人は、「銀行」の語源である「BANK」や「バンク」の文字の使用も禁止されるのか明らかでない旨主張する。
 しかしながら、銀行法第6条第2項は、「銀行であることを示す文字」の使用を禁止しているのであって、「銀行の文字」のみの使用を禁止しているものではないところ、上記(3)のとおり、「ネットバンク」「メガバンク」等のように形式や規模を表す文字と結合して銀行であることを示して使用されていること、銀行の英名表記には「BANK」の文字が使用されていること(別掲3)から、本願商標構成中の「BANK」の文字は、「銀行であることを示す文字」に該当するというのが相当である。
ウ 請求人は、パリ条約第7条、TRIPS協定第15条第4項により、指定役務が許可制、免許制であることを理由に、商標登録を拒絶することは、『いかなる場合にも』許されないから、本願商標の指定役務が、銀行法第4条第1項により許可制、免許制とされる「銀行業」であることを理由に、本願商標を拒絶することは、断じて許されない旨主張する。
 しかしながら、本件審決は、本願商標の指定役務が、許可制、免許制とされる「銀行業」であることを理由に、本願商標の登録を拒絶するものではなく、本願商標が、銀行法第6条第2項によって禁止される要件を満たしているものといえ、商標法第4条第1項第7号が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に含まれるとする、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合(上記<3>)に該当し、また、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合(上記<2>)に該当すると判断するものであるから、パリ条約第7条及びTRIPS協定第15条第4項に違反するものではない。
エ 請求人は、本願商標は、文言上、「有り難うという感謝の気持ちを集め、必要に応じて備えて蓄えておく機関」ないし「有り難うの気持ちが多く集まったもの又は組織」程の意味合いを想起させ、「アイバンク」、「骨髄バンク」、「データバンク」等と軌を一にする全体として一種の造語と理解される旨主張する。
 しかしながら、「BANK」の語に「貯蔵所」(出典:ジーニアス英和辞典第5版)などの意味があるとしても、「アイバンク」、「骨髄バンク」、「データバンク」のように、貯蔵の対象となる物を表す語と結合した例とは異なり、「ARIGATO(ありがとう)」は、通常、貯蔵の対象をなる物と理解しづらいものであるから、本願商標から、請求人が主張するような「有り難うという感謝の気持ちを集め、必要に応じて備えて蓄えておく機関」などの意味合いが、一般的に生じるとはいい難い。
 また、近時の銀行名においては、「あおぞら銀行」、「トマト銀行」、「もみじ銀行」などのような名称の銀行も実在していることからすると(別掲3)、本願商標は、「ARIGATO」の語と「BANK」の語を組み合わせた構成よりなり、全体として「ありがとう銀行」の意味合いを認識、把握するというのが相当であり、銀行の名称を表したものとみるのが自然である。
オ したがって、請求人の主張は、いずれも失当である。

(5)まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するから、これを登録することはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/09/16