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A. 本願商標(別掲1)は、商標法第4条第1項第11号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-11970、令和5年8月4日審決)
別掲1 本願商標
別掲2 引用商標
(色彩は、原本参照。)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、第7類、第9類及び第11類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、令和3年7月20日に登録出願されたものである。
 本願は、令和4年3月11日付けで拒絶理由の通知がされ、同年4月22日受付で手続補正書、意見書が提出されたが、同年5月2日付けで拒絶査定がされたものである。
 これに対して、令和4年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
 本願の指定商品については、原審における上記手続補正書により、第7類「金属加工機械器具,荷役機械器具,空気式搬送装置,化学機械器具」他(※記載省略)第9類「配電用又は制御用の機械器具,電気通信機械器具,遠隔測定制御機械器具,電子応用機械器具及びその部品,コンピュータソフトウェア」他(※記載省略)及び第11類「化学製品製造用乾燥装置,化学処理用熱交換器」他(※記載省略)と補正されたものである。


2 引用商標

 原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した登録第6163667号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成よりなり、平成30年8月21日に登録出願、第9類「電子計算機用プログラム,アプリケーションソフトウェア,コンピュータプログラム(記録されたもの又はダウンロード可能なもの),コンピュータソフトウェア,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機」を含む第9類及び第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和元年7月19日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 原査定は、本願商標の構成中「factor」の文字部分を分離抽出した上で、本願商標と引用商標とが類似するとして、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当する旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、別掲1のとおり、「factor」の欧文字と数字の「4」(「4」はデザイン化されている。)とを横書きに表した構成よりなるものである。
 そして、本願商標の構成中、数字の「4」は、横線の右端が矢印状になっており、縦線の下端が左方向に90度折れて伸びているとしても、原審説示のように図形の一種として看取されるというよりは、いまだ数字の「4」の特徴を有してなるというべきであり、数字の「4」をデザイン化してなるものと認識、把握されるとみるのが自然である。
 また、本願商標は、「factor」と「4」の文字とは大きさが異なるとしても、同じ間隔で、横一連に表されているものであり、外観上一体にまとまりよく表されているものであって、本願商標全体から生じる「ファクターフォー」又は「ファクターヨン」の称呼は、冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
 そうすると、本願商標は、構成全体が不可分一体のものとして認識されるというべきである。
 他に、本願商標の構成中の「factor」の文字部分のみが独立して、自他商品の識別標識として認識されるものとみるべき特段の事情は見当たらない。
 してみると、本願商標の構成中「factor」の文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するとした原査定の判断は、妥当なものとはいえない。
 他に、本願商標と引用商標とが類似するというべき事情は見いだせない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法3条第1項第6号及び同法第4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-21226、令和5年8月29日審決)
別掲 本願商標
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年12月9日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
  令和4年 6月 9日付け:拒絶理由通知書
  令和4年 8月18日 :意見書の提出
  令和4年 9月27日付け:拒絶査定
  令和4年12月27日 :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第3類「せっけん類,化粧品,香料,薫料,歯磨き」及び第44類「美容」を指定商品及び指定役務として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、下段に「THE GINZA SELECT」の欧文字と、上段にその読み仮名と認められる「ザ・ギンザ セレクト」の片仮名とを、普通に用いられる方法で上下二段に横書きしてなるものであるところ、その構成中の「THE」及び「ザ」の文字は、英語の定冠詞であり、「名詞に付けて、その語のもつ性質・機能などを強調したり、普通名詞をその典型を表す固有名詞のように扱ったりする。」等の意味を有する語であって、また、「GINZA」及び「ギンザ」の文字は、「東京都中央区の繁華街。」である「銀座」を認識させる語であり、「SELECT」及び「セレクト」の文字は、「よりぬくこと。」等の意味を有する語である。
 そして、商取引を行う業界においては、「その地域で製造・販売されている商品の中から選り抜きのもの」ほどの意味合いで、「地域名+セレクト」の文字が使用されている実情が認められるから、本願商標は、全体として、「東京都中央区銀座で製造・販売されている商品の中から選り抜きのもの」ほどの意味合いを認識させるものである。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用したときは、これに接する取引者、需要者に、「東京都中央区銀座で製造・販売されている商品の中から選り抜きのもの」であることを理解させるにすぎないというのが相当であるから、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標といえる。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当し、前記意味合いに照応する商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、「ザ・ギンザ セレクト」の文字と、「THE GINZA SELECT」の文字とを、上下二段に横書きしてなるものであるところ、その構成中の上段の文字は下段の文字の読みを片仮名で表したと容易に理解、認識できるものである。
 そして、本願商標の構成中、「ザ」「THE」の文字は、英語の定冠詞であって「普通名詞の前に付いて同類のものの中で特に代表的・典型的なものとして強調する語」(出典:「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)であり、また、「ギンザ」「GINZA」の文字は、「東京都中央区の繁華街。」(出典:同上)である「銀座」の語の読みを片仮名又はローマ字で表したと容易に理解し得るものであって、「セレクト」「SELECT」の文字は、「選択すること。よりわけること。」(出典:同上)を意味する語であるから、本願商標全体としては「銀座の選択されたもの、よりわけられたもの(という意味が強調されたもの)」ほどの意味合いを想起させるものではあるが、その意味合いは具体的ないし明りょうとはいい難いものである。
 そして、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「(ザ・)ギンザ セレクト」の文字若しくは「(THE)GINZA SELECT」の文字、又は、「○○(地名)セレクト」若しくは「○○SELECT」の構成よりなる文字が、原査定が述べるように「銀座(又は○○)で製造・販売されている商品の中から選り抜きのもの」ほどの意味合いで、広く一般に使用されている事実は発見できず、そのほか、本願商標が、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標とはいえず、また、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものということもできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/10/05