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A. 本願商標「PERSONY」は、商標法第4条第1項第15号に該当する、と判断された事例
(不服2022-18217、令和5年9月11日審決)
 
第1 手続の経緯

 本願は、令和3年11月16日の登録出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
  令和4年 6月 1日付け:拒絶理由通知書
  令和4年 8月20日付け:意見書、手続補正書
  令和4年 8月26日付け:拒絶査定
  令和4年11月12日付け:審判請求書、手続補正書


第2 本願商標

 本願商標は、「PERSONY」の文字を標準文字で表してなり、第35類、第41類及び第45類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、登録出願されたものであり、その後、指定役務については、上記第1の手続補正により、第41類に属する別掲1(※記載省略)に記載のとおりの指定役務に補正されたものである。


第3 原査定の拒絶の理由の要旨

 本願商標は、「PERSONY」の文字を標準文字で表してなり、その構成中に「SONY」の文字を有してなるところ、これは、ソニー株式会社が「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」等に長年使用し、本願商標の出願時には既に需要者に広く認識され、著名となっていたものであり、これが造語であることも相まって、この文字自体に顧客吸引力があるというのが相当である。
 そうすると、本願商標をその指定役務に使用するときは、需要者が、その構成中の「SONY」の文字部分に注目し、あたかもその役務がソニー株式会社又は同社と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。


第4 当審の判断

1 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)「SONY」の周知著名性及び独創性の程度について
 原査定において引用された「SONY」の文字からなる商標(以下「引用商標」という。)は、東京都港区に本社をおく日本有数の企業である「ソニーグループ株式会社」(以下「ソニー社」という。)がその取扱いに係る商品「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」等に使用して、本願商標の登録出願前から、我が国の需要者の間に広く知られているものと認められる。
 また、「SONY」の文字は、上記の他に意味を有しないものであるから、独創性の程度は高いといえる。

(2)本願商標と引用商標の類似性の程度について
 本願商標と引用商標は、それぞれ上記第2及び上記(1)のとおりの構成からなるところ、本願商標はその構成中、後半の「SONY」の文字が引用商標「SONY」とつづりを同じくするものであって、全体の7文字のうち4文字までを引用商標と共通にするものであるから、両商標はある程度の類似性を有するものといえる。

(3)企業における多角経営について
 ソニー社及び同社の傘下の企業は、別掲2のとおり、引用商標や、引用商標を冠した商標を使用し、エレクトロニクス、ゲーム、映画、音楽、金融、教育等の各種商品、サービスを提供し、多角的に事業を展開していることは明らかである。

(4)本願商標の指定役務と引用商標の商品との関連性の程度並びに需要者の共通性について
 本願商標の指定役務は、教育、娯楽に関するものであり、ソニー社の取扱いに係る商品「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」等とは、直接的な関連性を有するものではない。
 他方、本願商標の指定役務は、教育、娯楽に関するものであるから当該役務の需要者は、一般の消費者といえる。また、ソニー社の取扱いに係る商品「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」等は、教育や、映画及び音楽等の娯楽に関連する用途でも使用され、広く一般の消費者が使用又は提供される商品であるから、引用商標の需要者も、一般の消費者といえ、両者の需要者は共通であるということができる。

(5)出所の混同のおそれについて
 上記(1)のとおり、引用商標は、本願商標の登録出願前から、ソニー社の商標として我が国において広く知られ、相当程度の独創性も有すること、上記(2)のとおり、本願商標と引用商標とはある程度の類似性を有すること、上記(3)のとおり、ソニー社及び同社の傘下の企業は、エレクトロニクス、ゲーム、映画、音楽、金融、教育等の各種商品、サービスを提供し、多角的に事業を展開していること、上記(4)のとおり、本願商標と引用商標の需要者は、共に一般の消費者であり共通するものであることからすると、本願商標を請求人がその指定役務について使用するときは、これに接する取引者、需要者が、周知著名性を有する引用商標を想起、連想し、その役務が、あたかもソニー社又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

2 請求人の主張について
(1)請求人は、本願商標「PERSONY」の由来は、出願人が「個性が調和する社会を実現する」という理念のもと「Personal」と「Harmony」を繋げた造語であり、引用商標とは観念においても非類似であり、役務の出所について混同を生ずるおそれはない旨主張する。
 しかしながら、請求人の商標の採択の意図に関わらず、本願商標の構成からすれば、上記1(5)のとおり、本願商標を請求人がその指定役務について使用するときは、これに接する取引者、需要者が、周知著名性を有する引用商標を想起、連想し、その役務が、あたかもソニー社又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。

(2)請求人は、過去の登録例を挙げて、本願商標も同様に判断されるべきである旨主張する。
 しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第4条第1項第15号の規定に該当するか否かは、当該商標の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様や取引の実情を踏まえて、個別具体的に判断されるべきものであるところ、本願商標についての判断は、上記1のとおりであるから、請求人が挙げる登録例をもって本願商標の上記判断が左右されるものではない。

(3)したがって、請求人による上記主張は、いずれも採用することができない。

3 まとめ
 以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、これを登録することができない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標(別掲)は、商標法3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-21178、令和5年10月24日審決)
別掲1 本願商標
 
1 手続の経緯

 本願は、令和2年12月30日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
  令和3年10月22日付け:拒絶理由通知書
  令和4年 4月21日  :意見書の提出
  令和4年 8月17日  :上申書、手続補正書の提出
  令和4年 9月28日付け:拒絶査定
  令和4年12月27日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなり、第3類、第9類、第18類及び第21類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として登録出願され、その後、本願の指定商品については、前記1の手続補正により、別掲2(※記載省略)のとおりに補正されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「Off−White」の欧文字を普通に用いられる方法(筆記体)で横書きしてなるところ、「Off−White」の文字は、「オフホワイト」と称呼され、「わずかに他色をおびているが、ほとんど白に見える色。」程の意味合いの色名を表す英語として、一般に認識されており、各種商品における色彩表示としても「オフホワイト」の語が普通に用いられている。
 そうすると、本願商標は、これをその指定商品について使用する場合、その需要者の多くが、「オフホワイト色の商品」であるという、商品の品質(色彩)を表したものとして理解するにとどまり、自他商品の識別標識としては認識しないというべきである。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、別掲1のとおりの構成からなるところ、仮に「Off White」の文字からなると理解されたとしても、構成中前半の「Off」と思しき文字は、2文字目と3文字目の「f」が、ともに傾斜した直線状ではあるものの異なる態様で表されており、構成中後半の「White」の文字は、「W」の谷状の間隙を表示せず密着した状態で表すなど、全体として特徴的な書体からなり、看者に独特な印象を与えるものであるといえることから、普通に用いられる方法の域にとどまらず、その構成をして自他商品の出所識別標識としての印象を与える特徴を備えているというべきである。
 そうすると、本願商標は、その構成態様の特徴を鑑みれば、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえず、自他商品を識別する機能を果たし得るものである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/10/05