最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標「ISOBIONICS」は、商標法4条第1項第6号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-650094、令和5年10月3日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、2020年(令和2年)8月24日に国際商標登録出願されたものであって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
  2021年(令和3年) 9月22日付け:暫定拒絶通報
  2022年(令和4年) 1月 7日  :意見書の提出
  2022年(令和4年) 7月21日付け:拒絶査定
  2022年(令和4年)11月 4日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「ISOBIONICS」の文字を横書きしてなり、第1類「Chemicals used in industry, science and photography, as well as in agriculture, horticulture and forestry; unprocessed artificial resins, unprocessed plastics; manures; fire extinguishing compositions; tempering and soldering preparations; chemical substances for preserving foodstuffs; tanning substances; adhesives used in industry; chemical preparations for foods and the perfume industry.」、第3類「Natural aromas and fragrances for the perfume industry.」及び第30類「Natural aromas and fragrances for food.」を指定商品として、国際商標登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要点)

 本願商標は、「ISOBIONICS」の文字からなるところ、その構成中に「工業製品・部品・使用技術の規格統一を推進するための国際機関」である「国際標準化機構」(International Organization for Standardization)の著名な略称である「ISO」の文字を有するものであるから、公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと類似する。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。


4 当審の判断
 本願商標は、「ISOBIONICS」の文字を横書きしてなるところ、その構成文字は、すべて同じ書体、同じ大きさで、等間隔をもって表されてなるものであるから、視覚上、まとまりよく、全体として一体的に看取されるものである。
 また、本願商標の構成全体から生じる「アイソバイオニクス」又は「イソバイオニクス」の称呼も、格別冗長というものではなく、無理なく称呼し得るものである。
 そして、観念上も、本願商標を殊更「ISO」と「BIONICS」とに分断して観察しなければならないとする特段の理由を見いだすことはできない。
 そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「ISO」の文字部分のみに着目し、これを独立した識別標識として認識するとはいえず、むしろ、本願商標の構成文字全体をもって、特定の意味を有しない一体的な造語を表したものとして認識し、把握するというべきである。
 してみれば、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が、「国際標準化機構(International Organization for Standardization)」の略称である「ISO」を連想、想起するということはできないから、本願商標は、上記国際機関を表示する著名な標章とは類似しないものである。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕


B. 本願商標「社会保険労務士法人いつもここから」は、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2023-1143、令和5年9月22日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「社会保険労務士法人いつもここから」の文字を標準文字で表してなり、第35類、第41類及び第45類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として、令和4年1月13日に登録出願されたものである。
 本願は、令和4年6月23日付けで拒絶理由の通知がされ、同年8月18日に意見書及び手続補正書が提出され、指定役務については、別掲のとおりの役務に補正されたが、同年10月14日付けで拒絶査定がされた。
 これに対して令和5年1月23日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点

 原査定は、「本願商標は、「社会保険労務士法人いつもここから」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「いつもここから」の文字は、山田一成氏及び菊地秀規氏で構成されているお笑いコンビの著名な名称であり、他人の著名な芸名と認識されるものである。そうすると、本願商標は、他人の著名な芸名を含むものであるというのが相当であり、かつ、その者の承諾を得ているものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。


3 当審の判断

 本願商標は、上記1のとおり、「社会保険労務士法人いつもここから」の文字を標準文字で表してなるものである。
 そして、その構成中の「いつもここから」の文字について、当該名称(芸名)のお笑いコンビが、1996年7月に結成され、テレビ番組やテレビコマーシャルに出演するなどしていた(いる)事実があることは確認できる。
 しかしながら、当審における職権調査によっても、本願商標の登録出願時において、「いつもここから」というお笑いコンビの名称(芸名)が、広く一般の需要者の間において著名であると認め得るような事実を見いだすことができなかった。
 そうすると、本願商標を構成する文字のうち「いつもここから」と同一の芸名のお笑いコンビが存在するとしても、「いつもここから」が「常にこの場所を起点とする」程の意味合いにおいて、通常使用される語句であることも相まって、本願商標の登録出願時において、本願商標に接した者が、本願商標を構成する文字のうち「いつもここから」の文字部分から、お笑いコンビの名称(芸名)を連想、想起するものとは認められないから、本願商標は、商標法第4条第1項第8号の「他人の著名な芸名」を含む商標に当たるものということはできない。
 以上のとおり、本願商標は、他人の著名な芸名を含む商標ということはできないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
 よって、結論のとおり審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/10/05