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 本願商標「BIG BOSS」は、商標法4条第1項第15号に該当する、と判断された事例
(不服2022-20082、令和5年9月21日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「BIG BOSS」の文字を標準文字で表してなり、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」を指定商品として、令和3年11月8日に登録出願されたものである。
 原審では、令和4年2月9日付けで拒絶理由の通知、同年7月28日受付で意見書の提出、同年9月5日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同年12月10日に本件拒絶査定不服審判が請求されている。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「BIG BOSS」の文字を標準文字で表してなる。
 一方、北海道札幌市所在の株式会社北海道日本ハムファイターズは、球団のグッズとして、Tシャツ等を含む様々な商品を販売しているところ、同社が開催した新監督の就任会見では、「BIGBOSS」と記載された名刺が報道陣に配布され、その名刺は、就任会見時の「監督ってみなさん、言わないでください。ビッグボスでお願いします。」の発言とともに広く報道され、日本中で話題となっていることから、「BIGBOSS」(以下「引用商標」という。)は、本願商標の登録出願時において、広く知られた標章といえる。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用するときは、その商品があたかも前記会社の業務に係る商品であるかのように、あるいは前記会社と、組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。


3 当審による審尋(令和5年7月3日付け審尋)

 当審において、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当する旨の暫定的見解を、職権調査結果を含む証拠とともに通知し、請求人の意見を求めた。


4 請求人の意見(令和5年8月15日付け回答書)

 引用標章は、報道によって北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督の肩書又は別称(愛称)として一定程度知られているとしても、同球団の業務に係る商品又は役務を表示するものとして知られているものではなく、独創性の程度は低く、同球団のハウスマークではないとともに、本願商標の指定商品と商品や役務の内容に密接な関連性はなく、取引業者や需要者層などにおける共通性の程度は低い。
 したがって、本願商標をその指定商品に使用した場合でも、その商品があたかも北海道日本ハムファイターズの業務に係る商品であるかのように、あるいは、同球団と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じるおそれはない。


5 当審の判断

(1)引用商標の著名性について

ア 令和3年12月16日付け及び同4年9月7日付けの刊行物等提出書(それぞれに添付の資料を「甲1−○」、「甲2−○」と表記する。)並びに当審による職権調査結果を含む証拠によれば、以下の事実が認められる。

(ア)プロ野球球団である北海道日本ハムファイターズは、2021年11月4日に新庄剛志新監督の就任記者会見を開催し、その場において同氏の肩書を「BIGBOSS」とすることが公表された(甲1−2、4)。

(イ)種々のインターネット上のメディアにおいて、上記就任会見の内容及び様子は、以下のとおり、同日又は翌日中に広く報道された。
a 「産経新聞」のウェブサイトにおいて、「新庄氏、名刺の肩書は「BIGBOSS」」の見出しの記事情報が掲載されている(甲1−4)。
b 「スポニチ」のウェブサイトにおいて、「日本ハム・新庄新監督 名刺は「BIG BOSS SHINJO」 就任会見で報道陣全員に配布」の見出しの記事情報(2021年11月4日付け)が掲載されている(甲1−5)。
c 「スポーツ報知」のウェブサイトにおいて、「【日本ハム】新庄剛志監督が「BIGBOSS」の特製名刺を配布『監督』呼び禁止令」の見出しの記事情報(2021年11月4日付け)が掲載されている(甲1−6)。
d 「日刊スポーツ」のウェブサイトにおいて、「新庄新監督のビッグボス名刺が話題に「欲しい」「名刺交換したい」」の見出しの記事情報(2021年11月5日付け)が掲載されている(甲1−7)。
e 「デイリー」のウェブサイトにおいて、「新庄剛志監督「BIGBOSSと呼んで」名刺には「BIGBOSS SHINJO」」の見出しの記事情報(2021年11月4日付け)が掲載されている(甲1−8)。

(ウ)上記報道に加えて、当審による職権調査によれば、引用商標「BIGBOSS」(ビッグボス)を北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督の肩書又は別称(愛称)として紹介する新聞記事情報が、以下のとおり確認できる。
a 「朝日新聞」の「「新庄劇場」、さあ第2幕 日ハム監督就任、新球場「鳥肌立った」」の見出しの記事情報(2021年11月5日付け)において、「監督とは呼ばないで下さい。BIGBOSS(ビッグボス)!でお願いします」の記載がある。
b 「日刊スポーツ」の「新庄監督 優勝目指しません」の見出しの記事情報(2021年11月5日付け)において、「呼び名はBIGBOSS」の記載がある。
c 「東京読売新聞」の「「新庄劇場」再び 日本ハム新監督就任」の見出しの記事情報(2021年11月7日付け)において、「「ビッグボス」と呼んで」、「監督ってみなさん呼ばないでください。ビッグボスでお願いします。」の記載がある。
d 「日刊スポーツ」の「日本ハムサントリークラフトboss」の見出しの記事情報(2021年11月7日付け)において、「新庄監督が就任会見で発した「ビッグボス」がトレンドワードになっている。」の記載がある。
e 「日刊スポーツ」の「BIGBOSSリハーサル終了つかみは花丸」の見出しの記事情報(2021年11月11日付け)において、「BIGBOSSこと日本ハム新庄剛志監督(49)が、わずか3日で若手たちの心をガッチリつかんだ。」の記載がある。
f 「朝日新聞」の「「BIGBOSS」お出まし 日本ハム、札幌ドームでファンフェス」の見出しの記事情報(2021年12月1日付け)において、「新庄監督が登場したのは、イベント後半。球場内のスクリーンに「BIGBOSS」の文字が映し出されるとファンの拍手が頂点に達した。」の記載がある。
g 「毎日新聞」の「プロ野球:プロ野球 登録も「BIGBOSS」日本ハム・新庄監督」の見出しの記事情報(2022年3月25日付け)において、「日本ハムの新庄監督が24日、今季の登録名を本名ではなく、自ら流行させた愛称「BIGBOSS(ビッグボス)」にした。」、「選手にもファンにもすぐに浸透した愛称がすこぶる気に入っている様子だ。」の記載がある。

(エ)日本野球機構における北海道日本ハムファイターズ監督の登録者名は、2022年3月24日に「BIGBOSS」に変更された(甲2−2)。

(オ)北海道日本ハムファイターズの販売するレプリカユニフォームやTシャツなどには、「BIGBOSS」の文字を表示するものがある(甲2−1)。

イ 以上の認定事実によれば、北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督の肩書として、2021年11月4日の就任記者会見において公表され、同氏の日本野球機構における登録者名にもなった引用商標「BIGBOSS」は、新聞やインターネット上のメディアを含む様々な媒体などを通じて広く周知、報道された結果、我が国のプロ野球ファンだけでなく一般需要者の間において、同氏の別称(愛称)としてすぐに浸透、定着し、広く知られていることが認められる。
 そうすると、引用商標は、北海道日本ハムファイターズが、「野球の興行の開催」の役務と関連して、同球団の新庄剛志監督の肩書又は別称(愛称)として使用し、我が国のプロ野球ファンだけでなく一般需要者の間において、広く知られるに至っているものといえる。
 そして、引用商標の周知著名性は、当該名称の公表直後から数日間のスポーツ新聞や一般紙を含めた様々なメディアを通じた継続した報道により、本願商標の登録出願時点において既に確立されていたものといえる。

(2)商標法第4条第1項第15号について

ア 本願商標は、「BIG BOSS」の文字を標準文字で表してなるところ、引用商標である「BIGBOSS」の構成文字を含むものであるから、類似性の程度は極めて高い。
イ 引用商標は、上記(1)のとおり、北海道日本ハムファイターズが、「野球の興行の開催」の役務と関連して、同球団の新庄剛志監督の肩書又は別称(愛称)として使用し、本願商標の登録出願時及び現時点において、我が国において、広く知られるに至っているものである。
ウ 引用商標の使用に係るプロ野球球団の業務は、主として「野球の興行の開催」の役務の提供ではあるが、その選手や監督のユニフォームには選手名や監督名などが表示されることもあり、上記(1)ア(オ)のとおり、同様のレプリカユニフォームやTシャツ(引用商標を表示するものもある。)などの関連グッズも販売されていることを踏まえると、それら商品は本願商標に係る指定商品とは関連性がある。
エ 以上を踏まえると、本願商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する需要者は、著名な引用商標や、北海道日本ハムファイターズとの関連性を連想、想起するもので、同球団と営業上の関係又は商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤認するおそれがある。

(3)請求人の主張について

ア 請求人は、北海道日本ハムファイターズの新監督就任会見が開かれた日から本願商標の登録出願日までのわずか4日間というごく短期間における引用商標に関する報道により、本願商標の登録出願日における引用商標の著名性の程度を推し量ることができず、また、関連グッズが既に販売されていたかどうかや、販売実績や広告宣伝実績は不明であるから、引用商標は、同球団の監督の肩書として一定程度知られているとしても、本願商標の登録出願時及び審決時に、同球団の業務に係る商品等を表示するものとして取引者、需要者の間で広く認識され、著名になっていたとはいえない旨を主張する。
 しかしながら、上記(1)イのとおり、北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督の肩書として、2021年11月4日の就任記者会見において公表され、同氏の日本野球機構における登録者名にもなった引用商標「BIGBOSS」は、新聞やインターネット上のメディアを含む様々な媒体などを通じて広く周知、報道された結果、我が国のプロ野球ファンだけでなく一般需要者の間において、同氏の別称(愛称)としてすぐに浸透、定着し、広く知られていることが認められる。
 そうすると、引用商標は、北海道日本ハムファイターズが、「野球の興行の開催」の役務と関連して、同球団の新庄剛志監督の肩書又は別称(愛称)として使用し、我が国のプロ野球ファンだけでなく一般需要者の間において、広く知られるに至っているものといえる。
 そして、引用商標の周知著名性は、当該名称の公表直後から数日間のスポーツ新聞や一般紙を含めた様々なメディアを通じた継続した報道により、本願商標の登録出願時点において既に確立されていたものといえる。

イ 請求人は、引用標章は、報道によって北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督の肩書又は別称(愛称)として一定程度知られているとしても、同球団の業務に係る商品又は役務を表示するものとして知られているものではなく、独創性の程度は低く、同球団のハウスマークではないとともに、本願商標の指定商品と商品や役務の内容に密接な関連性はなく、取引業者や需要者層などにおける共通性の程度は低いから、本願商標をその指定商品に使用した場合でも、その商品があたかも同球団の業務に係る商品であるかのように、あるいは、同球団と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じるおそれはない旨を主張する。
 しかしながら、上記(2)ウのとおり、引用商標の使用に係るプロ野球球団の業務は、主として「野球の興行の開催」の役務の提供ではあるが、その選手や監督のユニフォームには選手名や監督名などが表示されることもあり、同様のレプリカユニフォームやTシャツ(引用商標を表示するものもある。)などの関連グッズも販売されていることを踏まえると、それら商品は本願商標に係る指定商品とは関連性がある。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する需要者は、著名な引用商標や、北海道日本ハムファイターズとの関連性を連想、想起するもので、同球団と営業上の関係又は商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤認するおそれがある。

(4)まとめ

 以上のとおり、本願商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第15号に該当するから、登録することはできない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/10/05