最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 本願商標(別掲)は、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-20500、令和6年1月9日審決)
別掲 本願商標
 
1 手続の経緯

 本願は、令和4年1月17日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
  令和4年 4月 1日  :刊行物等提出書
  令和4年 6月21日付け:拒絶理由通知書
  令和4年 8月 4日  :意見書の提出
  令和4年 9月14日付け:拒絶査定
  令和4年12月19日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、別掲の構成よりなり、第30類「小麦粉,食用粉類」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由の要点

 原審において、「本願商標は、ありふれた図形である円形内に「赤」の文字を配してなるところ、そのデザイン化の程度は格別特異なものともいえず、普通に用いられる方法の域を脱していない。そして、その構成中の「赤」の文字は、「色の名。三原色の一つで、新鮮な血のような色。」を意味する色彩表示の一つとして広く一般に認識されている。また、本願の指定商品を取り扱う業界においても、「赤」の文字が、「赤小麦」等のように商品の小麦等の原材料の色彩等を表示するものとして、一般的に使用されているから、本願商標全体として、「赤色の商品」程度の意味合いを容易に理解、認識させる。そうとすれば、本願商標をその指定商品について使用するときは、「赤色の商品」ほどの意味合いを表現したものと需要者に容易に理解、認識させるものであって、単に該商品の品質を表示するにすぎない。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、拒絶したものである。


4 当審の判断

 本願商標は、別掲のとおり、円輪郭内に「赤」の文字を配してなるものであるところ、我が国においては、古くから円輪郭内に平仮名、片仮名又は漢字の1字を配してなる標章が、商家等の屋号を表すいわゆるのれん記号として、広く類型的に用いられているというのが実情であるから、上記構成態様からなる本願商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、これをのれん記号の一類型として看取、理解する場合も決して少なくないと見るのが相当である。
 また、当審において職権をもって調査を行うも、本願の指定商品を取り扱う業界において、小麦の種類の一つに「赤小麦」が存在するものの、当該赤小麦が商品の原材料であることを表示するものとして「赤」の文字又は円輪郭内に「赤」の文字を配した標章が使用されている事実は見いだせず、加えて、本願の指定商品に赤色の色彩を有する商品が存在する事実も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、単に円輪郭内に色彩を表す「赤」の文字を配してなるものというよりは、むしろ、その構成全体をもって、商品の出所識別標識たり得るのれん記号の一として認識されるものというべきであり、これをもって、本願商標から、「赤色の商品」という商品の品質を表示したものと認識し得るということはできない。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しないから、同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「ASCIDIAN」は、商標法3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-650060、令和5年6月22日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、2020年(令和2年)11月18日に国際商標登録出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
  2021年(令和3年)10月20日付け:暫定拒絶通報
  2022年(令和4年) 2月 2日   :意見書の提出
  2022年(令和4年) 3月31日付け:拒絶査定
  2022年(令和4年) 7月 6日  :審判請求書の提出
  2022年(令和4年) 8月17日  :手続補正書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「ASCIDIAN」の文字を横書きしてなり、日本国を指定する国際登録において指定された第5類に属する「Biological preparations for medical use in medical and clinical gene therapy and cell therapy.」を指定商品として、2020年5月26日にUnited States of Americaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、国際商標登録出願されたものである。
 その後、本願の指定商品については、当審における上記1の手続補正により、第5類「Biological preparations for medical use in medical and clinical gene therapy and cell therapy using messenger RNA trans-splicing (excluding those containing ascidians or ascidian products).」と補正されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「ASCIDIAN」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなるところ、当該文字は英語で「ホヤ類」程の意味合いを有する語である。
 そして、新聞記事やインターネット情報によれば、近年、本願商標の指定商品「医療用生物学的製剤」を取り扱う分野において、ホヤ類又はそれらの生成物質を原料とした各種製剤が研究・開発・製造されている実情が窺える。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用したときは、これに接する取引者、需要者は、「ホヤ類あるいはホヤ類の生成物質を成分とする、医療用及び臨床用遺伝子療法及び細胞療法における医療用生物学的製剤」であること、すなわち、商品の原材料、品質を表示したものと認識するにすぎないというのが相当である。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。


4 当審の判断

 本願商標は、「ASCIDIAN」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなるところ、当該文字が、「ホヤ類」の意味(「ランダムハウス英和大辞典 第2版」(株式会社小学館))を有するとしても、当該意味を有する語として一般に知られているものとはいいがたい。
 そして、当審において職権をもって調査するも、本願商標「ASCIDIAN」の訳語である「ホヤ類」について、抽出される成分あるいは遺伝子発現に関連した研究が行われていることが窺われるものの、研究者の範囲は限定的とみられる上、本願の指定商品(参考訳:メッセンジャーRNAトランススプライシングを用いた医療用及び臨床用遺伝子療法及び細胞療法における医療用生物学的製剤(ホヤ類あるいはホヤ類生成物質を含むものを除く。))に関連する分野(製剤分野)での研究はより限定されるものとみられ、実効性を伴う現実的な使用例は確認できなかった。また、「ASCIDIAN」の文字(語)が、医薬分野及びバイオ分野において、広く使用される学名であるといった事実も見いだせない。
 さらに、「ASCIDIAN」の文字及びその訳語の「ホヤ類」が、商品の具体的な品質を表示するものとして一般に使用されている事実はもとより、本願商標に接する取引者、需要者が当該文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。
 そうすると、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質を表示するものということはできず、かつ、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものということもできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '24/10/05