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A. 本願商標「MIRACLE COACH」は、商標法4条第1項第15号に該当しない、と判断された事例
(不服2022-20739、令和5年11月14日審決)
 
1 手続の経緯

 本願は、令和3年10月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
 令和4年  3月24日付け:拒絶理由通知書
 令和4年  5月18日    :意見書の提出
 令和4年11月16日付け:拒絶査定
 令和4年12月21日  :審判請求書の提出


2 本願商標

 本願商標は、「MIRACLE COACH」の文字を標準文字で表してなり、第3類「化粧品」を指定商品として登録出願されたものである。


3 原査定の拒絶の理由(要点)

 本願商標は、「MIRACLE COACH」の欧文字を標準文字で書してなるところ、その構成中の「COACH」の欧文字は、アメリカ合衆国ニューヨーク州所在の「コーチ アイピー ホールディングス エルエルシー」(以下「コーチ社」という。)が、本願商標の登録出願前から商品「香水」等に使用して著名な商標「COACH」(以下「引用商標」という。)と類似するものである。
 してみれば、本願商標をその指定商品に使用した場合、その商品があたかも上記会社の業務に係る商品であるかのように、あるいは上記会社と、組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。


4 当審の判断

(1)商標法第4条第1項第15号について

ア 本願商標と引用商標の類似性の程度
(ア)本願商標は、「MIRACLE COACH」の文字を標準文字で表してなるところ、「MIRACLE」の文字と「COACH」の文字との間に一文字程度のスペースがあるものの、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさをもって、外観上まとまりよく一体的に表されているものである。
 そして、本願商標の構成中「MIRACLE」の文字は「奇跡」の意味を、「COACH」の文字は「コーチ、指導員」の意味を有する英語(いずれも「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)として、それぞれ我が国において親しまれているものであるから、両語を結合した本願商標全体として「奇跡のコーチ」程の意味合いを認識させるものである。
 そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して、「ミラクルコーチ」の称呼を生じ、「奇跡のコーチ(指導員)」の観念を生じる。

(イ)引用商標は、「COACH」の文字からなるところ、上記(ア)のとおり、当該文字は「コーチ、指導員」の意味を有する英語として、我が国において親しまれているものである。
 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「コーチ」の称呼を生じ、「コーチ(指導員)」の観念を生じる。

(ウ)本願商標と引用商標を比較すると、外観においては、識別上重要な要素である語頭において「MIRACLE」の文字の有無という明らかな差異があるから、両商標は、外観上、区別し得るものである。
 また、称呼においては、称呼上重要な要素である語頭において「ミラクル」の音の有無という明らかな差異があるから、両商標は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
 さらに、観念においては、本願商標からは「奇跡のコーチ(指導員)」の観念が生じるのに対し、引用商標からは「コーチ(指導員)」の観念が生じるから、互いに相違するものである。
 そうすると、本願商標と引用商標は、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれがないものであるから、両者の外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。

イ 本願の指定商品と引用商標の使用に係る商品の関連性の程度
 本願の指定商品は、前記2のとおり、化粧品であり、一般消費者を需要者とするものである。
 他方、引用商標の使用に係る商品は、当審における職権調査においては、「かばん類」を中心とする服飾関連商品であり、一般消費者を需要者とするものである。
 そうすると、本願の指定商品と引用商標の使用に係る商品とは、需要者の範囲が一部共通する場合があるとしても、商品の生産部門、販売部門、原材料、品質及び用途等において共通するとはいい難いものであるから、商品間の関連性の程度は低いものである。

ウ 小括
 以上のとおり、本願商標と引用商標は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標であること、本願の指定商品と引用商標の使用に係る商品の関連性の程度は低いものであることなどを鑑みれば、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が、コーチ社又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように認識することはなく、その商品の出所について混同を生じるおそれはないものというべきである。
 その他、本願商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

(2)まとめ

 以上のとおり、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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B. 本願商標「Benjamin Brown」は、商標法4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2023-4642、令和5年11月9日審決)
 
1 本願商標及び手続の経緯

 本願商標は、「Benjamin Brown」の文字を標準文字で表してなり、第25類及び第28類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、令和4年2月7日に登録出願されたものである。
 原審では、令和4年7月15日付けで拒絶理由の通知、同年9月5日受付で意見書及び手続補正書の提出、同年12月14日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同5年3月20日に本件拒絶査定不服審判が請求されている。
 本願商標の指定商品は、原審における上記の手続補正書により、第25類「ティーシャツ,帽子,被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,保温用フェイスマスク,履物」他(※一部記載省略),及び第28類「遊園地用機械器具,愛玩動物用おもちゃ,おもちゃ,人形」他(※一部記載省略)」と補正された。


2 原査定の拒絶の理由(要旨)

 本願商標は、「Benjamin Brown」の文字を標準文字で表してなるが、これは、イスラエルにあるヘブライ大学の准教授の人名を表したものであり、かつ、その他人の承諾を得ているものとは認められない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。


3 当審の判断

 本願商標は、「Benjamin Brown」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「Benjamin」の文字は「ベンジャミン(男の名)」の意味を、「Brown」の文字は「茶色の」又は「ブラウン(氏)」の意味を有する英語(参照:「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)であるが、構成文字全体としては、具体的な意味合いを想起させない造語を表してなると看取されるもので、特定の人物の氏名(原審指摘の人物を含む。)に直ちに通じるものではない。
 さらに、当審における職権調査によっても、原審指摘の人物の本名や、その者が現存しているかどうかの確認をすることができず、また、それが当該人物の略称などとして我が国において著名であることを裏付ける具体的な証拠は発見できない。
 そうすると、本願商標は、他人の氏名又は著名な雅号、芸名若しくは筆名を含む商標とはいえず、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '25/02/27