改正特許法等の解説・2005
〜職務発明・実用新案制度を中心に〜(2)

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  2.実用新案制度の改正
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(1)改正をめぐる動き
 実用新案制度は、商品のライフサイクルが短い考案を適切に保護すること等を目的として、平成5年法改正により無審査登録制度(実用新案法14条2項)へと大きく改正された。
 しかし、平成5年法律改正以降、特許出願の件数が年間42万件程度にまで増加し続けている一方で、実用新案登録出願は、平成5年改正直後の平成6年(1994年)に約16,000件と前年の5分の1近くにまで激減し、その後も漸減して平成14年(2002年)には約8,000件になった。
 このような状況にあるとはいえ、玩具業界などには無審査で早期に登録される実用新案に対して肯定的評価を下す企業も存在しており、中小企業や個人などには引き続き無審査登録の実用新案の利用を望む声もある(平成16年1月 産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会報告 特許庁ホームページ 資料集(産業構造審議会)http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm)。
 また、実用新案登録出願激減の一方での特許出願の増加は、特許出願における審査順番待ち期間の短縮化にとって大きな障害になっている。
 そこで、製品開発のリードタイムが短く、商品のライフサイクルも短い考案を早期登録によって保護する無審査登録制度を維持しつつ、より魅力ある実用新案制度にすることを目指すと共に、特許出願における審査順番待ち期間の短縮化に資するよう「特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律(平成16年法律第79号)」の中で今回の実用新案制度の改正が行われた。この改正後の実用新案制度は平成17年(2005年)4月1日以降の出願に適用される。

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(2)改正の慨要
@実用新案登録に基づく特許出願の新設
 従来も実用新案登録出願の特許出願への変更が認められていた(特許法第46条1項。なお、特許出願へ変更した場合、基礎となる実用新案登録出願は取り下げたものとみなされる。)。しかし、実用新案登録出願は出願後早期に登録されるので(平成15年現在の平均で出願日から約5カ月で登録)、実質的には特許出願への変更は難しかった。
 一方、実用新案権が設定登録された後、特許権のように出願日から20年存続できる権利の取得を希望する場合があり(改正前の実用新案制度では、出願日から6年しか存続できなかった)、更に、実体的審査を受けた特許権のように安定性の高い権利の取得を希望することもある。
 そこで、実用新案登録出願の特許出願への変更(特許法第46条1項)に加えて、登録された実用新案に基づく特許出願を可能にした(特許法第46条の2)。


 前記図示のように実用新案登録に基づく特許出願の概要は以下の通りである。

a)実用新案登録に基づく特許出願は基礎になった実用新案登録が出願された時に出願していたものとみなされる
 実用新案登録に基づく特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が、実用新案登録の願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にあるものに限り、実用新案登録に基づく特許出願は、基礎にした実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとみなされる(特許法第46条の2第2項)。
 なお、実用新案登録に基づく特許出願に係る発明と、基礎にした実用新案登録に係る考案とが同一である場合(例えば、基礎になっている実用新案登録において、出願の際に考案(発明)Aが請求項に記載されていて、そのまま実用新案登録され、この実用新案登録に基づく特許出願において発明Aが請求項に記載されて特許請求されている場合)であっても、特許出願に係る発明Aが先後願(同一の発明については最先の特許出願・実用新案登録出願に係る出願人のみ特許を取得でき、同日に出願が競合した場合には協議によって定めた一の出願人のみ特許を取得できる)の規程は適用されない(特許法第39条4項)。
 実用新案登録に基づく特許出願は実用新案登録出願の際に存在していた実用新案登録の内容に基づくものであることから認められる基本的な効果である。
 なお、改正後の実用新案制度も依然として無審査登録であるため、実用新案登録出願後に新規事項を追加する補正が行われた場合であっても、その補正後の内容で実用新案登録が行われる。このような、実用新案登録出願の際に明細書等に記載されていなかった新規事項については、「実用新案登録の願書に添付した明細書・・・に記載した事項の範囲内にあるもの」に該当しないので、出願時の遡及効が認められない。

b)基礎にした実用新案権は放棄しなければならない
 同一の発明(考案)について実用新案権と特許出願とが並存することになると第三者の監視負担が増大する。また、以下のc)、d)、e)で説明する通り、実用新案登録に基づく特許出願を行うにあたっては最大で3年間の時間的猶予があり、また、実用新案登録に基づく特許出願を行うか、あるいは実用新案技術評価書(以下「評価書」という)の請求、実用新案登録無効審判請求に対する答弁書の提出を行うか慎重に判断できる。
 実用新案権者は慎重な判断の後に実用新案登録に基づく特許出願を行うことによって実用新案制度による保護を放棄したと考えられる。そこで、基礎にした実用新案権は放棄しなければならないとされた(特許法第46条の2第1項柱書)。
 なお、実用新案登録に基づく権利行使にあたっては評価書を提示した警告を行うことが必須であるが(実用新案法第29条の2)、以下のd)、f)で説明するように、実用新案登録に基づく特許出願が行われる場合、基礎になっている実用新案登録(あるいは登録される前の実用新案登録出願)については評価書が作成されないし、特許出願を行った後に、基礎になっていた実用新案登録について評価書作成を請求することもできない。
 そこで、実用新案登録に基づく特許出願を行う場合、基礎になる実用新案登録に係る権利に基づいて評価書を提示した警告を行うことができないし、前記のような警告を行った後に行うことが可能である差止請求訴訟(実用新案法27条)、椙害賠償請求訴訟(民法709条)の提起もできない。

c)特許出願が可能な期間は最長でも実用新案登録出願から3年間
 前記a)の通り、実用新案登録に基づく特許出願については、出願時が、基礎になっている実用新案登録の出願時に遡及する。そこで、実用新案登録に基づく特許出願についての審査請求期間が、通常の特許出願の審査請求期間(出願日から3年間)より延長されることを防止するため、特許出願が可能な期間は、最も長くても実用新案登録出願から3年とされた(特許法第46条の2第1項第1号)。
 なお、前記a)の通り遡及効を有するので、実用新案登録出願の日から3年経過する時点で実用新案登録に基づく特許出願を行った場合、当該特許出願については、その特許出願の日から30日以内に限り出願審査の請求をすることができる(特許法第48条の3第2項)。

d)実用新案披術評価書の請求に伴う特許出願の制限
 実用新案登録出願人・実用新案権者が評価書の請求を行った場合、あるいは第三者による評価書の請求が行われた場合には、以下の通り、実用新案登録に基づく特許出願が制限される。


 出願人・実用新案権者が評価書の請求を行った場合には実用新案登録に基づく特許出願を行うことができない(特許法第46条の2第1項第2号)。
 評価書の請求は特許出願についての審査請求より低コストで行うことができる(評価書の請求:42,000円+1,000円×請求項の数、特許出願の審査請求:168,600円+4,000円×請求項の数)。また、評価書は、紛争の解決を必要としている当事者に利用されるものとして請求から数カ月で作成される。
 このため、出願人あるいは実用新案権者が評価書を請求して、特許庁より評価書を入手した後に実用新案登録に基づく特許出願可能であるとすると、評価書が先行技術調査に代用されるおそれがあり、評価書制度の趣旨が損なわれる。そこで、出願人・実用新案権者が評価書請求した場合には実用新案登録に基づく特許出願を行うことができない。
 出願人・実用新案権者でない者による評価書の請求があった旨の通知を受け取った日から30日を経過したときは実用新案登録に基づく特許出願を行うことができない(特許法第46条の2第1項第3号)。
 評価書は何人も請求できるので(実用新案法第12条1項)、出願人・実用新案権者でない者も請求できる。この場合、直ちに、実用新案登録に基づく特許出願ができなくなるとすると実用新案権者に酷である。そこで、他人から評価書の請求があった旨の通知を特許庁から受けた場合には、30日を経過するまで実用新案登録に基づく特許出願を可能とした。
 なお、この期間に実用新案登録に基づく特許出願が行われた場合、評価書の請求はされなかったものとみなされ、その旨が評価書の請求を行った他人に通知されて、評価請求手数料が当該他人に返還される(実用新案法第12条第7項、第54条の2第1項)。

e)基礎になる実用新案登録に対して無効審判が請求され、最初に指定された答弁書提出期間を経過したときは実用新案登録に基づく特許出願を行うことができない
 前記b)で説明したとおり、実用新案登録に基づく特許出願がなされた場合、基礎になった実用新案登録は放棄しなければならない。また、前記d)及び以下のf)で説明するように、実用新案登録に基づく特許出願の基礎になる実用新案登録(あるいは、登録される前の実用新案登録出願)については評価書が作成されない。そこで、当該基礎になる実用新案登録に係る権利に基づいて第三者に警告を行うことも、権利行使することもできない。
 すなわち、実用新案登録に基づく特許出願が行われると、実用新案登録を無効にすることによる無効審判請求人の利益は大きく減少する。
 そこで、無効審判の審理を進行させても無駄になる可能性が高いので、実用新案権者に対して特許庁から無効審判請求書の副本が送達され、最初に指定された答弁書提出期間が経過した後は、実用新案登録に基づく特許出願を行うことができない(特許法第46条の2第1項第4号)。


 なお、基礎になる実用新案登録に対して無効審判が請求され、最初に指定された答弁書提出期間に実用新案登録に基づく特許出願がされた場合、無効審判請求人に対してはその旨が通知され(実用新案法第39条第5項)、当該通知後30日以内に審判請求が取り下げられると無効審判請求手数料が返還される(実用新案法第54条の2第2項、第3項)。

f)基礎にした実用新案登録については評価書を請求できない
 実用新案登録に基づく特許出願の基礎にした実用新案登録について、特許出願を行った後に評価書請求可能にすると、前記d)で説明したように、当該特許出願について審査請求を行う前に、評価書が先行技術調査に代用されるおそれがある。そこで、基礎にした実用新案登録については特許出願を行った後に評価書を請求することができない(実用新案法第12条第3項)。

g)専用実施権者、質権者、職務発明の規定に基づく通常実施権者等の承諾
 実用新案登録に基づく特許出願は基礎にした実用新案登録の放棄を必要とし、基礎にした実用新案登録についての評価書請求できなくなるものである。そこで、専用実施権者等がいる場合には、これらの者の承諾を得た場合にのみ特許出願を行うことができることとした(特許法第46条の2第4項)。

h)実用新案登録に基づく特許出願から実用新案登録出願への変更の禁止
 従前の通り、特許出願について最初の拒絶査定謄本の送達があった日から30日を経過した後又は特許出願の日から9年6月を経過した後を除き、特許出願から実用新案登録出願への変更が認められている(なお、実用新案権の権利存続期間が出願日から10年に延長されたことに伴い、従前の「特許出願の日から5年6月を経過した後」が「特許出願の日から9年6月を経過した後」に改正された。)。
 今回の改正により、実用新案登録に基づく特許出願が可能になったことに伴い、このような特許出願については、再度、実用新案制度による保護を求めて、実用新案登録出願に変更することが禁止された(実用新案法第10条第1項括弧書き)。基礎になる実用新案権を放棄し、特許制度での保護を選択した後に、再度、実用新案登録出願への変更を認めると今回の改正の趣旨が損なわれるからである。

i)実用新案登録に基づく特許出願は国内優先権主張出願の基礎にできない
 実用新案登録に基づく特許出願(特許法第46条の2)は、実用新案登録出願から変更された特許出願(特許法第46条第1項)に類似している。そこで、実用新案登録に基づく特許出願は、実用新案登録出願から変更された特許出願と同じく、国内優先権主張出願の基礎にすることができない(特許法第41条第1項第2号)。
 なお、実用新案登録に基づく特許出願については、実用新案登録出願から変更された特許出願と同じく当該特許出願から分割出願することが可能である(特許法第44条)。

A存続期間の延長
 実用新案制度の魅力を高めることを目的として、以下のとおり、権利存続期間が出願日から10年に延長された(実用新案法第15条)。
 なお、延長された7〜10年目の登録料による収入増を考慮し、出願時に納付する1〜3年目の登録料を含めて登録料が以下のように改定された。


B訂正できる範囲の拡大
 従来から実用新案登録出願については、出願日から所定の期間(出願日から2月)に限り、新規事項の追加にならない範囲で補正を行うことができ、実用新案登録後は、実用新案登録が無効にされない限り、実用新案登録無効審判が特許庁に係属している間の所定の期間を除き、請求項を削除する訂正が可能であった。
 今般、実用新案制度の魅力を高めることを目的として、これらに加えて、実用新案登録後、所定の期間内に、一回に限り、実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正が認められることになった。

a)訂正できる範囲
 実用新案登録後、訂正において、実用新案登録請求の範囲の請求項を削除すること(実用新案法第14条の2第7項)に加えて、実用新案登録請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を行うことが可能になった(実用新案法第14条の2第2項)。なお、この場合、特許制度における訂正と同じく、新規事項の追加、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張・変更する訂正は禁止されている(実用新案法第14条の2第3項、第4項)。
 なお、実用新案では無審査で登録が認められるが、実用新案登録請求に係る考案が保護対象たる「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」であるかどうか等の基礎的登録要件については審査される(実用新案法6条の2)。
 訂正により実用新案登録請求の範囲の減縮を行った後の明細書、実用新案登録請求の範囲、図面についても、基礎的登録要件が満たされているかどうか判断され、満たされていない場合、補正命令が下される(実用新案法第14条の3)。
 また、訂正が、実用新案登録請求の範囲の減縮・誤記の訂正・明りょうでない記載の釈明(実用新案法第14条の2第2項)、新規事項の追加・実質上実用新案登録請求の範囲を拡張・変更する訂正の禁止(実用新案法第14条の2第3項、第4項)といった訂正要件に違反しているときは無効理由となる(実用新案法第37条第1項第7号)。

b)訂正できる時期
 請求項の削除を目的とする訂正は、従来通り、実用新案登録が無効にされない限り、無効審判が特許庁に係属している間の所定の期間を除いて可能であるが、実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正については、最初の評価書の謄本の送達があった日から2月を経過するまで又は実用新案登録無効審判において最初に指定された答弁書提出可能期間を経過するまでのどちらか早い方まで1回に限り、行うことができる(実用新案法第14条の2第1項第1号及び2号、同項柱書)。
 これらの場合に減縮訂正を可能にすることについて従来から強い要望があり、これを踏まえて実用新案制度の魅力を高めることを目的として認められた。
 ただし、実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とした訂正を何回も可能にすると、減縮される前の広い効力範囲のどこまでが有効であるか第三者が調査、判断等する負担が大きくなることから前記のいずれか早い方の期間に一回に限り行えることとした。
 なお、実質的に複数回、減縮訂正が行われることを防止するため、訂正した明細書等の自発補正は禁止されている(実用新案法第2条の2第3項)。
 また、前述したように、訂正の要件を満たしているか否かは無効理由(実用新案法37条1項7号)に追加されたが、実用新案技術評価の対象ではない。したがって、減縮訂正が訂正の要件を満たしているか否かは、無効審判を請求して解決しなければならない。

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(3)まとめ(実務での応用)
@出願時における検討
 無審査であるが故に出願後5カ月程度で登録される実用新案は早期登録という魅力がある。
 その一方、従来は、ア)権利存続期間が出願日から6年、イ)権利行使にあたって評価書を提示した警告を行うことが必須(実用新案法第29条の2)、ウ)行使した実用新案権が無効であった場合、実用新案権者は、無過失を立証しない限り権利行使によって与えた損害を賠償しなければならないことがあり得る(実用新案法29条の3)、エ)特許法第103条に相当する規定がなく実用新案権侵害について過失が推定されない、オ)登録後の訂正が請求項の削除しか認められない(改正前の実用新案法第14条の2第1項)、カ)実用新案権侵害訴訟において、被告等が無効審判請求されていることを理由に訴訟手続の中止を求めた場合、裁判所は明らかに必要がないと認める場合を除き、審決があるまでその訴訟手続を中止しなければならない(実用新案法第40条の2)等々が、実用新案制度の魅力を低めるものと考えられていた。
 今回の改正により、ア)については権利存続期間が出願日から10年に延長され、オ)については、訂正可能な時期が制限され、しかも一回に限りではあるが、実用新案登録請求の範囲の減縮訂正が認められるようになった。
 また、平成16年通常国会において成立した「裁判所法等の一部を改正する法律」により、カ)の実用新案法第40条の2の規定(侵害訴訟の必要的中止制度)は削除され、特許権侵害訴訟における任意的中止制度(特許法第168条)と同趣旨の実用新案法第40条のみとなった。
 更に、今回の改正により、評価書の請求を行う等のことがない限り、特許出願における審査請求可能な期間に相当する出願日から3年の間ならば、実用新案登録に基づく特許出願可能になった。
 これにより、実用新案登録出願する場合であっても、出願時の明細書に、方法、製造方法、使用法などを記載しておくことにより、実用新案登録に基づく特許出願を行って、出願時の遡及効を得ながら、これらの方法、製造方法、使用方法などを特許請求可能になる。
 そこで、特許でも、実用新案でも保護が可能な「物品の形状、構造又は組み合わせ」に係る発明(考案)、これらに関連する製造方法、使用方法などの発明については、特許での保護を求めるべきか実用新案での保護を求めるべきか従来よりも検討する余地が拡がった。

A実用新案登録後、特許出願を行うかどうかの検討
a)自ら評価書請求するとき
 出願人・実用新案権者が評価書請求すると実用新案登録に基づく特許出願を行えなくなる。特に、第三者の模倣行為に気づいて評価書請求する場合にはこの点を考慮する必要がある。
 例えば、評価書請求せずに、実用新案登録に基づく特許出願を行い、直ちに、審査請求(特許法48条の2)と共に「早期審査の事情説明書」を提出し、同時に、早期公開の請求(特許法64条の2)を行って、特許出願公開されたならば、補償金請求権を発生させるための警告書(特許法65条)を相手方に送付し、出願公開後に第三者が実施していることを理由とした「優先審査」(特許法48条の6)の請求を行うことにより、特許出願において許容される範囲での補正を行いながら、早期に特許権を成立させ、第三者に対して特許権に基づく権利行使に臨むことも可能である。
 ただし、特許出願で審査を受けて拒絶査定になれば、もはやもう一度実用新案登録出願へ変更して無審査登録を受けることはできない。この点、自らの責任で慎重に判断しなければならない。

b)他人に評価書請求されたとき
 他人から評価書請求された場合も、そのまま30日が経過すれば、以降、特許出願できなくなるので慎重な判断が必要になる。

c)無効審刊の請求を受けたとき
 実用新案登録無効審判の請求を受けた場合には、第三者が、当該実用新案権を侵害している可能性が強いので、答弁書を提出すべきか、実用新案登録に基づく特許出願を行うべきか、答弁書提出する場合であっても、一度しか行えない請求の範囲を減縮する訂正を行うかどうか、慎重に検討する必要がある。

B実用新案登録後、減縮訂正を行う際の検討
 実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とした訂正は、所定の期間に、一回しか行うことができない。
 また、減縮訂正が行われた請求項に係る権利に基づいて権利行使する場合、当該請求項に係る考案について新たに評価書の請求を行い、新たに作成された評価書を提示した警告を行う必要がある。そこで、評価書の謄本を受けて減縮訂正を行うと、権利行使するために、もう一度、評価書請求しなければならないが、二回目の評価書の謄本を受けた時点では、もはや減縮訂正できない。
 更に、一部の請求項に対して評価書が作成され、あるいは無効審判が請求された場合であっても、その一部の請求項に関する箇所だけでなく、明細書、実用新案登録請求の範囲等の全体に対して「一回限り」という制限が適用される。
 そこで、減縮訂正は慎重に行う必要がある。

C特許出願で3年経過する時点における検討
 特許出願後3年経過するが審査請求すべきかどうか不明である場合に、「物品の形状、構造又は組み合わせ」に係る発明であるならば、実用新案登録出願に変更して無審査登録を受けておく道が考えられる。
 「物品の形状、構造又は組み合わせ」に係る発明について特許出願後3年経過したが、特許請求している発明についての自社での実施行為が大規模なものではなく、同業他社が模倣している状況でもないため、審査請求して審査を受けるまでもない。しかし、将来、何か生じた場合に、権利行使できる道を残して置くことを希望するときに、実用新案権は出願日から10年間権利存続できることから、考えられ得る道である。
 この場合、特許出願後3年間の事情を踏まえて、可能ならば先行技術調査等も踏まえて、新規事項の追加にならない範囲で、実用新案登録請求の範囲の各請求項に係る考案についてより適切な記載表現を準備して出願変更すれば、その後、7年間実用新案登録を維持でき、権利行使の必要性が生じた場合であっても、肯定的な評価の評価書を手にできる可能性を残すことができる。
以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/2/23