H16年改正職務発明の「手続事例集」について(下)


 改正職務発明の「手続事例集」について(下)
 前号に引続き、改正職務発明の規定の「手続事例集」の紹介をする。
 

I.基礎編

第5章    対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取について(続き)
2.意見聴取の進め方について
 問1. 意見の聴取は、従業者等から要望があったら必ず行う方が望ましいですか。それとも、基準において、対価の算定時期あるいは支払い時期等が定められている場合には、当該基準に定められた時期に意見の聴取や使用者等からの回答を行えば十分ですか。
答; 基準の中で、意見聴取の時期が定められている場合はには、その事実も、不合理性を総合的に判断する要素の一つとして考慮されます。また、定められた時期に行えば、不合理性を否定する方向に働きます。
 問2. 従業者等から意見を聴取するものの、それに対する回答を一切行わない場合、どのように評価されますか。また、使用者等が重要と認めた場合ののみ回答を行っているばあいはどうですか。
答; 不合理性を肯定する方向に働きます。
 問3. 従業者等からの意見に回答をする場合において、より不合理性を否定する方向に働くようにするためには、従業者等から聴取した意見をどのように取り扱うことが望ましいですか。
答; 意見を誠実に検討し、再度対価の額を算定し直す等、社内の諮問機関に審査を求めたり、社外の仲裁機関を活用する等があります。
 問4. 意見の聴取において、従業者等との間で合意に至らなかった場合、不合理性の判断においてどのように評価されますか。
答; 使用者等が真摯に対応していれば、結果として合意に至らなくとも不合理性を否定する方向に働きます。
 問5. 意見の聴取に当たって使用者等が従業者等に提示・説明する資料・情報としては、どのようなものが考えられますか。
答; @期待利益を採用する場合、市場規模予測、製品の利益率予測、当該特許の寄与度予測。
A実績報償方式の場合、売上高、ライセンスの状況、特許の寄与度等があります。
 
第6章   使用者等と従業者等との間で契約を締結する場合
 問1. 対価を決定するための基準について使用者等と個々の従業者等の間で合意し、当該基準が適用されることについて使用者等と従業者等との間で契約を締結することは、不合理性の判断においてどのように評価されますか。
答; 協議の結果合意に達している場合は、不合理性を否定する方向に働きます。
 問2. 個別の職務発明に係る対価について、発明完成後に、使用者等と個々の従業者等との間で契約を締結することは、不合理性の判断においてどのように判断されますか。
答; 原則として、不合理性を否定する方向に働きます。
 
第7章   その他
1.基準の改定について
 問1. 基準を改定する際に、使用者等と従業者等との間で協議を行うことは必要ですか。
答; 基準の改定は、新たな基準を策定するのと同様でから、これと同様な手続を採られることが望ましい。
 問2. 新職務発明制度の下で承継した発明について、承継後に基準が改定された場合に、その改定された基準を適用することはできますか。
答; 職務発明の権利が承継された時点で、「相当の対価」の請求権が発生するので、直ちに改定後の基準が適用される訳ではありません。
 問3. 不合理性を否定する方向に働くようにするためには、基準はどれぐらいの頻度で改正することが望ましいですか。
答; 基準改定の期間の長短、物価の変動、研究開発戦略,研究開発拠点,営業方針、財務状況等の環境の変化等が考慮されます。
2.新入社員の取扱いについて
 問1. 新入社員に対し、当該新入社員の入社前に策定済みの基準を適用する場合、不合理性の判断においてどのように評価されますか。
答; 策定済みの基準を適用する場合には、新入社員については、協議が行われていないと評価されます。
 問2. 新入社員に対し既に策定されている基準を示しあらかじめ話合いをした上で当該基準を適用することは、不合理性の判断においてどのように評価されますか。
答; 策定済みの基準をベースに新入社員と話し合いを行えば「協議」したと評価される。
 問3. 新入社員に対してはいつまでに基準を提示することが必要でしょうか。
答; 当該職務発明に係る権利の承継時までに、当該基準を見ることが出来る状況にあることを周知する必要があります。
3.大学における取扱いについて
 問1. 大学においても、企業と同じように、職務発明に係る契約、勤務規則その他の定めを整備する必要がありますか。
答; 特許法35条は、大学と企業を区別しておりません。従って、特許法第35条第5項の規定により定められた対価の支払が命じられることと成ります。
 問2. 大学では、学内規則などを定める場合、各学部ごとの代表者から構成される会議(学部長会議など)で協議が行われることが多いですが、大学側と各学部の代表者が職務発明に関する基準の策定について行う話合いは、「協議」と評価されますか。
答; 各教職員を正当に代表しているか否かが判断基準となります。
 問3. 大学の研究室に所属する学生が研究室での研究に関連した発明を行った場合、当該発明は職務発明に該当しますか。
答; 大学と雇用関係にない学生は、原則として従業者には該当しない。従って、職務の規定が適用される場合は生じない。ただし、特定の研究のプロジェクトに参加する学生で、大学と雇用関係が生じている場合もあります。
 問4. 大学の研究室に所属する学生がした発明に係る特許を受ける権利又は特許権を大学へ承継するためにはどうしたら良いですか。
答; 大学と雇用関係にない学生には、特許法35条は適用されない。別途、承継契約を結ぶ必要があります。
4.その他
 問1. 基準が存在する場合であっても、その基準から導き出される金額とは異なる対価を個別に定めることはできますか。
答; 基準が存在する場合であっても、基準と異なる金額を個別に定めることができます。
 問2. 基準の解釈・運用に、一般的な疑義が生じた場合に、どう対処することが望ましいですか。
答; 基準の解釈について協議を行ったり、疑義が生じないように基準を策定し直すことが望ましい。
 問3. 対価についての基準を策定するところから最終的に対価を支払うまでの手続を十分に行い、必ずしも低額とは言えない対価を支払っていた場合であっても、使用者等が既に従業者等に支払った額以上の支払が追加的に命じられることがありますか。
答; 通常はありません。違算等の場合は、債務不履行となる場合があります。
 問4. 外国における特許を受ける権利を承継した場合についても、特許法第35条は適用されますか。
答; 判例、学説の見解が統一されていません。従って、個別の契約を締結するのが望ましい。
 問5. 使用者等は、対価を決定して支払うことに関連して、どのような資料を管理・保管しておくことが考えられますか。
答; 不合理性の判断の基礎となる資料を管理・保管して置くのが望ましい。例えば、基準を策定する際の協議の議事録、従業員への基準の開示資料、合意の内容及び経過、対価を算定する際に用いた資料等。
 

II.応用編

 応用編では、想定事例(モデル会社)について、検討が行われているが、紙幅の関係上、割愛する。
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  以上
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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/2/28