改正特許法等の解説・2012〜イノベーションのオープン化、審判制度等の見直し、
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3.最近の商標を巡る動向 | |
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(1)類似商品・役務審査基準の見直しについて |
ニース協定に規定される国際分類の改訂に伴って、我が国の商標登録出願・審査・審判において使用されている、類似商品・役務審査基準も第10版が発行される。 原稿を書いている現段階では、「類似商品・役務審査基準第10版」案に対するパブリックコメントが終了した段階であって、最終的な「類似商品・役務審査基準第10版」が発行されているわけではない。 しかしながら、2012年1月以降の我が国における商標登録出願、審査・審判の実務は「類似商品・役務審査基準第10版」に基づいて行われることになる。そこで、「類似商品・役務審査基準第10版」案の段階で変更になると思われる点について注意点を検討しつつ以下に3点ほど紹介する。 |
A.サプリメント |
従前から海外では認められていた商品「サプリメント」の表示が認められるようになる。この関係で、第29類・第30類に分散していたタブレット状の健康食品は、第5類で出願することとなるので注意が必要である。 一方、サプリメントの概念に含まれない健康食品は、その素材により、従来通り第29類・第30類に分散して登録を受けることになる。 したがって、従来は1区分の出願で自社商品に使用する商標についての登録をすることが可能であったが、以降は2区分で出願しなくてはならなくなる。 出願前調査も区分で課金するシステムであれば、形式的には2倍の費用が必要になってしまうため、ネーミング時には注意が必要である。 他の商品についても、類似群ごと他区分に移動したり、類似群を新設して従来商標登録を受けていた区分と異なる区分に移る商品があるので注意が必要となる。 |
B.運動具 |
「運動具」の表示を大幅に整理してわかりやすく再編し、運動具の概念でくくると広すぎると考えられる「サーフィン用運動具」の表示を別類似群として新設している。 今回の改訂においても包括表示が認められている関係で、「運動具」と表示すれば事実上従来とほぼ同様の商品群がカバーできるものの、細部の商品間の類似関係は別々に判断される様になることには注意が必要である。 |
C.菓子・パン |
「菓子・パン」については、昭和34年法改正以来一つの類似群を形成してきたが、今回から、「サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ」が同じ類似群「30A01」に含まれることとなった。 したがって、例えば、商品「菓子、パン」についての既登録商標「A」と、商品「サンドイッチ」についての既登録商標「A」とが併存登録されることになる。このため、更新をせずに再出願を行うと登録できなくなることが生じえる。そこで、この改訂に該当する登録商標の所有者にとって、商標管理上の注意項目が増えることになる。 |
D.その他 |
他にも細かい点で多く改訂がなされており、特に関係する商品・役務の区分については注意深く改訂点を参照されることをおすすめする。
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(2)新しいタイプの商標の保護 |
A.新しいタイプの商標の保護について |
特許法改正が先行した関係で、商標法の改正については、特許法改正に関連する改正(本編特許の項参照)についての論議を先行し、他の課題については、業界団体からの事情聴取を進めるに止まっている。しかし、特許法改正が終わったため、2012年には、再度、新しい商標についての具体的な論議が行われることが予想される。そこで、現状を再確認するべくこれまでの議論を再掲する。
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B.一商標一出願についての検討課題 |
社会通念において取引上一つの商標として使用・認識される新しいタイプの商標やそれらの組合せは一商標一出願の原則を満たすものと考えられるが、複数の商標を特定したものと認識される商標や権利範囲を漠然と特定することからその範囲が不明確な商標は、一商標一出願の原則に基づき拒絶されるべきと考えられる。なお、本要件は商標の特定方法と密接に関連するものであり、特定方法を検討する際にも改めて検討することになる。
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C.商標の識別性についての検討課題 |
現行では、出願された商標のうち識別力を有するものに限って商標登録が認められている。新しいタイプの商標についても、識別力を有するものに限って登録を認めることが適切と考えられる。また、使用により識別力を獲得したものについても登録を認めることが適切と考えられる。なお、新しいタイプの商標については、全体として第3条第2項(使用による識別力の獲得)に該当しない限り識別力が認められないものが多くなると予想される。そこで、新しいタイプの商標についても、識別力がないものや、公益上の理由等から独占が適当でないものは登録を認めないようにする必要がある。また、識別力のないものであっても、使用された結果、識別力が認められるに至ったものについては、その登録が認められるようにする必要がある。
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D.商標の類似についての検討課題 |
新しいタイプの商標における類似については、従来の類否の考え方を踏まえ、さらに、タイプごとの特性を考慮しつつ判断することが適切であり、また、離隔的観察、全体観察と要部観察等の手法も、タイプ毎の特性を考慮しつつ用いることが適切と考えられる。また、現行制度の下でもタイプが異なる商標同士の類否判断も行っていることから、新しいタイプの商標を追加する場合においても、あえて法律上新しいタイプの商標に特有の事情を定めることはせず、これまでと同様に、新しいタイプの商標も含めタイプ横断的に商標の類否を判断することが適切と考えられる。
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E.その他の拒絶理由についての検討課題 |
a)公益的な音 緊急用のサイレンや国歌(他国のものを含む。)等の公益的な音の商標は、一私人に独占を許すことは妥当ではないことから、その登録を認めないよう規定を整備することが適切と考えられる。 b)特許権、実用新案権、意匠権、著作権との調整 新しいタイプの商標について、現行法における調整と異なる取扱いをする特段の事情がないため、商標権等による登録商標の使用がその使用態様により他人の著作権、意匠権等と抵触するときは、これまでと同様に、その抵触する部分について当該登録商標の使用を制限することが適切と考えられる。 c)機能性等 新しいタイプの商標のうち、商品等の機能を確保するために不可欠なもののみからなる商標は、その登録を認めないよう規定を整備することが適切と考えられる。 |
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(3)商標権の更新登録申請について |
平成10年4月1日の書換登録申請の受付開始から既に10年以上経過しており、今後更新登録申請を行うに際しては、特に以下の事項については注意が必要である。 尚、「商標権の更新登録申請について」は、昨年の新年号においても注意を喚起したが、引き続き同様の事態は継続しており、注意を要する重要な事項であるため本年も再掲した。 |
A.既に書換登録された商標権の更新登録申請について |
書換登録された商標権は、書換登録申請時の商品及び役務の区分に従って書き換えられているため、複数の区分で登録されている場合が多いと考えられる。そのため、書換登録後の更新登録申請に際しては、区分の数により登録料が変わるので更新申請をする際には注意が必要となる。 また、更新登録申請と同時であれば、商標権に係る商品又は役務の区分の数を減縮することができるので、更新登録申請に際しては、真に必要とされる指定商品を検討の上、申請に係る商品の区分を決定する必要がある。 但し、指定商品単位での減縮は認められないので注意が必要である。 |
B.直近の更新申請時に書換登録申請を行わなかった商標権について |
更新登録された商標権が、「所定の期間に書換登録申請を行わなかった場合」等、「附則(昭和34年法律第127号)第11条(商標権の消滅)」に該当する場合は、その商標権は、上記更新登録に基づく存続期間の満了日に消滅する。 したがって、上記条件に該当する商標権は、次の更新登録申請はできないので、くれぐれも注意が必要である。 尚、この場合の対処としては再出願等があるが、更新登録申請に際しては、原簿等を確認の上、対処を検討することが普段にもまして重要になってきているので注意されたい。 以上
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