改正特許法等の解説・2006〜知的財産高等裁判所の創設と知的財産訴訟、
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2.改正商標法の解説 | |
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(1)地域団体商標制度の創設を始めとする商標法改正 | ||||||||||||||
<目的> 地域ブランドをより適切に保護する事により、信用力の維持による競争力の強化と地域経済の活性化を支援するという目的のもと今回の商標法の改正が検討された。 <方法> 上述の目的を達成すべく、今回以下に説明する地域団体商標制度を創設した。 尚、この法律は、平成17年6月15日に公布され平成18年4月1日から施行する。この平成18年4月1日は、改正法適用の基準日となるので注意を要する。 |
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(2)現行制度の問題点 | ||||||||||||||
<現状> 地域ブランドとして多く採用されている商標は、通常「地域名+商品・役務」の構成からなる商標である。しかし、現行の商標制度において前記構成からなる商標は、原則として商標登録を受けることができない商標とされている。即ち、原則として、地域名の部分は、産地販売地としてその登録は認められていない。又、商品・役務の普通名称・慣用商標の部分も登録を認めない典型例とされている。 一方で以下の1,2の場合に例外的に登録される可能性がある。第1に、その商標を使用することにより需要者に広く知られるようになった商標でその事実を立証できた場合には、その登録を受けることができる(第3条2項)。例えば、以下のような登録例がある。
@ 夕張市農業協同組合 登録2591067号 指定商品「メロン」
A 西陣織工業組合 登録976092号 指定商品「羽織等」 B 笹野彫協同組合 登録第4488183号 指定商品「彫りおもちゃ」等 C 協同組合宇都宮餃子会 登録第4546706号 指定商品「餃子」等 第2に、登録性がある文字又は図形と共に出願することで登録を受けることができる。例えば、以下のような登録例がある。
D 協同組合宇都宮餃子会 登録第4528098号 指定商品「餃子」
E 株式会社坂利製麺所 登録第2379900号 指定商品「素麺」 F 小田原蒲鉾水産加工業協同組合 登録4734753号 指定商品「蒲鉾」 |
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<問題点> 上記第1の場合、一旦登録となれば有効な権利となるが、登録されるまでには、出願にかかる商標が周知・著名である旨の立証をする事が要求されており、指定商品・役務によっては、全国的な周知性の立証が要求され、しばしば立証が困難であるために登録を断念せざるをえない場合も少なからず存在していた。更に、その商標の使用開始早々の時期に第3条第2項の主張が認められて登録される例は皆無であるため、他社の便乗使用を有効に排除することができないという問題点があった。 一方、第2の場合には、図形部分と近似した類似商標を排除することは可能であるものの文字部分のみの使用を排除することができないといった問題点があった。 この様な問題点を解決するために今回の地域団体商標制度が創設されたわけである。以下制度の概要を簡単に説明する。 |
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(3)制度の概要 | ||||||||||||||
<地域団体商標の登録要件> @ 主体的要件を満たすことが要求される。 今回の地域団体商標出願の出願人となることのできる者は、第1に法人格があって、第2に事業協同組合等特別法により設立された組合であり、第3に設立準拠法において構成員資格者の加入の自由が保障されていることが要求されている。 従って、個人や法人格のない社団等は第1の条件を満たさないため、今回の地域団体商標の出願人となることはできない。又、市町村、商工会議所、商工会等は第2の条件を満たさないため、同じく地域団体商標の出願人となることはできない。第3の条件を規定した法律としては、例えば、中小企業等協同組合法、農業協同組合法、商店街振興組合法等があり、これらの協同組合のそれぞれの連合会も一般には第3の要件を満たす団体に該当すると考えられている。 |
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A 構成員に使用させる商標であることが必要である。 通常の商標登録出願の場合、出願人の使用の意思が要求される(第3条1項柱書)。しかし、この地域団体商標制度は、団体がその構成員に使用させる商標であることから、例外的に出願人の使用の意思は必須要件として要求されていない。このため使用の意思の条件は以下のようになる。
団体が不使用+構成員が不使用 ⇒×
団体が使用 +構成員が不使用 ⇒× 団体が不使用+構成員が使用 ⇒○ 団体が使用 +構成員が使用 ⇒○ |
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B 商標が地域名+商品・役務名等の構成から成ることが必要である。 今回の改正では、地域ブランドとして一般的に採用されている「地域名称+商品・役務の普通名称」等の構成からなる商標の登録を認めるという目的がある一方で、かかる商標は本来的には独占適応性に乏しい商標であるため、その登録を認める構成は、比較的限られたものにならざるを得なかったのではないかと考えられる。 具体的には以下のような態様が考えられて例示されている。 尚、下記で示されている「地域名」の部分については、旧地名、海域名、山岳・河川名等が含まれ、それらの略称であってもかまわないとされている。
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C 地域名と商品・役務の密接な関係にあることが必要である。 地域名と商品・役務が密接な関係がある場合として、以下のようなケースが考えられる。 例えば、「その地域が商品の産地であること」は密接な関係があると言える。具体的には、「青森」は、りんごの産地であるため「青森リンゴ」の「青森」と「リンゴ」は、密接な関係にあると言える。 同様に、「その地域が役務の提供場所であること」も密接な関係にあると考えられる。具体的には、「道後」は、温泉地として広く知られており、「道後温泉」の「道後」と「温泉」とは密接な関係にあると言える。 また、「商品の製法が由来する地域であること」も密接な関係がある例と考えられる。具体的には大島紬は、伝統的製法の発祥地の名称と考えられ密接な関係にあると考えられる。 更に、主要な原材料が生産される地域であることもその商品との関係が密接である例と考えられる。かかる場合には、必ずしも完成品の地名でなくとも良いと考えられる。 |
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D 周知性を有していることが必要である。 周知性とは、その商標が出願人又はその構成員の業務に係る商品(役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることを意味している。周知性の判断基準は、3条2項とほぼ同じと考えられるが、3条2項では全国周知を要求される場合が多々あるのに比して、隣接都道府県に及ぶ程度の周知性で足りると解されている。 周知性の判断には、商標の使用期間・商標の使用地域・商品(役務)の生産・販売等の数量・営業地域・広告宣伝の方法・回数・内容・一般紙・業界紙における記事の掲載回数・内容等の資料の提出が有効であると考えられる。また、地方公共団体等から特産品の認定をうけたり、公的機関の周知証明等があると有効であると考えられる。 |
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E 通常の登録要件を備えていることが必要である。 地域団体商標の登録要件としては、上述した特有の登録要件に加え、普通の商標の登録要件を具備していることも要求される。特別な要件を課す以外には、通常の商標との相違はないため、通常の商標の登録要件をも加重して要求することとしている。 但し、通常の商標登録に必要な要件のうち、3条1項3〜6号については除外されている。この地域団体商標制度は、3条1項3〜6号に該当する商標であっても一定の条件を満たす場合に登録を認める制度だからである。 例えば、「さつまいも」、「奈良漬け」のように、「地域名+商品名」の構成からなっていても全体として既に商品(役務)の普通名称等になっている場合には登録の対象とはならない。また、他人の登録商標に類似している場合にも登録されない。かかる商標の登録を認めるならば、出所の混同を生じる商標の登録を認めることになってしまうからである。同様に、商品の品質、役務の質について誤認を生じさせる商標の登録も認められない。 |
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<第三者の出願・登録との問題> 第三者が既に「地域団体商標」を含む登録商標を所有している場合、後願で「地域団体商標」を出願した場合、先願の構成要素である「地域団体商標」に該当する部分の使用に対してその効力は及ばないと考えられ、又、後願の地域団体商標の登録の障害にはならないと考えられる。即ち、第三者登録が商標「図形+○○リンゴ」で、後願の「地域団体商標」が「○○リンゴ」の場合、他の要件を満たせばこの「地域団体商標」は登録される。 しかし、本改正商標法が施行後、第三者が登録された「地域団体商標」を含む商標登録出願をした場合は、「地域団体商標」に類似するものとして、第三者の出願は拒絶される。 即ち、「地域団体商標」が「○○リンゴ」で登録を受けて、後願の第三者が商標「図形+○○リンゴ」で出願した場合、第三者の後願は「地域団体商標」の「○○リンゴ」の存在を理由に拒絶される。 |
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<地域団体商標の商標登録の効果> 上記登録要件を具備している場合、地域団体商標についての出願は設定登録されて地域団体商標の商標権が発生する。 商標権の効力は、通常の商標の商標権の効力と同様である。従って、10年の存続期間を有し、更新をすることで事実上の永久権として所有し続けることも不可能とは言えない。又、地域団体商標の商標権の侵害に対しては、使用の差止請求・商品や製造設備の廃棄請求・損害賠償請求・登録排除等の権利を行使することが可能である。 |
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<地域団体商標の商標権の効力の制限> 地域団体商標の商標権は、特別な条件を満たす団体にのみ登録が認められているので自由譲渡できない事になっている。 但し、団体の統廃合は十分に予想される事態であることから、合併その他の一般承継は認められている。 又、自由譲渡を認めていない理由と同様の理由から、第三者に専用使用権を設定できない事になっている。 但し、第三者に通常使用権を許諾する事は認められている。この通常使用権は、使用許諾契約の締結で発生する権利で、特許庁への登録は通常使用権の効力の発生要件とはなっておらず、第三者対抗要件となっている。 |
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(4)その他、地域団体商標制度の創設に関連して新設・改正等された条項 | ||||||||||||||
@ 出原変更(第11条) 平成18年4月1日以降に出願されたものから適用され、普通の商標・団体商標・地域団体商標相互間の出願変更が認められる。尚、施行前の出願の地域団体商標への変更は認められない。 |
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A 先使用による商標の使用をする権利(第32条の2) この地域団体商標制度の導入に際して、正当な第三者の使用を保護すべく、「地域団体商標の商標登録出願日前から不正競争の目的でなく商標の使用をしていた者は、その使用を続けることができる。」旨規定されている。この商標を使用する権利に基づく当該商標の使用者にたいして、地域団体商標の商標権者は混同防止表示の請求をすることが可能である。 |
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Bその他 地域団体商標の登録に対して、第三者が取ることのできる積極的な対抗措置としては、通常の商標権に対する対抗措置と同様に、「登録異議申立(第43条の2)」「登録無効審判(第46条)」「取消審判(第50条)(第51条・第53条)」 等が認められている。 ・地域ブランドと言っても必ず登録を取らなければならないわけではない。ただし、今回の法改正により地域興しのネーミングを登録するためのバリエーションが増えたことは事実であり、有効に活用して地域活性化に役立てて頂きたい。 尚、最後にまとめとして、「地域団体商標」のフローチャートを添付しますのでご利用下さい。 |
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日本弁理士会発行パンフレット「地域ブランドの保護 商標法の改正について」より抜粋 |
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