改正特許法等の解説・2006〜知的財産高等裁判所の創設と知的財産訴訟、
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3.改正不正競争防止法の解説 | ||||||||||||||||||||||||
不正競争防止法の規定に基づく民事訴訟事件は、営業秘密の民事的保護が導入された平成2年以降、平成3年の66件から、平成15年の165件へと増加している。平成15年におけるこの件数は、著作権(114件)、商標権(108件)に基づく事件より多く、特許権・実用新案権に基づく民事訴訟事件216件に次ぐものである。これは、平成5年改正によって著名表示の保護、商品形態模倣行為の禁止が導入されたことの他、自社の知的財産を保護する上で、国家が独占排他権たる財産権を付与して知的財産を保護する特許権、商標権などの産業財産権に基づく保護だけでなく、行為規制法である不正競争防止法による保護を併せて求める知的財産戦略を採用する傾向が強くなっているためと思われる。 中でも営業秘密の保護に関しては、平成15年改正による営業秘密の刑事的保護導入により、適切な保護を図る方向が強化されていたが、営業秘密侵害罪の国外犯、退職者処罰(特に、記憶媒体などへの記録や複写を伴わない、退職者による行為に対する処罰)、法人処罰などに関しては、諸外国における規定の内容と比較した保護レベルの向上などを考慮して、わが国におけるより適切な保護の必要性が検討されていた。 今般、これらの事情を踏まえて、平成17年1月21日召集の第162回通常国会において「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(平成17年法律第75号)が成立し、同年6月29日に公布、同年11月1日から施行された。 この改正法は「営業秘密の刑事的保護を強化するとともに、模倣品・海賊版商品の販売、輸入等に刑事罰を科する等」を主な内容としている (経済産業省 http://www.meti.go.jp/policy/competition/main_01.html)。概略は以下の通り。 不正競争防止法等の一部を改正する法律案について
(http://www.meti.go.jp/policy/competition/main_01.html)から 以下、この改正法の概要を解説する。 |
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(1)営業秘密の保護強化 |
退職者の処罰の導入 |
営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業員であった者であって、不正の競争の目的で、その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申し込みをし、又はその使用若しくは開示の請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者について、罰則(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科)を適用することとした(第21条1項8号)。これにより、退職者(元役員・元従業員)による、営業秘密が記録されている媒体の取得、複製を伴わない行為についても「不正競争の目的」を有する行為について罰則の対象となる【図1】。
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【図1】 「営業秘密管理指針」(経済産業省) |
営業秘密侵害行為の二次的関与者を罰則の対象とする規定の導入 |
不正の競争の目的で、営業秘密侵害罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者について、罰則を適用する(第21条1項9号)【図2】。
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【図2】 「営業秘密管理指針」(経済産業省) |
営業秘密の国外使用・開示処罰の導入 |
詐欺等行為若しくは管理侵害行為があった時又は保有者から示された時に日本国内で管理されていた営業秘密について、日本国外において営業秘密侵害罪を犯した者に営業秘密侵害罪を適用する(第21条4項)。 不正競争防止法による営業上の利益侵害に係る訴訟において、当事者などに対し、当該営業秘密を訴訟追行目的以外に使用などしてはならない旨の裁判所の命令(秘密保持命令)に国外で違反した秘密保持命令違反の罪の国外犯について罰則を適用する(第21条5項)。 今回新たに導入された営業秘密の国外使用・開示処罰の概略は以下の通りである【図3】。 |
【図3】 |
法人処罰(両罰規定)の導入 |
営業秘密侵害罪を犯した者のうち、不正の手段を用いて営業秘密を取得して、これを使用し、又は開示したものが属する法人について、法人処罰(1億5千万円以下の罰金)を適用する(第22条1項2号)。 なお、企業が営業秘密の管理強化を行う上で参考になるよう、経済産業省は、営業秘密が法律上の保護を受けるために必要な「ミニマムの管理水準」と、紛争の未然防止のための「望ましい管理水準」を提示するべく、営業秘密管理指針(平成15年1月30日)を公表し、更に、今回の法改正を踏まえて、その改訂版を公表している (http://www.meti.go.jp/press/20051012002/20051012002.html)。 |
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(2)模倣品・海賊版対策 |
著名表示の冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)への刑事罰の導入 |
他人の著名な商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品または営業を表示するもの)にかかる信用若しくは名声を利用して不正の利益を得る目的で、又は当該信用若しくは名声を害する目的で、他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用等(不正競争防止法2条1項2号)した者について、従来の差止請求(不正競争防止法第3条)、損害賠償請求(不正競争防止法第4条)の対象とすることに追加して、罰則(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科)を適用することとした(第21条1項2号)。不正の利益を得る目的、又は加害目的のいずれかが適用の要件の一つになっている。 |
商品形態模倣行為(不正競争防止法2条1項3号)への刑事罰の導入 |
不正の利益を得る目的で他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡、輸入等(不正競争防止法2条1項3号)した者について、従来の差止請求(不正競争防止法第3条)、損害賠償請求(不正競争防止法第4条)の対象とすることに追加して、罰則(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科)を適用する(21条2項)こととした。 |
「商品の機能を確保するために不可欠な形態」の除外(2条1項3号) |
従来は、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する」行為(商品形態模倣行為(不正競争防止法2条1項3号))における「他人の商品の形態」について「当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。」とされていたが、これが「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。」に改正された。これにより、他人の商品形態を模倣した商品を譲渡等する行為において、その模倣した商品の形態が、当該商品の機能を確保するために不可欠な形態である場合には、不正競争行為から除外されることが明らかにされた。 なお、「日本国内で最初に発売された日から起算して3年を経過した商品の形態を模倣した商品を譲渡、輸入等する行為」、「譲り受けたときにその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者がその商品を譲渡、輸入等する行為」について不正競争防止法2条1項3号(商品形態模倣行為)の規定が適用されないことは従来の通りである(第19条5項適用除外)。 |
「商品の形態」の定義規定の創設(2条4項) |
「この法律において『商品の形態』とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状ならびにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう」(不正競争防止法2条4項)との定義規定が設けられた。これにより、「商品の内部の形状」が「商品の形態」に該当すること、他人の商品の「光沢、質感」も「商品の形態」足り得ることが明示された。 |
「模倣」の定義規定の創設(2条5項) |
「この法律において『模倣する』とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう」(不正競争防止法2条5項)との定義規定が新設された。これにより、完全に同一でなくても、実質的に同一であるものが「模倣」に該当し得ることが明示された。 |
(3)罰則の見直し |
不正競争防止法違反の罪について、従来から定められていた懲役刑及び罰金刑の上限が、それぞれ、3年以下から5年以下、300万円以下から500万円以下に引き上げられ、更に、これらを併科できることした(第21条1項)。 また、営業秘密侵害罪を犯した者のうち、不正の手段を用いて営業秘密を取得して、これを使用し、又は開示したものが属する法人に法人処罰(1億5千万円以下の罰金)(両罰規定)が導入されることとなった(第22条1項2号)。 なお、営業秘密侵害罪は、訴訟において営業秘密が公開されるおそがあることを考える被害者があることを考慮して、依然として親告罪のままとされている。 |
(4)関連法規の整備 |
特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法において、「秘密保持命令違反の罪」について、今回の不正競争防止法改正に準じ、懲役刑及び罰金刑の上限を、それぞれ、3年以下から5年以下、300万円以下から500万円以下に引き上げ、更に、これらを併科できることした。また、日本国外において前記の「秘密保持命令違反の罪」を犯した者にもこれを適用することとした。 関税定率法の改正によって、不正競争防止法における模傲品対策規定である不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)、2号(著名表示冒用行為)及び3号(商品形態模倣行為)に該当する行為をなす物品を税関における水際差し止め制度の対象にすることとした。 |
以上
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