改正特許法等の解説・2009
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1.特許法などの改正(1) | |
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(1)通常実施権等登録制度の見直し | ||||||||||||||||||||||||||||||
通常実施権関係では、大学TLOや中小・ベンチャー企業などで活用ニーズが強い「出願段階におけるライセンス」を保護するための新たな登録制度、ライセンスの拡大などによるライセンシー保護の必要性の要望などにより特許権・実用新案権についての通常実施権の登録事項について開示の制限が改正される。また、特許法の改正ではないが「産業活力再生特別措置法」の一部改正により、包括ライセンス契約についての一括登録制度(特定通常実施権登録制度)が新たに創設される。 【これまでの実施権制度の問題点】 特許権者以外の者が特許となった発明を実施する権利としては、特許法上、「専用実施権」「通常実施権」の2つが認められている(図表1−1)。
【図表1−1】
(特許庁発行の説明会テキストより)
また、通常実施権は、登録することにより、 ・元の特許権者(=ライセンサー)と契約をした通常実施権者(=ライセンシー)は、特許権が第三者に譲渡された場合でも、“新たな特許権者”から差止・損害賠償請求を受けない。 ・通常実施権者(=ライセンシー)は、特許権者(=ライセンサー)が破産したした場合でも、管財人によりライセンス解除されない。 という効果が認められている(特許法第99条第1項、第97条第1項、第2項)。すなわち、通常実施権者は、ライセンス契約に基づく実施事業を継続することができた。 また、特許原簿に登録された情報は、原簿の閲覧などを通じて、総て対外的に開示されていた(特許法第186条、実用新案法第55条)。 なお、専用実施権は特許権に準ずる独占的・排他的な権利であり、特許庁への登録によりはじめて、権利が発生していた(特許法第98条1項第2号)。 【通常実施権などの制度の課題】 現行の通常実施権登録制度においては、特許権を対象とする専用実施権及び通常実施権のみを登録することが可能であり、特許出願段階におけるライセンスは登録することができなかった。 また、ライセンス契約の存在・内容は、企業の研究動向や商品開発動向を推測させるものであり、企業の営業秘密や経営戦略に密接に関わる情報であるとし て、一般には開示せず、秘密にしておきたいというニーズが強かった(図表1−2)。このため、登録内容が公示される現行の登録制度の利用率(登録率)は、 1%程度にとどまっていた(図表1−3)。尚、利用率は、「現行登録件数/実施許諾件数」の推計値である。
【図表1−2】 通常実施権を登録する(しない)理由(アンケート結果) (特許庁発行の説明会テキストより) 【図表1−3】 通常実施権等登録制度に係る利用状況
(資料)実施許諾件数:平成18年知的財産活動調査報告書/特許庁
現存登録件数:特許庁調べ(平成18年) (特許庁発行の説明会テキストより)
ところが、近年の知的財産ビジネスの多様化が進展するとともに国境を越えた企業の合併・買収(いわゆるM&A)や会社分割などの組織再編が活発化しており、産業財産権の移転が増加してきた。 このような中で、ライセンシーが従来のライセンス契約に基づく事業を継続できなくなるリスクが高まり、ライセンシーの保護のニーズが高まっている。 そこで、ライセンシー保護の必要性及び産業界におけるビジネスの実態をふまえて、特許法などが改正され、 (1) 特許出願段階におけるライセンスに係る登録制度を創設する(特許法)。 (2) 通常実施権登録制度に係る登録事項の開示制限をする(特許法・実用新案法) こととなった。また、あわせて、特許権の特許番号を特定しないライセンスの登録制度が新設された。 |
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A.「特許出願段階における実施許諾に係る登録制度の創設 | ||||||||||||||||||||||||||||||
【概要】 (1) 上記のように、特許法第34条の2〜34条の4が新設され、特許出願後、特許権の成立前におけるライセンスとして「仮専用実施権」及び「仮通常実施権」が創設された。 また、特許法第27条第1項で、第四号を新設して「仮専用実施権」及び「仮通常実施権」の登録制度が創設された。 さらに、他の条文で必要な改正がなされた。 【具体的内容】 (2) 特許を受ける権利を有する者(特許出願人)は、その特許を受ける権利に基づいて、取得すべき特許権(特許請求の範囲に記載された発明)について、仮専 用実施権を設定することができる(第34条の2第1項)。仮専用実施権に係る特許出願について、特許権の設定の登録があったときは、その特許権について、 専用実施権が設定されたものとみなされる(第34条の2第2項)。 (3) 特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて、取得すべき特許権について、仮通常実施権を許諾することができる(第34条の3第1 項)。仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があったときは、その特許権について、通常実施権が許諾されたものとみなされる(特許法第 34条の3第2項)。 (4) また、仮専用実施権者又は仮通常実施権者は、当該特許出願に係る発明を実施した場合であっても、特許出願人から特許法第65条第1項に定める補償金請求権を行使されないこととなる。(第65条第3項) 仮専用実施権又は仮通常実施権の設定、移転又は処分の制限等について、特許庁に備える特許原簿に登録される(第27条第1項第4号)。 仮専用実施権の設定、移転又は処分の制限等は、登録しなければその効力を生じないことになる(第34条の4第1項)。 仮通常実施権は、その登録をしたときは、当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利をその後に取得した第三者に対しても、その効力を生ずることになる(第34条の5第1項。図表1−4)。
【図表1−4】
(特許庁発行の説明会テキストより)
(5) 登録免許税は、下記の図表1−5のとおりである。
【図表1−5】
※仮専用実施権又は登録した仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定登録があったことに伴って、専用実施権又は通常実施権の登録を受ける場合は非課税。
(特許庁発行の説明会テキストより) 【特許法の各制度との関係】 (6) 特許出願の処分について; 特許出願が放棄、取下、却下、拒絶となった場合には、仮専用実施権又は仮通常実施権は消滅する(第34条の2第6項、第34条の3第7項)。 従って、仮専用実施権又は登録した仮通常実施権が設定された特許出願の出願人がその特許出願を放棄又は取下をする場合には、それらの者の許諾を要する(新設された第38条の2)。 (7) 出願変更について; 実用新案法及び意匠法にも特許法と同様の専用実施権・通常実施権の制度があるが、実用新案法及び意匠法ではこの制度については、改正がなされていない。 この点は、産業構造審議会の答申でも言及していないが、以下のように考えられる。すなわち、実用新案及び意匠は登録されるまで出願の内容が開示されず、ま た実用新案は出願から3ケ月程度、意匠は1年程度でそれぞれ登録になり、また実用・意匠とも登録後の実施権の登録件数自体が少ないことによると考えられ る。ちなみに2007年に設定された実施権は、特許(専用230、通常442)に対して、実用(専用5、通常5)、意匠(専用42、通常1)である(特許 庁『特許行政年次報告書2008年版』より)。 仮専用実施権又は仮通常実施権が設定された特許出願を実用新案登録出願又は意匠登録出願に変更すれば、従来と同様に、その特許出願は取り下げられたもの とみなされ(第40条第4項)、上記のように仮専用実施権又は仮通常実施権も消滅する(第34条の2第0項、第34条の3第7項)。 従って、仮専用実施権又は登録された仮通常実施権が設定された特許出願を、実用新案登録出願又は意匠登録出願に変更する際には、これらの者の許諾を要する(実用新案法第10条9項、意匠法第13条第5項)。 (8) 国内優先権制度について; 仮専用実施権又は登録された仮通常実施権が設定された特許出願を「先の出願」として国内優先権を主張して特許出願又は実用新案登録出願をした場合、当該 「先の出願」は取り下げられたものとみなされる(特許法第42条第1項、実用新案法第9条第1項)。従って、このような国内優先権主張出願をする場合に は、仮専用実施権者又は登録した仮通常実施権者の許諾を要する(特許法第41条第1項ただし書き、実用新案法第8条第1項ただし書き)。 (9) 補正について; 仮専用実施権の設定又は仮通常実施権の許諾は、その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてすることができる(第34条の2第1項、第34条の3第1項)。 また、仮通常実施権等の登録後、当該特許出願について補正がなされた場合でも、その設定された範囲内において仮通常実施権等の効力は有効であると解されている(特許庁改正法テキスト)。 また、特許請求の範囲は補正により変更できるが、補正ができる範囲に限られる(第17条の2第3項)。ただし、訂正審判などの請求の際に、特許権者は実 施権者の許諾を要する(第127条)が、特許出願人が補正をする際に、仮専用実施権者又は登録した仮通常実施権者の許諾を要する旨の規定は無いので、ライ センシーは契約で手当をする必要がある。 (10) 分割出願について; 仮専用実施権又は仮通常実施権に係る特許出願について出願の分割がなされた場合、契約で別段の定めがなされていない限り、分割後の新たな出願について も、その設定された範囲内において、仮専用実施権又は仮通常実施権が許諾されたものとみなされる(特許法第34条の2第5項、第34条の3第5項。下図表 1−6)。ただし、当該特許出願の名義が変更された場合には、登録した仮通常実施権者にしか得られない利益があるので注意が必要である(同条同項かっこ書 き)。 また、仮専用実施権又は仮通常実施権に係る特許出願(原出願)について分割出願をする際には、仮専用実施権者又は登録した仮通常実施権者の許諾を要する旨の規定は無いので、分割出願に際して、分割出願の内容について、ライセンシーは契約で手当をする必要がある。 尚、分割出願があった場合、登録免許を別途要するので、庁から当事者に何らかの通知が出される予定である(庁説明会)。
【図表1−6】
(特許庁発行の説明会テキストより)
(11) 出願審査請求について; 出願審査請求については、仮専用実施権又は仮通常実施権が設定されている特許出願に関して特別の規定は無いので、出願審査請求をするか否かの判断について関わることができるように、ライセンシーは契約で手当をする必要がある。 【その他】 (12) 上記各内容について、「登録した仮通常実施権者」と記載してある場合には、当然ながら、「登録をしていない」仮通常実施権者はその利益が無いので、注意を要する。 (13) 改正法の公布の日から1年以内の政令で定める日から施行するが、12月1日現在未定である。 ☆上記各図表(図表1−1〜図表1−6)、下記図表1−7〜図表1−9は、総て、特許庁「平成20年度特許法の一部を改正する法律について」と題する『説明会テキスト』(以下「特許庁説明会テキスト」とする)から引用した。 |
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B.「通常実施権の登録事項における一部の情報の開示制限 | ||||||||||||||||||||||||||||||
通常実施権及び仮通常実施権に係る登録記載事項のうち、それを対外的に開示することで通常実施権者等の利害を害するおそれがある事項について、利害関係人にのみ開示する制度が導入される(特許法、実用新案法)。 (1) 改正の内容(特許法、実用新案法) 特許権・実用新案権に係る通常実施権の登録事項のうち、対外的に非開示にしたいとの要望が強い登録事項(ライセンシーの氏名等、通常実施権の範囲(☆)の開示を一定の利害関係人に限定する(特許法第186条第3項、実用新案法第55条第1項。図表1−7)。尚、(☆)の通常実施権の範囲は政令改正事項であり、今後、決められる。 仮通常実施権についても、通常実施権と同様、ライセンシーの氏名等の一部の登録事項について、開示が制限される。 尚、専用実施権は、設定された範囲で独占排他性を有する強い権利であり、第三者に与える影響が大きいことから、公示の必要性が極めて高いため、現行どおりすべての登録事項が対外的に開示される。仮専用実施権も同様としてある。
【図表1−7】
(特許庁発行の説明会テキストより)
(2) 経過措置 改正法の施行日前に登録された通常実施権については適用されない(附則第2条第6項)。 (3) 施行日 改正法の公布の日から1年以内の政令で定める日から施行されるが、12月1日現在未定である。 |
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C.包括的ライセンス契約についての一括した登録制度の創設 | ||||||||||||||||||||||||||||||
(1) 本制度は、「特定通常実施権登録制度」といい、特許法上の登録制度ではその登録が困難な通常実施権を登録するための補完的な制度として、「通常実施権の許諾対象となる特許権等の特許番号又は実用新案登録番号を特定しない」通常実施権許諾契約(いわゆる包括ライセンス契約)に基づく通常実施権者の事業活動を保護するために創設された。 (2) 特定通常実施権登録制度は、「特定通常実施権許諾契約」により許諾された通常実施権を「特定通常実施権登録簿」に登録をしたときは、その通常実施権について、特許法第99条第1項(実用新案法第19条第3項において準用する場合を含む。)の登録があったものとみなすものである(産業活力再生特別措置法第58条第1項)。 (3) 特定通常実施権許諾契約とは、法人間における、通常実施権を許諾することを内容とする書面でされた契約であって、当該書面において許諾対象となるすべての特許権等に係る特許番号等が記載されているもの以外のものとされている(同法第2条第20項)。 (4) 「特定通常実施権登録簿」には、登録申請等に基づき下記の事項が記載される。ただし、その登録簿の枠内で当事者は自由な登録を行うこともでき、さらに、特定に有益な事項として当事者間で定めた自由な特定事項をも登録することができることとされている。
(a) 登録の目的 (b) 特定通常実施権許諾者の商号又は名称及び本店又は主たる事務所の所在地 (c) 特定通常実施権者の商号又は名称及び本店又は主たる事務所の所在地 (d) 特定通常実施権許諾契約における許諾の対象となる特許権、実用新案権又はこれらの専用実施権を特定するために定めた事項 (e) 特定通常実施権許諾契約において設定行為で定めた特許発明又は登録実用新案の実施をする範囲 (f) 申請の受付の年月日 (g) 登録の存続期間 (h) 登録番号 (i) 登録の年月日 (j) 登録対象外登録 (5) 「特定通常実施権登録簿」に登録される登録番号は、以下のように記載される。 例)登録番号第1−1号、登録番号第1−2号 先頭の番号は特定通常実施権許諾者を識別する意味し、後ろの番号は、特定通常実施権者を識別する意味を有している。例えば、特定通常実施権許諾者である 甲会社が特定通常実施権者である乙会社と共同で登録申請を行った場合、登録番号第1−1号の登録番号を付与することになる。また、特定通常実施権許諾者で ある甲会社が特定通常実施権者である丙会社と共同で登録申請を行った場合には、登録番号第1−2号の登録番号を付与することになる。 (6) 登録申請にあたり、「許諾対象たる特許権等を特定するために必要な事項」(特定事項)は以下の事項である(法第59条第3項第4号・規則第13条第1項第1号から4号まで)。
(a) 許諾の対象となる特許権等の権利の種類(権利の種類) 例)「特許権」「実用新案権に係る専用実施権」 (b) 許諾の対象となる特許権等の権利の取得の時期(許諾対象権利の取得時期) 例)「平成21年○月×日現在有する」「甲会社が存続中に取得する」 (c) 許諾の対象となる特許権等を実施する製品又は技術の種類(実施製品・技術) (d) 上記(a)(b)(c)以外の事項であって、許諾の対象となる特許権等を特定するために有益な事項(当該事項がない場合においては、その旨)(有益事項) (7) 登録申請にあたり、「実施の範囲」を特定する方法は、以下のようにする。
(a) 地域 例)「日本全国」「東京都千代田区○○の工場敷地内」 (b) 期間 例)「2008年○月×日から2020年○月×日まで」 (c) 内容(実施行為の具体的態様を特定する事項) 例)「半導体デバイスの製造、販売」 (8) 登録申請は、従来の登録申請と同様である。すなわち、登録権利者である特定通常実施権者と登録義務者である特定通常実施権許諾者の共同申請となり(産業 活力再生特別措置法第60条及び特定通常実施権登録令第8条)、登録権判者が単独で申請することを承諾する旨の登録義務者の承諾書が添付されている場合 は、登録権利者だけで申請することができる(同令第9条第1項)。 また、登録免許税は、一申請ごとに150,000円である。 (9) 登録に際しては形式的な審査のみが行われ、通常実施権の特定の程度に関する実質的審査は行われない。本制度上の通常実施権の特定に関する登録は、一定の枠の中において登録当事者の自由に委ねられ、その自由な工夫によって行うことができる。 (10) 特定通常実施権登録制度に関する改正は、既に施行され、2008年10月1日より、登録申請を受け付けている。 (11) なお、詳細については、以下のサイトを参照されたい。 特許庁HP:HOME>特許>権利の登録とその活用 http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/touroku/tokuteitujyojissikenseido.htm |
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D.その他 | ||||||||||||||||||||||||||||||
(1) 政令改正事項であるが、特許権等の通常実施権及び専用実施権に係る現行の登録事項のうち、対価については、経済状況などに応じて変動するものであり、また、通常実施権1件あたりの額の算定が困難な場合も多いことから、登録事項から除外することになる方向である(特許庁説明会テキスト)。 (2) 運用見直し事項であるが、ライセンシーがさらに第三者に実施許諾を行う場合(サブライセンス)において、ライセンサーとサブライセンシーの間での直接の許諾証書がなくても、ライセンシーを介して間接的にサブライセンシーが特許権者から許諾を受けたことを証する書面により、登録を認めることとなる方向である(特許庁説明会テキスト。下記図表1−8)。
【図表1−8】
(特許庁発行の説明会テキストより)
(3) 省令改正事項であるが、現行制度では、登録の効力は登録日に発生するものと解されているが、登録申請受付日から登録日までの事務手続期間中に、他の権利変動(e.g.ライセンサーの破産)があった場合に、登録原因の権利変動との先後関係が逆転するとの問題があった。今回、省令の改正により、登録申請受付日を登録日とみなすことができるようになる方向である(特許庁説明会テキストより)。
【図表1−9】
(特許庁発行の説明会テキストより)
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