改正特許法等の解説・2012〜イノベーションのオープン化、審判制度等の見直し、
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1.特許法などの改正(2/3) | |
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(2)紛争の迅速・的確な解決のための審判制度等の見直し |
A.審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求の禁止 |
【現行制度の概要及び課題】 現行制度における訂正審判は、特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は請求することができないのが原則であるが(特許法第126条第2項)、無効審判の審決取消訴訟提起後、90日以内に限り、訂正審判を請求できる(同項但し書)。この場合、裁判所は実体判断をせずに、決定によって事件を審判官に差し戻すことができるとされている(特許法第181条第2項)。このような裁判所と特許庁との事件の往復は「キャッチボール現象」と呼ばれる(図表1−9)。 このキャッチボール現象によって様々な問題点が指摘されていた。例えば、裁判所の実体的な判断を得ることのないまま特許庁に事件が差し戻されてしまうので、審理の遅延を招き、当事者に訴訟に関する手続上及び金銭上の負担を強いていた。 このような問題点に鑑み、これを是正すべく訂正審判の請求について改正がされた。 |
[図表1−9] (特許庁発行の説明会テキストより)
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【改正の概要】 I.審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求の禁止 本改正で、審決取消訴訟提起後の訂正審判は請求できないことになった(特許法第126条第2項ただし書の削除)。また、当該訂正審判の請求に起因して、裁判所が決定をもって事件を差し戻すことができるとする規定(特許法第181条第2項)が廃止された。 |
II.「審決の予告」の創設(図表1−10) 審判長は、特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において、審判の請求に理由があると認めるとき、その他省令で定めるときは、「審決の予告」を当事者等に示すことになった(特許法第164条の2第1項)。そして審決の予告を示された特許権者(披読求人)には訂正請求をするための機会が与えられることになった(同条第2項)。 これにより、現行制度の審決取消訴訟を提起することなく、「審決の予告」で示された審判官合議体の判断を踏まえて、特許権者が無効審判中に訂正請求をすることができる。 |
[図表1−10] (特許庁発行の説明会テキストより)
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III.関連規定 @ 改正法施行の際に現に係属している審判については、その審決が確定するまでは、現行法が適用される。すなわち、改正法施行の前に請求された特許無効審判については、改正法施行の後であっても審決が確定するまでは、以下のように取り扱われる。 ・その審判における手続等は現行法による(附則第2条第18項、第27項) ・審決取消訴訟提起後、90日以内に訂正審判を請求できる(附則第2条第19項) ・裁判所は当該訂正審判の請求があった場合には、特許無効審判の審決を決定をもって取り消すことができる(附則第2条第24項)。 A 実用新案法には訂正審判の制度がなく、意匠法及び商標法には訂正制度がないため、対応は不要とされた。 |
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B.再審の訴え等における主張の制限 | |
【現行制度の概要及び課題】 侵害訴訟において、ある判決が確定した後に、特許無効審判や訂正審判で先の判決と異なる審決がなされ確定する場合がある。このような場合民事訴訟法上の再審事由に該当するとされている。 例えば、侵害訴訟において、特許権者の差止請求を認容する判決が確定しても、その後被擬侵害者が請求した特許無効審判において無効審決が確定した場合、再審事由に該当する。 また、侵害訴訟において、被擬侵害者の無効理由の抗弁が認容され、特許権者の請求を棄却する判決が確定しても、その後特許権者が請求した訂正審判において訂正を認容する審決が確定した場合、再審事由に該当する。 これらの再審事由による再審の結果、先の確定判決が取り消された場合、特許権者に対して損害賠償金の返還や被擬侵害者に対して損害賠償金の発生等が生じ得ることは、紛争の蒸し返しであり、特許権侵害訴訟の紛争解決の弊害となっていた。 そこで、上記弊害を解決すべく再審の訴えにおける主張の制限が本改正で行われた。 |
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【改正の概要】 I.再審の訴えにおける主張の制限(特許法第104条の4) 特許権侵害訴訟等において判決が確定した後に、その判決と異なる内容の審決が確定しても、その審決の確定を再審の訴えにおいて主張することができないことになった。以下に主張が制限される審決を列挙した。 ・特許を無効にすべき旨の審決(特許法第104条の4第1号、図表1−11) ・特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決(第2号、図表1−12) ・明細書等の訂正をすべき旨の審決であって、政令で定めるもの(第3号) |
[図表1−11] (特許庁発行の説明会テキストより)
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[図表1−12] (特許庁発行の説明会テキストより)
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II.関連規定 @ 経過措置 特許法第104条の4の規定は、改正法の施行日以後に提起された再審の訴え等における主張について適用される(附則第2条第15項)。 A 他法での取扱い (a)実用新案法(実用新案法第30条で準用する特許法第104条の4) 実用新案法においても、再審の訴え等において、無効審決が確定したこと、又は政令で定める訂正があったことの主張が制限される。 (b)意匠法(意匠法第41条で準用する特許法第104条の4) 意匠法においても、再審の訴え等において、無効審決が確定したことの主張が制限される。 (c)商標法(商標法第38条の2) 商標法においても、再審の訴え等において、無効審決が確定したこと、又は取消決定が確定したことの主張が制限される。 |
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C.審決の確定の範囲等に係る規定の整備 | ||||||||||||||||||||||
【現行制度の概要及び課題】 訂正審判や特許無効審判中の訂正請求の訂正において、「審決の確定」及び「訂正の許否判断」については「請求項毎」に扱うのか、「一体不可分」に扱うのか特許法上明文の規定がない。そのため、裁判において解釈が分かれる場合も少なくなく、その扱いが不明確となっていた(図表1−13)。 |
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[図表1−13] 現行制度における審決の確定等の扱い
(特許庁発行の説明会テキストより)
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また、現行の運用においては、無効審判中の訂正請求では「審判請求された請求項毎」に扱うのに対し、訂正審判では「一体不可分」に扱っているため、一貫性がないとの指摘もあった。 さらに、訂正を「請求項毎」に扱い、その許否判断が請求項毎で異なった場合、訂正される部分とされない部分とが発生し、それぞれに関連する明細書も複数存在することになるので、権利内容の把握に負担が生じている(一覧性の欠如、図表1−14)。 そこで、訂正審判等における「審決の確定」及び「訂正の許否]について請求項の扱いを明確にする改正が行われた。 |
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[図表1−14] (特許庁発行の説明会テキストより)
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【改正の概要】 I.訂正の請求単位の見直し等(図表1−15) @ 請求項ごとの請求 訂正審判及び特許無効審判の訂正では、特許権単位(一体不可分)だけでなく、請求項が二以上ある場合には、請求項ごとに請求できることになった(特許法第126条第3項、第134条の2第2項)。これにより、独立請求項が二以上ある場合には、それぞれの請求項について訂正(訂正審判)を請求できるようになった。 A 一群の請求項としての扱い ある請求項の記載を他の請求項が引用するような引用関係がある場合には、これらの請求項を「一群の請求項」とし、一体不可分に扱うことになった(特許法第126条第3項、第134条の2第3項)。 B 引用関係を解消する訂正 一群の請求項において、請求項間の引用関係を解消する訂正が認められることになった(特許法第126条第1項第4号、第134条の2第1項第4号)。これにより、請求人が請求項間の引用関係を解消する訂正をすることにより、引用関係解消後にそれぞれの請求項について訂正(訂正審判)を請求できるようになった。 C 明細書又は図面を訂正する場合 明細書又は図面の訂正が複数の請求項と関係する場合には、その請求項の全てについて請求をしなければならないことになった(特許法第126条第4項)。 |
[図表1−15] (特許庁発行の説明会テキストより)
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II.審決の確定範囲の明確化等 @ 審決の確定範囲(図表1−16) 上記訂正(訂正審判)における請求項の扱いに伴い、審決についてその確定範囲が明確化された(特許法第167条の2)。例えば、訂正審判ではその審判の請求の仕方によって審決の確定範囲が定まり、特許無効審判における訂正請求では、無効審判の請求の仕方あるいは訂正の請求の仕方によって審決の確定範囲が定まることになる。 |
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[図表1−16] (特許庁発行の説明会テキストより)
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A 出訴の通知等(図表1−17) 特許無効審判等の審決に対する訴えにおいては、請求項ごとに審決に対する訴えの有無を特定するために必要な書類が裁判所から特許庁長官に送付される(特許法第180条)。特許庁では、訴えのなかった請求項を特定し、当該請求項についての確定した審決を登録する。 B 裁判の正本等の送付(図表1−17) 訴訟手続が完結した訴えに係る請求項を特定するために必要な書類(裁判の正本や、取下書の写し等)が裁判所から特許庁長官に送付される(特許法第182条)。 特許庁では、訴訟手続が完結した訴えに係る請求項を特定する。 |
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[図表1−17] (特許庁発行の説明会テキストより)
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III.関連規定 @ 経過措置 改正法施行日前に請求された審判等の取扱いについては、その審決が確定するまでは、改正前の規定が適用される(附則第2条第18項)。 施行日前に請求された特許無効審判であって、審決が確定していない特許についての訂正審判については、改正法の施行日以後であっても、改正前の規定(特許法第126条第2項)が適用される(附則第2条第19項)。 改正前の規定により許否判断が行われ、訂正した特許についての特許無効審判の無効理由の扱い(特許法第123条第1項第8号)は、改正前の規定が適用される(附則第2条第21項)。 A 他法での取扱い 実用新案法には訂正審判、無効審判中の訂正請求の制度がなく、意匠法及び商標法には訂正制度がないため、対応は不要とされる。 |
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D.無効審判の確定審決の第三者効の廃止 | |
【現行制度の概要及び課題】 現行の特許無効審判では、審決が確定し登録されると、何人も同一の事実・同一の証拠に基づいて無効審判を請求することができないとされている(特許法第167条、図表1−18)。 しかし、審判とは別に訴訟の場で特許法第104条の3に基づく無効理由の抗弁が認められた場合、先の無効審判と同一の事実・同一の証拠に基づいて何人も無効審判を請求できないとすると、本来有効ではない特許が原簿上に登録されたままとなり、公益上の不都合が生じる。 そこで、特許無効審判の確定審決の効力について改正がなされた。 |
[図表1−18] (特許庁発行の説明会テキストより)
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【改正の概要】 I.第三者効の廃止(特許法第167条、図表1−19) 無効審判の審決確定後、同一の事実・同一の証拠に基づいて無効審判を請求することができないとする主体が「何人も」から「当事者及び参加人」へと改正された。これにより、審判に関与していない第三者による同一の事実・同一の証拠に基づく無効審判の請求が可能となった。 また、当事者及び参加人は、審決が確定したことを登録によらなくても知ることができるので、「確定審決の登録があったとき」から「審決が確定したとき」へと改正された。 |
[図表1−19] (特許庁発行の説明会テキストより)
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II.関連規定 @ 経過措置 確定審決の登録が法改正の施行の日以後になされた場合に改正法が適用される(附則第2条第22項)。従って改正法施行の日前に確定審決の登録がされている場合には、旧法が適用され、何人からも同一の事実・同一の証拠に基づく審判を請求されることはない。 A 他法での取扱い 特許法第167条は、実用新案法、意匠法、商標法で準用されているので、同様の改正がなされる。 |
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