改正特許法等の解説・2008
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4.商標保護の動向 | |
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(1)小売等役務商標制度の現状と課題 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(a)小売等役務商標制度の現状 平成19年4月1日より、小売等役務商標の登録制度が開始され、商標法上の役務に「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が合まれることになった。 小売等役務とは、小売又は卸売の業務において行われる総合的なサービス活動(商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった最終的に商品の販売により収益をあげるもの)をいい、小売業の消費者に対する商品の販売行為、卸売業の小売商人に対する商品の販売行為は合まれないものとされている。 即ち、小売業者等が使用する商標は、従来、商品商標として、取り扱う商品についての商標登録を行うことによって保護されていた。このため、商品に付ける値札や折込みチラシ等に表示する商標は、商品の取引上の目印とも認められることから、商品に係る商標として保護されていた。しかし、ショッピングカート、店員の制服等に表示する商標は商品の取引上の目印とは認められないため、商品商標での保護はされていなかった。さらに、取り扱う商品が多種多様な商品の分野にまたがっている場合には、多くの分野で多種多様な商品について商標登録をしなければならず、この登録に要する手続費用が高額になっていた。 そこで、今回の小売等役務商標登録制度の導入により、従来の商品商標でも保護されていた値札、折込みチラシ等に加え、ショッピングカート、買い物かごや店員の制服等に表示する商標についても包括的に保護されることとなった。また、小売等役務商標として登録する場合は、どのような商品を取り扱う小売業者等であっても、「小売サービス」という一つの分野で商標権の取得をすることができるため、より低廉に権利を取得することができる様になった。 対象となるサービスは大まかに「総合小売等役務]と「特定小売等役務」に分けられる。総合小売等役務とは、衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取扱うことを目的とする小売サービスであり、特定小売等役務とは、衣料品や飲食料品など、ある特定の商品を取扱うことを目的とする小売サービスである。 ここで、小売等役務には、独自の類似群(35K01〜21)が、それぞれの取扱商品に対応して定められている(該当しない場合は「35K99」が割り扱られる)。現状では、小売等役務商標の出願状況は下記の通りである。(尚、一覧表の件数は特許庁IPDL(http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.idpl)で検索をしてまとめた。)
この一覧表でも明らかなように、特例期間中の出願は、主に実際に使用している小売等の名称の出願であることが予測され、一部に総合小売等役務と特定小売等役務を1出願としたものがあることを考慮してもかなりの数の出願がなされていることがわかる。一方、この特例期間の経過後は、今後使用を希望する商標の出願であることが予測され、これは徐々に落ち着いてきていると考えられる。 (b)審査の進め方 小売等役務に係る商標を出願するためには、従来の商品・役務の出願と同様の願書の様式を利用し、小売等役務を指定して商標登録出願を行う。ここで、願書に記載された指定商品又は指定役務について、商標の使用又は使用意思があることに合理的な疑義がある場合には、第3条第1項柱書に違反するとの通知によって、商標の使用又は使用意思を確認することとされているが、小売等役務を指定役務とする場合、原則として、
@ 総合小売等役務に該当する役務を個人(自然人をいう。)が指定して商標登録出願をした場合、
を目安として、出願人の業務を通じて商標の使用又は使用意思を確認することになる。A 総合小売等役務に該当する役務を法人が指定してきた場合であって、「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をするものであるか否かについて職権で調査を行っても、出願人が総合小売等役務を行っているとは認められない場合、 B 類似の関係にない複数の小売等役務を指定してきた場合、 また、小売等役務に係る商標の審査についても、通常の商標の審査と同様に、識別力を有するか否かについての審査を行う。このため、小売等役務の取扱商品の普通名称や品質表示、ありふれた氏や名称等の多くは、小売等役務との関係においても、自他役務の識別力の弱い場合が想定され、原則として商標登録を受けることはできないものと考えられる。 さらに、出願された小売等役務の商標は、取扱商品が同一又は類似の小売等役務同士について先後願の審査を行うだけではなく、商品の商標とも相互に先後願の審査を行うこととなる(いわゆるクロスサーチ)。このため、競合関係にある小売等役務に係る商標と商品に係る商標との間では、先後願の審査を行うことになる。単純に考えると、他人の商品についての先行登録商標と競合関係にある場合、後願に当たる小売等役務商標は商標登録を受けることができないことになる。ただし、総合小売等役務については、商品に係る商標との間での前記クロスサーチは行わないことになっている。 また、平成19年4月1日から3月間(3か月が経過する6月30日が土曜日で特許庁の閉庁日にあたるため7月2日(月)まで)の間に出願された複数の小売等役務商標が競合(商標と小売等役務のそれぞれが同じ又は似たものである場合等が該当する。)した場合は、同じ日に出願されたものとして扱われ、競合する小売商標登録出願については、それでれの商標の周知性の度合い等により登録を受けることができる出願人が決められることになる(特例期間)。 尚、特例期間内であっても、商品商標の出願との間の先後願は、実際の出願日で判断される点には注意が必要である。 (c)補正について 総合小売等役務を、特定小売等役務に変更する補正は、要旨の変更とされ当該補正は却下処分の対象となる。また、特定小売等役務を総合小売等役務に変更する補正も同様に要旨変更と認められるため、係る補正も認められないことになる。そして、当然ではあるが、小売等役務を商品に変更する補正、商品を小売等役務に変更する補正等も要旨変更として補正却下の対象である。 一方、特定小売等役務について、その取扱商品の範囲を減縮した特定小売等役務に変更する敏正は要旨変更とはされていないので、係る補正をすることは可能である。しかし、その取扱商品の範囲を変更又は拡大した特定小売等役務に変更する補正は要旨変更であるため、補正の際には注意が必要である。 (d)小売等役務の商標と商品の商標との関係 小売業者等の商標であっても、プライベートブランドの商品(スーパーの様な大手小売業者が自社の顧客に合わせて独自に開発し、メーカーに発注して商品化したもの等)に、製造段階で行われるような方法により表示された商標は、メーカーの商標と同様に、商品と密接な関連性を認識させ、商品の出所を表すいわゆる商品商標と考えられる。一方、接客に当たる店員の制服や陳列棚、さらに、売場のショッピングカートや買い物かごなどに表示される商標は、特定の商品との密接な関連性ではなく、店員による商品説明サービスや陳列棚に並べられる各種商品の取り揃えサービス、店舗内を顧客が移動する際に商品を持ち運びやすくするためのサービスなどの小売業者の顧客向けサービスを認識させることから、商品の出所ではなく、小売等役務の出所を表示するものと考えられる。 しかし、商標法上で定められている商標の「使用」の定義を踏まえると、商品や商品の包装、広告等には、商品に係る商標と小売等役務に係る商標のいずれの商標も表示され得るため、これらの物に表示された商標が商品に係る商標又は小売等役務に係る商標のいずれであるかについては、商標の表示態様に応じて判断することになる。 (e)今後の課題 今年(2008年)から順次上記小売り等役務の出願についての出願が審査され登録されることになる。審査基準が未だ曖昧で、商品と役務の類似はもとより役務商標同士の類似と、商品商標と小売役務商標との類似を同じように見るのか否か、どの範囲までならば類似として拒絶理由を発送するか等の基準はますますわかりづらくなっている。今後の審査結果を積み重ねることで一定の方向性が見えてくるものと期待される。他にも審査については、特例の審査、業務証明書と使用の証明書等の取扱等細かい点が徐々に明らかになって来るため、出願した特定小売役務に対応した業務証明の準備、必要に応じて2007年3月31日までに使用していた証明書等の準備も必要となってくる。 一方で今回の小売等役務商標制度の導入に伴って様々な問題を生じることが予想されている。例えば、出願された小売等役務の商標は、商品の商標ともクロスサーチがなされるため、第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(35K02)を指定した場合には、全飲食料品を指定したものと類似関係に立つことなる。これは結果として、上記役務を指定して権利を取得した場合には、全飲食料品について他人に権利を取得させないことにつながり、本来ならば第29類〜第33類の5区分で出願して独占することができた範囲を、1区分で独占できることになって極めて不公平であるばかりでなく、商品商標の登録に小売等役務の商標が障害となる問題等も生ずることが予想されている。 また、小売り等役務商標の登録制度が始まったばかりであるため、いかなる表示方法が商品商標であって、小売り等役務商標の使用はどのような使用態様が一般的であるか等の考え方も徐々に変化してくるものと考えられ、使用態様の比較検討についてもこれから重要な課題になってくるものと考えられる。また、近年、不使用商標の整理等の観点から、比較的簡単に不使用取消審判の請求がなされる傾向にあることを考慮すると、小売り等役務商標の登録後3年に当たる2011年頃までに、小売等役務についての使用をどのように証明するか等をまとめていかなくてはならない。 |
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(2)地域団体商標制度の現状と課題 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(a)地域団体商標制度の現状 地域団体商標制度は、平成18年4月1日に施行され、同日より地域団体商標登録出願の受付を開始している。これにより地域の名称と商品(役務)の名称か らなる商標について、一定の範囲で周知となった場合には、事業協同組合や農業協同組合等の団体が地域団体商標として商標登録を受けることが可能になった。 地域団体商標として登録ができる商標は、
@ 地域の名称+商品(役務)の普通名称、
に限られている。ここで、地域の名称は、商品の産地又は役務の提供地等、商標の使用をしている商品(役務)と密接な関連性を有することが必要となる。また、指定商品(指定役務)は、地域の名称と商品(役務)の関係が明確になるように記載する必要がある。例えば、地域の名称が商品の産地である場合には「OO(地域の名称)産の△△(商品名)」と記載する。A 地域の名称+商品(役務)の慣用名称、 B 上記@又はA+産地等を表示する文字として慣用されている文字 地域団体商標制度を利用した出願は、平成19年9月現在で総数758件ある。その内訳は、平成18年度に698件、平成19年4月が11件、5月が13 件、6月が6件、7月が12件、8月が7件、9月が11件となっており、都道府県別の出願の内訳は以下の表に示す通りである。
都道府県別出願内訳一覧表(平成18年4月〜9月までの出願)
*その他の3件は、外国(ジャマイカ、カナダ、イタリア)からの出願。 尚、最新の出願状況については、特許庁HPの以下の資料を参照されたい。 「地域団体商標制度の部屋」 http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm 都道府県別では、特産品や土産物品が多いと思われる京都が137件と最も出願件数が多く、次いで、兵庫、岐阜、石川、北海道と続いている。しかしながら既に地域ブランドとして識別力ある商標を通常商標として登録・使用して、既に定着している場合もあり、此の場合にはあえて地域ブランドの出願をしていないこともあるので、事情を考慮しつつ出願の数字を見なければならない。 また、産品別の出願件数としては、農水産一次産品が357件、加工食品が90件、菓子が30件、麺類が30件、酒類が15件、工業製品が195件、温泉が31件、その他が10件となっている。農水産一次産品他、飲食料品関係の出願が6〜7割を占めているが、工業製品も2.5割程度を占めている。 (b)今後の課題 出願状況を見ると、制度導入時から存在していた地域ブランドの出願は一段落したものと考えられ、順次登録されていくことが予想される。以後は、地域の名産品作り、地域おこしと運動した地域ブランド作りと出願・登録を計画的に進めることで此の制度を有効に利用することが望まれる。一段落した時点で再度この制度の導入によって生じた事態を、出願人の立場と第三者の立場から見直してみたい。 まず、地域団体商標制度を出願人の立場から考えた場合、保護を望む商標とその商標の実際の使用態様を検討した後、出願態様を検討していくことが望まれる。地域団体商標で登録されないケースとして、出願した商標の態様と、実際に使用している商標の態様が異なっている場合が認められるからである。 また、地域団体商標を活用し、ブランドを育成していくには、商標が使用されている商品(役務)の品質(質)を確保・維持していくことが必須の条件である。即ち、ブランドが信用を獲得・維持するには、品質(質)の管理が必要不可欠となる。組合(その構成員)自らが、粗悪なものを需要者に提供していては、ブランドの信用はただちに失墜してしまうためである。また、地域団体商標が登録されると組合の構成員は、指定商品(指定役務)について登録商標を使用することができるが、組合が当該登録商標の使用を認める商品(役務)の品質(質)の基準を規定として設ける等して、その品質(質)の条件に合う商品(役務)にだけ登録商標が使用されるように徹底することが肝要となる。 一方、第三者の立場から考えた場合、地域団体商標制度が導入されたことにより、制度施行前までは通常独占されず自由に使用できる商標が、使用できなくなるおそれが生じることに最も注意を払わなければならない。 例えば、農産物に地域団体商標の登録がなされた場合、単なる原材料表示等であれば従来通り使用可能であっても、その原材料の表示を目立つように目印的に使用すると商標権侵害の可能性が出てくることも考えられるため、従前にも増して、パッケージ等に使用する文言について、使用前の調査が必要になってくる点に留意する必要がある。 尚、地域団体商標を取得した団体に属していなくても、従前から当該商標を使用していた第三者の利益は害されることのないよう、地域団体商標の商標登録出願前から不正競争の目的なく継続して使用をしている者については、引き続き使用することができることとされている(商標法第32粂の2第1項)。しかし、此の継続的使用権の立証については、第三者自身が行う必要があることを考えると、地域の名称と商品(役務)の名称からなる商標を使用する場合には、予め、使用開始時期や態様を客観的に証明できるような使用証拠の保管が重要となる。 |
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(3)新しい商標保護の可能性 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
現行法において、「商標]とは、「文字、図形、記号、若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産等する者がその商品について使用をするもの、又は、業として役務を提供等する者がその役務について使用をするものをいう。」と定義されている。このため、現行商標法の下では、「音響商標(Sound mark)」、「匂い商標(Olfactory mark)」、「色彩のみからなる商標(Color mark)。や、「動く商標]、「ホログラムの商標」等は、保護の対象となっていない。 しかし、アメリカをはじめ、イギリス、フランス、OHIM(欧州共同体商標意匠庁)等、各国においては、法制度の相違はあれ、既に上記新しい商標のうちいくつかは保護対象となっており、また、マドリッド協定議定書においても、音響商標等の出願、登録を基礎に国際出願をすることが既に可能となっている。 こうしたことから、我が国においても、保護対象の拡大に向けて、新しい商標についての保護のあり方について検討が開始されている。特許庁関係で検討されている事項は、順次特許庁のホームページにもその検討内容が掲載されているので参考にしていただきたい。 以上
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