改正特許法等の解説・2006

〜知的財産高等裁判所の創設と知的財産訴訟、
         改正商標法・改正不正競争防止法の解説〜(2)

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  1.知的財産高等裁判所の創設と知的財産権訴訟<(2/3)
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(3)平成15年改正の審判制度と審決取消訴訟の流れ
 審決取消訴訟について、【資料1−3】のように、平均処理期間は12ヶ月前後になっている。
 件数自体は全体として上昇していたが、2002年(平成14年)をピークに若干下降に転じているが、依然として高い水準にある。

【資料1−3】

知財高裁HPデータに基づき執筆者が作成
 
 特許無効審判との関係で、平成15年改正で無効審判制度が改正され、審決取消訴訟提起後の特許権者の「訂正審判請求」が制限された。それ までは、特許庁での無効審判の係属が解除されると訂正審判の請求が可能となり、審決取消取訴訟で審理対象の明細書等と、出訴後に請求された新たな訂正審判 で審理対象となる明細書等とが異なる弊害があり、訂正審判の結果によっては、審決取消訴訟の審理が無駄になる問題点があった。
 新しい制度では、【資料1−4】のような流れになる。詳細すれば以下のとおりである。代理人として関与したある事件A(無効審決が出された無効審判事件)での実際の審理手続を紹介しながら説明する。

【資料1−4】
訂正請求をできる期間は無効審判再開の通知から10日間

@ 知財高裁に審決取消訴訟を出訴後90日以内に特許庁に対して訂正審判を請求できる(特許法126条2項但書)。通常は、出訴後1〜2ヶ月程度で第1回期日が指定されると思われる。従って、第1回準備書面では、審決取消の詳細を完成させると共に、訂正審判を請求した旨、あるいは訂正審判を請求する予定の旨を記載することになる。
 A事件では、第1回準備書面では、訂正審判のクレイム案と共に、訂正審判の請求を準備している旨を記載した。

A A事件では、第1回期日で、裁判官は、簡単な改正された制度の説明をし、次に、原告に対して「訂正審判を請求する意思」を確認した。その後、裁判官は被告に対して「裁判所としては訂正審判が請求されれば特許法181条2項の決定をする予定であるが被告は良いか」と確認した。被告は「このまま審決取消訴訟の審理を望む」と主張したが、訂正審判の結果如何により審理対象が変わる旨を言われ、結局被告は「裁判所に従う」ということなった。
 また、他の事例では、第1回期日で、裁判官より新たな審決取消−訂正審判−無効審判の趣旨を詳しく説明された後に、同様なやりとりがなされている。

B A事件では、その後、原告は期日内に特許庁に対して訂正審判の請求をし、裁判所にその旨の上申書(訂正審判請求書の写し添付)を提出した。上申書提出から3日後には、取消決定が出された【資料1−5】。裁判所において訂正審判の請求書を詳細に検討する時間は無かったと考えられ、減縮訂正が形式的になされていれば取消決定されるか、第1回準備書面で提出したクレイム案を事前に詳細に検討しての判断か不明である。また、特許法第181条第3項の「決定をするときには当事者の意見を聴かなければならない」は3日間の内に被告に意見を求めたか、あるいは、第1回期日でのやりとりで完了していたのか不明である。

【資料1−5】
C A事件では、知財高裁で取消決定が出された後、約20日で、特許庁から無効審判を再開する(訂正請求の期間を通知する)「通知書」が出された【資料1−6】。

【資料1−6】
 訂正請求の期間(特許法第134条の3第2項)は、この「通知書」の送達から10日間であるので、注意を要する(60日ではない!)。訂正審判請求を見直す程度の期間しかない。
 この際、訂正請求をして新たな明細書等の内容とすることもできるが、訂正請求を訂正審判の内容を援用することもでき(特許法第134条の3第3項)、また訂正請求をしなければ、訂正審判の内容でみなし訂正される(同条5項)。
 条文上、訂正請求がされたときには、先の訂正審判はみなし取り下げされる(同条4項)ので、訂正審判において、手続中止の通知が送達される【資料1−7】。

【資料1−7】
 尚、条文上、「訂正審判と全く違う訂正請求をする」ことは否定されていないようであるが、どこまで許容されるか不明である。
 また、特許庁印紙代であるが、特許法195条別表上段13のカッコ書きにより、訂正請求の印紙は原則不要である。

D 以降は、通常の無効審判と同様の審理になる。

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/6/12