改正特許法等の解説・2010

〜特許制度をめぐる検討状況、                 
東京地裁知的財産専門部・知財高裁の動向、
                 新しいタイプの商標保護〜(3)

  目次
 
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  1.特許制度研究会で検討されている内容の紹介<(3/3)
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(6)産業財産権をめぐる国際動向と
迅速・柔軟かつ適切な権利付与について (平成21年8月25日 第6回)   
 A.特許審査の現状と見通し 
【特許をめぐる国際動向】
 企業活動における知的財産の重要性の増大や経済のグローバル化を背景として、技術を権利化する動きが世界規模で活発になり、特許出願件数は世界的に急増している。このような出願件数の急増は、各国の特許庁において審査順番待ち期間や審査の最終処理までの期間の長期化を引き起こしている。また、より多くの国々で特許を取得するケースが増える中、出願手続が各国で様々であったり、実体制度が異なったりすることによる時間的及び金銭的負担増が顕著になっている。
 これらの課題を解決するには、各国特許庁の間でワークシェアリングを行うことで審査の効率化を図ると同時に、各国間の制度調和を進めることが不可欠である。

【国内の特許審査の現状と見通し】
 審査請求期間を7年から3年に短縮したことにより生じた、いわゆる「審査請求のコブ」により、審査順番待ち期間が一時的に増加していたが、任期付き審査官の採用等による審査官の増員やサーチ外注の拡大により、今後審査順番待ち期間は短縮されていく見込みである。このような中、多様なユーザーニーズに対応し、イノベーションを促進するため、以下の視点での検討が不可欠となっている。

大学等の研究成果の早期保護
 大学知財本部やTLO(技術移転機関)の設置など、大学等における知財活動基盤の整備が進んでいる。また、大学等からの出願は、量から質に重点が移り、iPS細胞分野などにおいて激しい特許出願競争も生じている。我が国の大学等における研究成果を早期に保護するための方策の検討が求められている。

特許の戦略的活用の進展
 特許の戦略的活用の進展により、早期の権利化だけでなく、遅い権利化のニーズが生じている。特に、特許を含む国際標準が増加し、国際標準化活動における特許戦略の重要性が増す中、標準化のタイミングに合わせた権利化のニーズが高まっている。

権利の安定性・予見性の必要性
 権利の安定性・予見性の維持ないし向上は、権利に関する不確実性を低減させ、イノベーションの促進に資するとともに、審査の質に対する各国特許庁間の信頼を基礎とするワークシェアリングの推進に不可欠の要素である。

 B.迅速・柔軟かつ適切な権利付与に関する検討 
【PLT加盟に向けた検討について】
 PLTは、2005年4月に発効しているが、我が国を含む多くの主要国は未加盟である。EPOのように、PLT加盟前であってもPLTに準拠した法改正を行うことで、ユーザーに同様の手続要件緩和の利益を与えることもできる。我が国の制度を諸外国と統一的かつユーザーフレンドリーな制度とし、もってイノベーション促進に資するために、PLTの各項目について、条約加盟に先んじた国内対応について検討すべきであると考えられる。

【仮出願制度について】
 米国の仮出願制度は、簡易かつ安価な手続で早期に出願日を確保できることから、特許出願に一刻を争う競争の激しい分野や、出願支援体制がぜい弱な大学等から導入を求める声がある。このような要望に対応するため、国内優先権制度等の既存の制度やPLTとの関係を踏まえ、新制度導入のデメリットについても精査しつつ、イノベーション促進の観点から、我が国に同様の制度を導入すべきか検討する必要があると考えられる。

【審査着手時期の多段階化について】
 出願人が特許審査を受けるにあたり、その審査着手時期には様々なニーズが存在する。早い権利化のニーズがあるものとして、iPS細胞に代表される国際的な競争が激化している研究分野における発明や、ライフサイクルが短い発明、早期に事業化を予定している発明などが挙げられる。一方、国際標準化に関連する分野、医薬品や基礎的研究など製品化・実施化に時間のかかる分野では、遅い権利化のニーズもある。
 遅い権利化のニーズにこたえる制度導入の必要性について、遅い権利化のイノベーションへの悪影響、出願人のニーズと第三者の監視負担のバランス、過去の制度改正の趣旨との整合性を考慮しつつ検討する必要があると考えられる。

【特許の質の向上に向けた出願人・特許庁・第三者の役割について】
出願人の役割(事前の先行技術調査)について
 出願人による先行技術調査の取組は、全体としては進んでいるものの、未だに、拒絶理由通知後に出願人からの応答がないまま拒絶される案件は、全審査件数の約25%にのぼっている。また、古い引用文献や自社の文献に基づいて拒絶される場合も散見される。出願人による先行技術調査が十分になされない場合には、出願人にとってもコスト等の無駄や、安定した権利の取得が損なわれるなどの問題が生じる可能性がある。出願人は自らの利益に資するとの意識をもって先行技術調査に一層積極的に取り組むべきではないか。

【特許庁の役割(的確・予見性の高い審査)について】
 進歩性のレベルについては、レベルの低い特許はビジネスの足かせとなるとして、進歩性のレベルを上げるべきとの意見と、中小企業による技術開発促進や基本的・革新的な発明の確実な保護を図るため、進歩性のレベルを下げるべきとの両方の意見がある。この点について、前述の審査基準専門委員会では、特許権の法的安定性等の観点から、現時点で審査基準の改訂によって進歩性のレベルを変更すべきでないとの結論を得ている。

【第三者の役割(公衆審査)について】
 権利の安定に資する公衆審査の在り方について検討すべきであると考えられる。

■トピックス■ 「平成20年の特許法改正、審査基準の一部改訂」
 平成20年特許法改正により、拒絶査定不服審判請求期間が「(平成21年4月1日以降に拒絶査定の謄本の送達があった特許出願については)拒絶査定謄本送達日から3月以内」に拡大され(特許法第121条第1項)、これに対応して特許出願の分割可能な時期(特許法第44条第1項)が (1) 明細書等の補正が可能な時期(1号)、(2) 特許査定から30日以内(2号)、(3) 拒絶査定から3月以内(3号)に改正された。また、審査基準にも一部改訂が加えられた(出願の分割の要件、特許法第50条の2の通知、発明の単一性の要件、発明の特別な技術的特徴を変更する補正)。これらの改正特許法、改訂審査基準は既に施行されているが、それぞれの適用時期に相違がある。
 特許庁ホームページの「説明会テキスト」「平成21年度知的財産権制度説明会(実務者向け)テキスト」における「講義名:審査の基準及び審査の運用 テキスト名:当日説明会資料」(掲載日:平成21年10月22日)に平成20年の特許法改正、審査基準の一部改訂とこれらの適用時期が紹介されている(パワーポイントデータ63ページ)。
 http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/h21jitsumusya_txt.htm
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(7)発明・発明者の保護の在り方について (平成21年10月2日 第7回)
 A.職務発明制度について 
 職務発明に関するルールの明確化と使用者・従業者等の納得感向上を目指し、2004年に特許法第35条の改正が行われたが、依然として課題があるとの指摘もある。

 B.冒認出願の救済に関する制度について 
   他人の発明について正当な権原がない者がした出願は冒認出願と呼ばれており、拒絶理由とされ、仮に特許権が設定登録されたとしても無効理由を抱えることとなる。
 特許法上、冒認出願された真の権判者が権利を取り戻すための移転請求権は規定されていないこと等を踏まえ、冒認出願に関する救済措置の在り方について検討する。

 C.新規性喪失の例外規定における学術団体等の指定制度について 
   学術団体による研究集会で文書をもって発表すること等により公知になった発明であっても、一定の手続により、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるが、対象となる学術団体等は特許庁長官による指定を受けたものに限定されている。
 この指定は主催者による申請が前提となっており、発表等を行った者は、その場が指定を受けているか否かにより新規性喪失の例外の適用可否が左右されること等から、実態に即していないとの意見もある。

 D.特許の保護対象について 
   現代の先端技術は劇的な速度で絶えず高度化・複雑化しており、欧米においても特許の保護対象の議論は依然として流動的である。
 我が国の特許の保護対象が適切であるかを確認すべきとの声がある。
以上

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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/6/10