判例アラカルト2 |
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  | 2.形式的に技術的事項が一致する場合の発明の容易性 |
事件の表示 |
平成12年(行ケ)第455号 審決取消訴訟 (東京高裁平成13年11月1日判決)) 原告X 被告Y |
事案の概要 |
一.本件の経緯 原告Xは、発明「地図表示方法」について特許出願したところ(特願平3?82457号)、当該出願について平成11年3月1日に拒絶査定を受けたので、同年4月28日に拒絶査定不服審判を請求した。 平成12年10月17日付で拒絶審決がなされ、審決では、本願の請求項1に係る発明は、特開平2?248814号(以下「引用例」と言う。)に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができないものであることから、本願は請求項2に係る発明については論ずるまでもなく拒絶されるべきであると認定判断された。 そこで、原告Xは当該審決の取消を求めて出訴した。 二.本件の争点 引用例図面中の記号が、地図上の情報を伝える記号に該当するか否か。 出願に係る発明と形式的に一致する部分を有する先行技術は、無条件でその進歩性を否定することができるか否か。 三.判決(主文) 特許庁が平成11年審判第7079号事件について平成12年10月17日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。 |
判旨 |
一.原告Xの主張 原告Xは、審決は「引用例の記載の意味の誤認に基づく一致点の誤認」があるとして、『審決では、「所定地域の地図を・・・道路区間の両端に・・・記号を付する・・・」ことで出願発明1と引用例とは一致するとした点がそもそもの誤りである。』と主張し、加えて「・・・道路区間の両端に・・・記号を付する」ことで一致する点は問わないとしても、『両発明について付記されているそれぞれの記号が「その区間の交通情報の内容を表す」ことで一致する。』とした点で誤りがあると主張している。 かかる主張の根拠として、原告Xは、「引用例の図面に記載された道の始点と終点に描かれた「<A>」「<B>」の記号は、実際のナビゲーション装置の表示画面に表示される記号ではなく、単にナビゲーション装置を説明するための符号にすぎないこと。」を挙げている。更に、本願発明により奏せられる効果が引用例には全く開示されていないため、審決ではこの効果の看過があると主張した。 二.被告Yの主張 被告Yは、事実として『引用例の図面の地図中には、道の始点と終点に「<A>」「<B>」の記号が記載されている。』こと及び、形式的な理由を挙げて、『図面中の「<A>」「<B>」の記号は、単に説明するための記号ではない。』と主張する。 三.裁判所の判断 審決は、引用例の図面そのものを地図表示としてとらえ、その地図表示の中に始点<A>又は終点<B>が記載されていることを認定したものである。しかし、この図面は、引用例の実施例の技術的内容の説明のための図面にすぎず、地図として情報を提供するための図面でないのであるから、これを無条件に「地図表示」(地図として情報を提供するための表示)としてとらえることがそもそもの間違いである。更に、当業者にとって、引用例の図面中の「<A>」「<B>」の記号が地図表示の一部と理解するであろうと考えさせる資料は全証拠を検討しても見いだすことができない。 したがって、審決は、引用例の図面における「<A>」「<B>」が、これにより始端及び終端が特定される道路区間の交通情報の内容を表すものであると誤って認定し、その結果、引用例に記載された技術と本件発明1との一致点の認定を誤ったものであり、この相違点の認定の誤りは審決の結論に影響を与えることは明らかである。よって、審決を取り消さざるを得ない。 |
考察 |
判決では、形式的に出願発明と同一と認められる構成部分を有する先行技術があった場合(本件の場合、引用例中の図面)であっても、無条件に進歩性否定の資料とすることはできない旨を判示している。 一般に進歩性を否定する資料となる先行技術は、必ずしも当該先行技術文献の意図する資料のみである必要はなく、誤って提出された資料等であっても差し支えないと考えられる。進歩性の判断では、先行技術に基づき容易に創作されるか否かが問われており、基礎となる資料がその文献中の意図に沿うか否かは問題ではないからである。 したがって、本件の審理においては、引用例の図面が当業者にとって、本件発明1の創作上の示唆等となるか否かが検討されたものと考えられる。 かの検討が必要になると思われる。 つまり、引用例の図面の作図の意図がどうであれ、当該図面に「<A>」「<B>」の記号が記載されていることは事実であり、これに接した当業者が当該記号を「始端及び終端が特定される道路区間の交通情報の内容を表すもの」と容易に認識し、かつ、本件発明1の示唆と認識し得るか否かが問題となるからである。 本件については、上記の点で被告が細部まで明確にして争わなかった事情もあるが、本件のように、先行技術文献中に形式的に同一と認められる記載がある場合、どのような条件を充足すれば進歩性を否定するための資料となりうる。 以上
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