判例アラカルト5 |
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  | 5.方法の特許に使用する物の国内製造と方法の国外実施 |
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平成10年(ワ)第12875号 特許権侵害差止等請求事件 (大阪地裁 平成12年12月21日判決) 原告X1 原告X2 被告Y |
事案の概要 |
一.本件の経緯 原告X1は、特許第2610772号特許権(以下「事件特許」という)請求項1、14及び20に係る発明(以下「本件発明」という)を有している。 原告X2は、本件特許について専用実施権を有している。 被告Yは、遅くとも平成10年3月以降、ビス(3.4ジメチルベンジリデン)ソルビトールからなる「Gel All DX」という名称の商品(以下「被告製品」という)を日本国内で製造し、外国向けにのみ販売、輸出し、日本国内向けには販売していない。 原告X1、X2らが、被告Yに対し、被告製品は本件発明の方法の実施にのみ使用する物(請求項1の関係)または本件発明に係る物の生産のみに使用される物(請求項14及び20関係)であるから、それらの製造、販売は本件特許を侵害するものとみなされる(間接侵害)として、(1)被告製品の製造、販売等の差し止め、(2)被告製品の廃棄を求める、と共に、原告X1が(3)平成10年3月から同年12月24日までの被告製品の販売に係る損害賠償請求をした。 二.本件の争点 本件では、被告製品の特定(争点1)、被告製品は、本件発明の方法の実施又は本件発明に係る物の生産にのみ使用する物か(争点2)、先願優位の抗弁の成否(争点3)、権利濫用の抗弁の成否(争点4)、公知技術実施の抗弁の成否(争点5)、損害額(争点6)が争点とされた。 三.判決(主文) 原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。 |
判旨 |
一.間接侵害性について (1)被告Yが被告製品を、これまで外国向けにのみ輸出、販売し、日本国内向けに販売していないことは、当事者間に争いがない。 被告Yは、被告製品を構成する化合物であるビス(3.4ジメチルベンジリデン)ソルビトールを製造するに先立ち、法規定に基づく届出により指定され、告示されたこと及び「ポリオレフィン等衛生協議会」の会員であり、自主的に定めた基準に従っているが、この基準に前記ビスソルビトールは、平成9年3月以降の自主基準のリストに掲載されていないこと、また平成11年11月発行の被告の日本国内向け総合製品カタログには、被告製品が掲載されていないことが認められる。 従って、被告Yは今後も、被告製品を日本国内向けに製造、販売するおそれはないものと認める。 (2)原告X1は、被告製品が外国向けにのみ輸出、販売されるものであっても、特許法101条所定の「その物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)及び「その発明の実施にのみ使用する物」(特許法101条2号)に当たると主張する。 本来特許権は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものである(特許法68条)から、特許権侵害とされるべきものは、物の発明においては、その物の生産、販売等の行為であり、方法の発明においては、当該方法を使用して当該特許発明を実施する行為であるとするのが原則である(特許法2条3項)。 一方、特許権の効力の実効性を確保し、これに寄与するために、物の生産「にのみ」使用する物(特許法101条1号)及び方法の実施「にのみ」使用する物(特許法101条2号)の生産、譲渡等の行為を限定したものである。 前記のように、特許法101条は、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲で、その実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡される等の場合には、当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨に基づくものである。そこで、間接侵害行為をどこまで規制することが、特許権の不当拡張とならない範囲で特許権の効力の実効性を確保するものといえるかという観点を抜きにして考えられないというべきである。 ところで、日本国外において、日本で特許を受けている発明の技術的範囲に属する物を製造し、または方法を使用してその価値を利用しても、日本国内で有効な特許権を侵害することにはならない。従って、特許法2条3項にいう「生産」「実施」は日本国内のみと解すべきである。 また前記の外国の実施まで、本件特許の効力を拡張することは、原告X1が、外国の実施まで利益を享受しうることになり、不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。 従って、「その物の生産にのみ使用する物」における「生産」、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、日本国内におけるものに限られると解するのが相当であり、このように解することは、前記のような特許法2条3項における「生産」、「実施」の意義に整合するものというべきである。 |
考察 |
本件は、特許法101条1号、同2号に関する解釈について争われたものである。判旨にも示されているように、「業としてその物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)と、「業としてその発明の実施にのみ使用する物」(特許法101条2号)とされている。この場合において、本件特許は日本国内において業として実施されることを想定し、日本国外の実施については考慮されていない。当然のこと乍ら特許権は、日本国内においてのみ有効であり、他の国において有効であるとは言えない。 換言すれば、本件特許を日本国内で実施する場合に限り、条件付き(その物の生産のみ、その実施にのみ)で認められた「侵害とみなす行為」である。 従って、本件は、「その物の生産のみ」という本案の構成要件は充足しているけれども、本件特許の日本国内における実施という前提条件を欠いているので、特許法101条の規定は適用することができないとされた。 以上
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