判例アラカルト10

  目次
  はじめに
1.無効となることが明らかな特許権に基づく権利行使と権利濫用
2.形式的に技術的事項が一致する場合の発明の容易性
3.特許権侵害における主張と立証の問題点
4.職務発明における相当の対価
5.方法の特許に使用する物の国内製造と方法の国外実施
6.特許法102条2項における算出利益の意義
7.いわゆる真正商品の並行輸入における輸入者の注意義務
8.競走馬にパブリシティ権が認められるか
9.原材料表示の中に他人の登録商標を含むラベルの使用
10.不正競争防止法で規制されたドメイン名の使用


  10.不正競争防止法で規制されたドメイン名の使用
 
 事件の表示
平成10年(ワ)第323号 不正競争行為差止等請求事件
(富山地裁平成12年12月6日判決)
(名古屋高裁金沢支部平成13年9月10日判決 平成12年(ネ)第244号不正競争行為差止等請求控訴事件、平成13年(ネ)第130号同附帯控訴事件)
 原告X
 被告Y


 事案の概要
 (1)被告Yは「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする。「JACCS」という営業表示を有する原告Xが、被告Yによる右ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号、同2号)に当たるとして、右ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止めを求めた事案である。

 (2)被告Yは、簡易組立トイレの販売及びリース等を事業とする。
 イ)平成10年5月26日「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)の割り当てを受け、登録された。
 ロ)平成10年9月ころ以降、被告Yは、ホームページを開設し、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」等のリンク先が表示されており、リンク先の画面において、被告の扱う簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。
 ハ)その後、被告Yはホームページの画面を変更し、「ようこそJACCSのホームページへ」中の「JACCS」の下に「ジェイエイシーシーエス」とふりがなを記載するなどした。
 ニ)口頭弁論終結時における被告Yのホームページの画面には、画面上「JACCS」は記載されていなかった。

 (3)原告Xは、割賦購入あっせん等を主たる事業としている。


 判旨
 (1)判決では、被告Yの行為は、不正競争防止法2条1項2号に該当するとして、「被告は、そのホームページによる営業活動に、「JACCS」の表示を使用してはならない。被告は、平成10年5月26日受付の登録ドメイン名『「http://www.jaccs.co.jp』を使用してはならない」旨を判決した。
 (2)不正競争防止法2条1項1号、同2号の「商品等表示」に該当するか否かについては、「ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。」として、「ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると (5)また、平成14年1月施行の改正不正競争防止法では、イ)不正の利益を得る目的等で、ドメイン名を使用する解するのが相当であり、ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法2条1項1号、同2号所定の『商品等表示』の『使用』に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。」との判断をした。


 考察
 (1)不正競争防止法2条1項2号が適用されるためには、a)商品等表示であること、b)著名であること、c)著名表示と同一又は類似であることを条件とする。a)については前記判旨の通りであるが、c)の判断については、「『http://www.』『co.jp』は、・・・商品又は役務の出所を表示する機能はなく、要部とはいえず、本件ドメイン名と原告の営業表示が同一又は類似であるかどうかの判断は、要部である第三レベルドメインである『jaccs』を対象として行うべきである。」として、「JACCS」と「jaccs」とを対比し、「原告の営業表示と本件ドメイン名は類似する。」とした。
 (2)また、判決では、被告Yが企業家支援集団「japan associated cozy cradle society」の略称として本件ドメイン名を登録した旨主張しているが、『cozy cradle』(ここちよい揺りかご)と他の単語との結びつきはあまりに唐突であって、企業家支援集団が当該ホームページを開設している趣旨は全く表れておらず、・・・『JACCS』のみが強調されたかたちになっている。」として、「本件ドメイン名の登録後間もなく、・・・原告に対し、本件ドメイン名に関して金銭を要求していることからすれば、被告は、当初より、原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認せざるを得ない。」として退けた。
 また、被告Yは「完全な先願主義が採られているドメイン名の登録について先願申請の努力をしなかった原告が、自己の営業表示の著名性等を理由に、先願登録した被告の本件ドメイン名の使用を差し止めるのは権利の濫用である」「原告は『jaccscard.co』ドメインを使用してインターネットでの活動をしており、本件ドメイン名を使用できなくても不都合はない」旨主張するが、いずれも退けられた。
 (3)また、控訴審では、同趣旨の判断がなされ控訴は棄却されるると共に、附帯控訴が認められ、主文が「登録ドメイン名『jaccs.co.jp』を使用してはならない。」に変更された。
 (4)尚、ドメイン名の使用差し止めの判決を受けて、対象ドメイン名の登録は取り消され(JPNIC規則31条)、6ヶ月の凍結期間に入り、最後の1ヶ月が同時申請期間となり、複数申請があった場合には抽選等になる。先願、無審査のドメイン名の登録制度下では、原告Xが、取り消されたドメイン名を取得できる保証はなく、移転等の手段ができるよう考慮すべきであろう。
行為を不正競争行為と規定し(不正競争防止法2条1項12号)、ロ)ドメイン名を「インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号等」(不正競争防止法2条7項)と規定した。少なくとも、ドメイン名を悪用する行為に対して、商品等表示が否かを立証する必要なく、ドメイン名の悪用防止に役立つと思われるが、絶えず進化する「インターネット」の世界を法文で規定し固定化することには、疑問の声もある。
 また、今回の改正によっても、ドメイン名を不正に登録しただけの場合や、ドメイン名をURLの表示としてのみ使用していた場合に適用できるか疑問であり、何らかの手当が必要であろう。
以上

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鈴木正次特許事務所