判例アラカルト3 |
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  | 3.特許権侵害における主張と立証の問題点 |
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平成10年(ワ)10295号 特許権民事訴訟事件 (大阪地裁平成12年7月4日判決) 原告X 被告Y1 被告Y2 被告Y3 被告Y4 |
事案の概要 |
一.本件の経緯 原告Xは、特許第2573899号の特許権者である。 原告Xは、新相浦魚市場に設置されている海水浄化設備(以下「イ号物件」という。)は、本件発明の技術的範囲に属するところ、被告Y1、Y2、Y3及びY4に対して、本件特許権の侵害に基づき、連帯して損害金及び遅延損害金の支払を求め、被告Y2、Y3及びY4に対し、特許法第65条の規定に基づき、連帯して補償金及び遅延損害金の支払を求めた。 イ号物件は、本件発明の構成要件Aの「河川、湖沼等の被処理部の原液中に」以外の構成要件を充足する。 二.本件の争点 本件で当事者が集中して主張立証を行った主たる争点は、イ号物件は、本件発明の構成要件Aの「河川、湖沼等の被処理部の原液中に」の要件を充足するか否かである。(その他の争点は省略する。) 三.判決(主文) 原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
判旨 |
(1)本件発明の構成要件Aには、「河川、湖沼等の被処理部の原液」とあるが、その中にイ号物件における「凝集反応槽及び浮上分離槽にて浄化処理された後の循環液」が含まれるか否かは、特許請求の範囲の記載における文言上では必ずしも明らかでない。 (2)そこで、本件明細書の記載を検討すると、本件発明の構成要件Aの「河川、湖沼等の被処理部」(構成要件Fにおけるものも同じ)は、河川や湖沼のように、浄化対象とする液が、浮上分離用の特別の槽のない状態で存在している場所をいい、少なくとも浮上分離槽は含まれないものと解するのが相当であり、また、加圧気体が溶解される「河川、湖沼等の被処理部の原液」とは、被処理部に未浄化のまま存在している液をいうと解するのが相当である。 このように解することは、さらに本件発明の出願経過を検討することによっても裏付けられる。 Xは、拒絶理由通知に接して、引用例1及び2と本件発明との相違点として、?引用例では浮上分離槽内で浮上分離を行うのに対し、本件発明では河川や湖沼等の液中で浮上分離を行うこと、?引用例では浮上分離槽にて処理された後の循環液に加圧気体を溶解させているのに対し、本件発明では被処理部から汲み上げた原液に直接加圧気体を溶解すること、(?、?は省略する。)を指摘したものと認められる。 Xが、補正によって、加圧気体を混合させる液を「河川、湖沼等の被処理部の原液中に先端を位置付けられる吸液管・・・を介して汲み上げた原液」とし、供給管を「河川、湖沼等の被処理部の液中に位置付けられる」ものとした趣旨は、引用例に記載された公知技術との抵触を避ける趣旨に出るものであったと解するのが相当である。 (3)原告Xは、構成要件Aの「河川、湖沼等の被処理部」を狭く解すべきでないと主張とするが、本件発明の特徴が原告Xの主張のような構成にあるか否かはともかく、前記本件明細書の記載及び出願経過に照らせば、Xが、拒絶理由通知に示された引用例との差異として、本件発明が浮上分離槽での浮上分離を行うものでなく、本件発明が浮上分離槽での処理を経た循環液に加圧空気を混合させるものでないことをも明確に述べ、その趣旨を明らかにするために特許請求の範囲を始めとする明細書の記載を補正したことは明らかである。 (4)イ号物件は、汲み上げた海水を浮上分離槽に導入して、この浮上分離槽で浮上分離を行うものであると認められる。また、イ号物件において加圧空気を混合させる対象は、凝集反応槽及び浮上分離槽にて浄化処理された後の循環液であり、イ号物件目録添付図面によれば、この循環液は、そのまま魚市場内各所へ給水される処理水の一部を循環液として利用するものであることが認められる。 したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件Aの「河川、湖沼等の被処理部の原液」を充足していないというべきである。 |
考察 |
発明が、特許権の設定登録により権利として成り立った以上、その技術的範囲は客観的に確定すべきであり、出願人の主観的意図を参酌するのは相当でないという考え方がある。 しかし、特許請求の範囲の意義が明確に理解できない場合に限って出願経過を参酌できるとすれば、一般論としては狭きに失すると思われる。また、出願人の認識として手続上表明したことが審査官の判断によって認められ、特許査定に至った場合において、侵害訴訟でこれと異なる技術的範囲の解釈に基づいて相手方の侵害を主張することは、その解釈が特許請求の範囲の記載から理論的に可能であるとしても、民事法的秩序を支配する信義誠実の原則に著しく反するため、許されるべきでない。特に、拒絶理由通知に対し、拒絶を免れるための補正である場合には、拡張解釈は許されないとされている。 よって、特許権の行使は出願人が出願手続において表明し、特許庁が承認した限度に限定され、これと異なる技術的範囲の解釈に基づく原告Xの主張を認めなかった本件の判断は、妥当であるというべきである。 以上
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